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しおりを挟む私は片手で胸を押さえながら、レジ越しの女性店員さんをちらりと見た。
すると、彼女は明らかに驚いた表情でこちらを見ていて、次の瞬間、はっとしたように頬を赤らめた。
……わかる。
その気持ち、すごくわかる。
「ねえ、俺が払いたい。ダメ?」
伊藤くんは、子犬みたいな潤んだ瞳でそう言ってくる。
そんな目で見つめられたら、胸の奥がキュンキュンと鳴り止まない。
「でも……さっきも払ってもらったし、さすがに出し続けてもらうのは……」
遠慮がちにそう言うと、伊藤くんは少しだけ肩をすくめて、さらっと言った。
「俺が、ユイさんの前でカッコつけたいだけだから」
……言葉までイケメンなのは反則だと思う。
私は完全に固まってしまった。
「え……」
「ユイさん、さっきのセリフ、俺にください」
「い、いや……あの……」
頭が追いつかないまま言葉を探していると、彼は一歩近づいてきて、耳元に小さく囁いた。
「先に、あそこで待っててもらってもいい?」
低くて優しい声が、耳に直接落ちてくる。
胸の中のキュンキュンが、これでもかというほど鳴り響く。
……デートって、こんなものなの?
もしそうなら、刺激が強すぎる。
これ以上は、本当に心臓がもたない。
小さく頷いて、私はぎこちない動きのままベンチに向かい、無駄に背筋をピンと伸ばして座った。
男性に奢ってもらうなんて、いつぶりだろう。
思い返してみれば、学生時代、アルバイト先のおじさん店長が「これでも飲め」と仕事終わりに奢ってくれたジュース以来かもしれない。
……比較対象がそれなのも、どうなんだろう。
伊藤くんが戻ってきたのが見えて、慌てて立ち上がると、
「なんでそんな姿勢よくして待ってるの?」
そう言って、くすっと笑われてしまった。
伊藤くんが持っている、ジュースの載ったトレーを受け取ろうと手を伸ばすと、さっと避けられる。
「ユイさん、申し訳ないんですけど、
俺の上着の胸ポケットからチケット取ってもらっていいですか?」
確かに、両手が塞がっている彼には無理だ。
……理屈はわかる。
でも。
こんなイケメンの胸ポケットに手を伸ばせるほど、私に度胸はない。
「じゃ、じゃあ、私がジュースを……」
「お願いです。取ってください」
揶揄うような瞳で見つめられて、口元が少しだけ上がっている。
まるで恋愛ドラマのワンシーンみたいだ。
こんなことが現実で起こるなんて、今まで考えたこともなかった。
仕方なく、震える手を伸ばす。
彼の身体や、きっと高そうな服には触れないように細心の注意を払いながら、胸ポケットから少しはみ出たチケットを、慎重に抜き取った。
その様子を見て、伊藤くんは声を出さずに笑った。
……最初から、ずっと私の反応を楽しんでる。
緊張がまったく解けないまま、私たちは暗い映画館の中へ入っていく。
「ユイさん、足元気をつけてください」
「あ、はい……」
「俺、この前ここで躓いて、転びそうになったんですよ」
「え?」
しっかりしてそうなのに、そんな一面があるなんて。
その姿を想像してしまい、思わず笑いそうになる。
慌てて下を向き、必死にこらえていると、
「あ、笑いそうになってる。ひどいなあ」
「ち、違っ……!」
傷つけてしまったかと思って顔を上げると、なぜか彼は微笑んでいた。
「え……?」
「嘘。ユイさんが笑ってくれたの、嬉しかっただけ」
その笑顔が、あまりにも綺麗で、思わずため息が出そうになる。
スクリーンではちょうど予告が流れていて、しばらくぼんやりと眺めていると、ようやく本編が始まった。
暗闇の中、隣に座る伊藤くんの存在を、やけに強く意識しながら。
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