貴方のことは好きだけど…

ぽぽ

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貴方といたいけど

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ある日

恵麻は使用人に声をかけられ、ある場所に連れてこられた

恵麻だけ出かけるというのも珍しい
出かけるといえば、伊織の付き添いで着物を仕立ててもらうくらいだ

どこに向かうかというのも知らされておらず、車の窓からキョロキョロと外を眺める
信号待ちをしている間、手を繋ぎながら微笑みあっているカップルを見かけて、あれが普通なのか

あんな関係である自分達は異常なのかと感じてしまう

使用人が運転する車に乗りついた場所は産婦人科だった

「なぜここへ…」

伊織とも体を重ねたことがなく、体調を崩したような覚えもない
なぜここに連れてこられたのか、なんとなく察しがついた

「奥様は伊織様との間に後継を作られるのですから、後継が作れる体なのかどうか検査をして頂きます」

恵麻はその言葉を聞いた瞬間、強い不安に駆られた
結婚してからしばらく子供の話は出なかった
ため、安心をしていたが2人の様子を見た伊織の父秀仁は痺れを切らして使用人に連れて来させた

直接的な話は伊織と恵麻へとされていないが、金剛家の人間からも子供ができることが条件とされており、できないのであればもう用のない存在として扱われるということはすでに理解している

つまり、恵麻はこの結果次第で離婚させられ金剛家から去ることを意味している

息を飲み、使用人の後ろを歩きながら産婦人科へと入っていく

緊張が隠せず、体を震わせるため、使用人に体調が悪いのかと声をかけられるほどだった
一通りの検査を受け数十分、看護師から名前を呼ばれ、恵麻は大きく肩を震わせた

胸に手を当てながら、自分の心を落ち着けようと必死になるが、それは逆効果となり余計に呼吸を荒くした

恵麻はゆっくりと立ち上がり、診察室に向かおうとすると使用人が後ろについてきたため、まずは1人で結果を聞きたいと伝え病室の中へと入っていた

この道30年と言われているベテラン産婦人科医は椅子の背もたれに背を預けながら、カルテを片手に持つ

「では…まず結果からですが…」


恵麻は検査の結果を聞き、診察室から出てくる
使用人は結果がいち早く知りたいため、恵麻の元に歩み寄り問いかけた

「結果はどうでしたか」

「一度……一度伊織様に報告してからお伝えするような形でもよろしいですか?」

恵麻は弱々しい声で使用人に対して言葉を返す
早く結果を知り金剛家の者に伝えなければいけない使用人は前を歩く恵麻を目を細めて鋭い視線を向けた
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