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新たな日常
しおりを挟む金剛家の家の中からはドタドタと騒がしい音が響く。その他に物が倒れる音なども響いていた。
「こら!!奏、祐、暴れちゃいけませんよ」
広い廊下を自由に駆け回る男児2人の前に、着物姿の恵麻がこれ以上先に行かせないと、両腕を広げると、抱擁をしようとしているのだと勘違いして2人とも恵麻を取り合うように抱きつく。
「母様は僕のだぞ!」
「違う!母様は僕のことだけが好きなんだ」
あれから数年、子供が生まれない可能性が高いといわれていた恵麻であったが、双子の男児を出産した。
二卵性の双子で兄の奏は少し気が強く、よく弟の祐を泣かせているが、出かけた際に祐が遅れて歩いていると手を繋いで一緒に歩いたり、自分の遊んでいるおもちゃを貸してと言われたら貸してあげたりと優しい一面を持っている。
一方の祐は泣き虫の甘えん坊で、母親である恵麻には常にべったりとくっついている。顔は幼少期の恵麻にそっくりで周りの人からはお人形さんみたいに可愛いと言われるが、それが嫌なのか、いじけてまた恵麻に甘えるのが恒例だ。
奏は伊織、祐は恵麻に似たような性格になった。
「祐、私は2人がとっても大好きなの
だからどちらか1人だけ好きなんて事はないわ
だって選べないもの」
「僕も母様大好き!!」
「僕も!!」
恵麻は頬を綻ばせて、床に膝をつくと2人をきつく抱き締める。
奏と祐は腕の中でキャッキャっと楽しげな声を上げた。奏と祐が恵麻の頬へと左右から同時にキスをする。
数年前まで愛しい存在が一気に2人も増えるなんて想像もできなかった。騒がしい日々だけど幸せが溢れている。
「でも、2人ともちょっと騒がしいわよ?
前にお爺さまに静かにしろと叱られたばかりでしょ?」
双子の祖父にあたる秀仁は、恵麻に子供が生まれると知った際、後継ができたことには安堵しているようだったが、そこまで大きな反応を見せる事はなかった。
恵麻の子供だから期待していなかったという点も大きい。
しかし、いざ2人が生まれると愛着が生まれたようで異能名家の当主として、よく修行と題してどこかに連れ出している。
帰ってくると、2人は泥だらけになりながら片手にはお菓子やらアイスやらを持って帰ってくることがあるため、秀仁が褒美として買い与えているのではないかと伊織から恵麻へと伝えられた。
金剛家の者には見せない顔を2人に見せているようで、お爺さまは厳しいけど優しいという言葉を双子はよく口にした。
他人や家族でさえ興味を持たない秀仁しか見てこなかった伊織と恵麻はその言葉が信じきれなかったが、2人をみる秀仁の目が少し緩むところを見ると事実のようだった。
「「はあい」」
2人は揃って間伸びした返事をすると、恵麻の首元に抱きついて、頬同士をピッタリとくっつける。
「母様、お出かけしたい」
「お出かけしようよ~」
可愛らしいと感じていたのも束の間、それはおねだりの合図だったようだ。
「これから家庭教師の先生が来るでしょ?だめよ」
「やだやだ!!勉強なんて嫌いだ」
奏は恵麻の耳元で大きな声を出して反抗をする。
奏を引き離そうとするも、首元に強く抱きついて離れない。
「母様の意地悪…」
裕の長くふさふさのまつ毛に覆われた大きな目は徐々に潤んでいき、恵麻の着物の裾を小さな手でギュッと掴んで恵麻の瞳をじっと見つめる。
恵麻は祐のその目に弱く、思わずじゃあ今日はお休みしましょうなんて言って甘やかしそうになる感情を抑え込む。
「おい、クソガキども」
頭上から怒気の含まれた声がしたかと思うと、恵麻に抱きついていた双子の体がふわっと浮かび上がる。
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