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【第六部】長い夜の始まり
世界が羨む
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浩一は、シャワーを浴びたものの、その顔には疲労の色が浮かんでいる。
彼と英恵は、バスローブ姿で、ベッドにいた。
芽衣は、静かにスツールに座り直し、少しずつ水を飲みながらその黒い瞳で、ベッドの上の二人を見つめている。
(あと、一回)
英恵は、浩一の消耗した身体を見下ろす。
(ここで、この人を空っぽにする。あの子のターンで彼はもう反応できなくなるくらい)
英恵の作戦は明確だった。
「……浩一」
英恵は、夫の身体を優しく仰向けにして、自身の成熟した豊かな乳房を、浩一の胸に強く押し付けた。
「吸ってみせて……」
彼は、愛する妻のそれを口に含み、求めた。
彼女は、そこにいつもの彼を見た。
芽衣が、泥棒猫のように奪われる前の彼の姿がそこにあった。
だが、不思議とそれまでのような熱意が感じられない。
英恵は戸惑った。
彼の動きは平凡な作業、義務的な営みのようであった。
英恵は、彼の吸い付き、愛撫に息が荒くなり、汗まで浮かんできたが、その汗は快楽だけでなく、一つの後悔が混ざっていた。
(彼は、ここ数年、しばしばこうやって、わたしを愛してくれた。でも、彼の下半身は反応していない)
つまり、彼の妻への夜の愛撫は、彼の情欲を強く刺激するものではなかったのだ。
(だから、あの女に寝取られていたんだ)
英恵は、盗み見るように目線を芽衣の側に向けた。
すると、芽衣の目は英恵の目を捉えた。
慌てて目を逸らしながら、英恵は挑発するように彼に言った。
「ねえ、その姿。芽衣ちゃんに見られてるわよ」
浩一の身体が、こわばる。
少しだけ彼の下半身が動いているのが視認できた。
そこに嫉妬と安心のようなものが、同時に芽生えた。
かつての、いつものような形で、彼に身体を愛されながら、自身も浩一の肌をなぞり、キスを重ねていく。
(こんな睦み合いでは、彼は物足りないんだ)
二度の絶頂による疲弊が、彼のそれを限りなく弱らせていた。
英恵は焦った。
「浩一、見られるの好きなの?」
そう言って、彼のそれを撫でた。
少しだけ固くなってはいるが、充分ではない。
彼女は、浩一から身体を離すと、自分のナイトウェアの裾を捲り上げ、自らの秘部へと指を伸ばした。
「じゃあ……わたしもそうしてみようかしら?」
「英恵……?」
浩一と、スツールに座る芽衣が、妻の予期せぬ行動に身をこわばらせる。
「……うっん」
彼女は自身の内側を、中指でなぞっていく。
「わたし……我慢できなかった……。浩一ができないんだったら……一人でだって……」
英恵は、芽衣に見せつけるように、自らの指で快感を求め、潤んだ瞳で浩一を見つめた。
「ん……ん……。ねえ、芽衣ちゃん」
彼女は芽衣に顔を向けた。
「わ……わたしの味、どうだった? ……あ」
浩一は、妻の大胆な覚悟に、応えようと自らの中心に手を伸ばす。
だが、彼のそれは、その期待に応える熱を持たない。
(僕は……なんて情けないんだ。回復しない……!)
浩一が顔を歪める。
(一晩に二度ばかりの絶頂で終わりを迎えて、回復しなくなるなんて)
このままでは、時間だけが過ぎていく。
ここで芽衣が意地悪な笑みを浮かべながら、冷たい声で告げた。
「──残り十分」
彼は、英恵の顔に、快楽と不安の色が浮かんでいるのを見て、罪悪感のようなものを覚えた。
「あなた……っ」
英恵も、切なげな声を漏らしながら、黒い髪を左右に振っていた。
(彼を絶頂させられなければ、このラウンドは無得点に終わってしまう)
芽衣はそれを見て、内心で笑っていた。
(こうなることはわかっていました。先生、そんなに何度もは無理だって。それはこの半年ほどの情事で、確認しました。先生はこれまで、二度が限界でした。それからは何をどうしても不可能だったんです)
彼女も彼が二度目を終えた後、「まだ、時間がありますよ、先生」と言って、あの和室で、彼の目の前で、今の英恵と同じことをしたことがある。
目の前で何度も喘ぎ、激しく音を立てながら、畳の上で狂おしく、「先生、生徒がこんなに助けを求めているのに、責任取ってくれないんですかっ」と声を上げても、その日の彼は、それ以上もう大きくならなかった。
(だから、このルールにしたんです。私と、英恵さんとで一回ずつ。決着なんて、つくはずがないの)
芽衣の作戦は、決着をつけることにあるのではない。
この勝負を、引き分けに持っていき、同じ勝負を延々と繰り返すことにあったのだ。
(そうしたら、そのうち先生はこの刺激から抜けられなくなる。事によっては英恵さんだって、そうなるかもしれない)
芽衣は、そうなった時のことを想像して、身体の芯が熱くなってきた。
(私は、ここでお二人と、どんなリクエストよりも官能的な体験を広げていくの)
彼女の頭の中で、いくつものシチュエーションが浮かんでくる。
夫婦の前で、愛人が夫と身体を重ねて、慕情を囁く。
あるいは、愛人の前で夫婦が愛し合う。
それが常習化して、ついには三人が一緒になる。
ゆくゆくはこれを夫に知らせて、四人。
(そして──十年もしたら、私たちみんなの、子供たちと、六人も仲良くするの。そんな『源氏物語』もびっくりな関係を、人類の『作品』にしたいんです)
彼女は、一千年も語り継がれる性的な恋愛文学を超えた、新しい芸術作品を作ろうと考えていた。
──どこまでも、在らん限りの快楽を追求したい。
そう思うだけで、芽衣の目は、うっとりしていく。
(あ、いけません)
彼女は時計を見て、告げた。
「──残り十分」
浩一も、英恵も哀れなほど、彼の下半身に手を尽くしているのが見える。
(今、目の前のお二人の行為は、その皮切りに過ぎないんです。だから……無理はしないでくださいね)
それを人類が、悪魔的な冒涜と見なすかどうかはわからない。
でも、この歪んだ関係を羨む人間は、世界中にいるはずだ。
(先生、『日本の未来は、世界が羨む、恋をしようじゃないか』って、昔の人が歌っていましたよね。今が、その『未来』なんです)
英恵の自慰行為が小さな痙攣と同時に終わる頃、芽衣も自分の肌に触れて吐息を漏らしていた。
「はい──残りゼロとなりました」
彼の局部は、まだ回復していなかった。
彼と英恵は、バスローブ姿で、ベッドにいた。
芽衣は、静かにスツールに座り直し、少しずつ水を飲みながらその黒い瞳で、ベッドの上の二人を見つめている。
(あと、一回)
英恵は、浩一の消耗した身体を見下ろす。
(ここで、この人を空っぽにする。あの子のターンで彼はもう反応できなくなるくらい)
英恵の作戦は明確だった。
「……浩一」
英恵は、夫の身体を優しく仰向けにして、自身の成熟した豊かな乳房を、浩一の胸に強く押し付けた。
「吸ってみせて……」
彼は、愛する妻のそれを口に含み、求めた。
彼女は、そこにいつもの彼を見た。
芽衣が、泥棒猫のように奪われる前の彼の姿がそこにあった。
だが、不思議とそれまでのような熱意が感じられない。
英恵は戸惑った。
彼の動きは平凡な作業、義務的な営みのようであった。
英恵は、彼の吸い付き、愛撫に息が荒くなり、汗まで浮かんできたが、その汗は快楽だけでなく、一つの後悔が混ざっていた。
(彼は、ここ数年、しばしばこうやって、わたしを愛してくれた。でも、彼の下半身は反応していない)
つまり、彼の妻への夜の愛撫は、彼の情欲を強く刺激するものではなかったのだ。
(だから、あの女に寝取られていたんだ)
英恵は、盗み見るように目線を芽衣の側に向けた。
すると、芽衣の目は英恵の目を捉えた。
慌てて目を逸らしながら、英恵は挑発するように彼に言った。
「ねえ、その姿。芽衣ちゃんに見られてるわよ」
浩一の身体が、こわばる。
少しだけ彼の下半身が動いているのが視認できた。
そこに嫉妬と安心のようなものが、同時に芽生えた。
かつての、いつものような形で、彼に身体を愛されながら、自身も浩一の肌をなぞり、キスを重ねていく。
(こんな睦み合いでは、彼は物足りないんだ)
二度の絶頂による疲弊が、彼のそれを限りなく弱らせていた。
英恵は焦った。
「浩一、見られるの好きなの?」
そう言って、彼のそれを撫でた。
少しだけ固くなってはいるが、充分ではない。
彼女は、浩一から身体を離すと、自分のナイトウェアの裾を捲り上げ、自らの秘部へと指を伸ばした。
「じゃあ……わたしもそうしてみようかしら?」
「英恵……?」
浩一と、スツールに座る芽衣が、妻の予期せぬ行動に身をこわばらせる。
「……うっん」
彼女は自身の内側を、中指でなぞっていく。
「わたし……我慢できなかった……。浩一ができないんだったら……一人でだって……」
英恵は、芽衣に見せつけるように、自らの指で快感を求め、潤んだ瞳で浩一を見つめた。
「ん……ん……。ねえ、芽衣ちゃん」
彼女は芽衣に顔を向けた。
「わ……わたしの味、どうだった? ……あ」
浩一は、妻の大胆な覚悟に、応えようと自らの中心に手を伸ばす。
だが、彼のそれは、その期待に応える熱を持たない。
(僕は……なんて情けないんだ。回復しない……!)
浩一が顔を歪める。
(一晩に二度ばかりの絶頂で終わりを迎えて、回復しなくなるなんて)
このままでは、時間だけが過ぎていく。
ここで芽衣が意地悪な笑みを浮かべながら、冷たい声で告げた。
「──残り十分」
彼は、英恵の顔に、快楽と不安の色が浮かんでいるのを見て、罪悪感のようなものを覚えた。
「あなた……っ」
英恵も、切なげな声を漏らしながら、黒い髪を左右に振っていた。
(彼を絶頂させられなければ、このラウンドは無得点に終わってしまう)
芽衣はそれを見て、内心で笑っていた。
(こうなることはわかっていました。先生、そんなに何度もは無理だって。それはこの半年ほどの情事で、確認しました。先生はこれまで、二度が限界でした。それからは何をどうしても不可能だったんです)
彼女も彼が二度目を終えた後、「まだ、時間がありますよ、先生」と言って、あの和室で、彼の目の前で、今の英恵と同じことをしたことがある。
目の前で何度も喘ぎ、激しく音を立てながら、畳の上で狂おしく、「先生、生徒がこんなに助けを求めているのに、責任取ってくれないんですかっ」と声を上げても、その日の彼は、それ以上もう大きくならなかった。
(だから、このルールにしたんです。私と、英恵さんとで一回ずつ。決着なんて、つくはずがないの)
芽衣の作戦は、決着をつけることにあるのではない。
この勝負を、引き分けに持っていき、同じ勝負を延々と繰り返すことにあったのだ。
(そうしたら、そのうち先生はこの刺激から抜けられなくなる。事によっては英恵さんだって、そうなるかもしれない)
芽衣は、そうなった時のことを想像して、身体の芯が熱くなってきた。
(私は、ここでお二人と、どんなリクエストよりも官能的な体験を広げていくの)
彼女の頭の中で、いくつものシチュエーションが浮かんでくる。
夫婦の前で、愛人が夫と身体を重ねて、慕情を囁く。
あるいは、愛人の前で夫婦が愛し合う。
それが常習化して、ついには三人が一緒になる。
ゆくゆくはこれを夫に知らせて、四人。
(そして──十年もしたら、私たちみんなの、子供たちと、六人も仲良くするの。そんな『源氏物語』もびっくりな関係を、人類の『作品』にしたいんです)
彼女は、一千年も語り継がれる性的な恋愛文学を超えた、新しい芸術作品を作ろうと考えていた。
──どこまでも、在らん限りの快楽を追求したい。
そう思うだけで、芽衣の目は、うっとりしていく。
(あ、いけません)
彼女は時計を見て、告げた。
「──残り十分」
浩一も、英恵も哀れなほど、彼の下半身に手を尽くしているのが見える。
(今、目の前のお二人の行為は、その皮切りに過ぎないんです。だから……無理はしないでくださいね)
それを人類が、悪魔的な冒涜と見なすかどうかはわからない。
でも、この歪んだ関係を羨む人間は、世界中にいるはずだ。
(先生、『日本の未来は、世界が羨む、恋をしようじゃないか』って、昔の人が歌っていましたよね。今が、その『未来』なんです)
英恵の自慰行為が小さな痙攣と同時に終わる頃、芽衣も自分の肌に触れて吐息を漏らしていた。
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