冴えない女なのに美男子に言い寄られてます。

ぽぽ

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「もうすっかり夕方だね!意外とあっという間って、あっ」

「おっそ」


振り返った瞬間、そこに立っていたのは――蓮介くんだった。

 
「は?なんで蓮介がいんの?」


水族館の入り口前。
片手にはタバコの箱とライター。いかにも“今抜けてきました”って感じの姿。


「え?何でって、俺いちゃダメだった?」

「別にいちゃダメとは言ってない。
なんでここにいるのかって俺は聞いてるの」

「んー……暇だったから??」


わざとらしく視線を上に向けて考えるふりをしたあと、私たちを見てニカッと笑う。


「てか、萌はどうした?」

「あー、萌なら疲れたからって近くのカフェで休んでる」

「だったら蓮介も一緒にいればいいじゃん」

「俺はこれ休憩に抜けてきたんだわ。
で、たまたま2人が見えたからさ。待ち伏せしちゃった~」

 
そう言って、タバコとライターをひらひらと見せる。


「だったら早く戻ればいいじゃん」


伊藤くん、さっきから本当に冷たい。私といる時とは様子が違う。


「さっきから友達に対して冷たいな~環君は。
ユイさんに嫌われちゃうよ?」

 
口元に笑みを浮かべながら、私を指さす。

その瞬間、伊藤くんが一瞬だけ地面を見る。
何かを考えているみたいな、少し複雑そうな顔。

その隙をつくように、蓮介くんが私の方へ近づいてきた。

 
「ねえ、ユイさん?」

 
気づいた時には、肩に腕を回されていた。
さっきまで吸っていたのか、タバコの匂いと、蓮介くんの甘い香りが一気に近づく。

いきなりの至近距離。
身体が勝手に縮こまって、固まってしまう。


「そう思うよね?さっきから俺に冷たいよね?」

「え……えっと……」

 
声がうまく出ない。

 
「ユイさん、困ってるから離れろ」


低くてはっきりした声。

伊藤くんが蓮介くんの腕を掴んで、私から引き離す。

はあ……よかった。
緊張で本当に息が止まるかと思った。

蓮介くんはケロッとした顔で、ズボンの後ろポケットから携帯を取り出す。


「あ、萌から連絡きた」

「なんて?」

「早く帰るぞ、だって」


そう言いながら、伊藤くんにだけ画面を見せて笑う。
私には見えない角度。

……私に見せられない内容?
でもまあ、プライベートだよね。
私だって優香とのやりとり見せてって言われたらちょっと困るし。


「じゃあ、俺帰るから。
あとは2人でゆっくりね~」


片手をひらひら振って去っていく。

その背中を見送ったあと、伊藤くんは深くため息をついた。


「はあ……ごめん。
ユイさん、あいつ面倒くさいよね。
あんまり近づかないように言っておくから」

「ううん!大丈夫!」


本当に大丈夫かはわからないけど、とりあえず笑ってみせる。

伊藤くんは腕時計を確認すると、横目でちらっと私を見る。


「で、ユイさん。
その……これからまだ時間ってあったりする?」

「時間?うん、まだ大丈夫だよ」

「じゃあ、もうちょっとだけこの辺歩かない?」

「うん、いいよ」


水族館は海沿いにある。
遠くには家族連れやカップル。
手をつないで歩く姿が、なんだか映画みたいで。


「ユイさん、なんか嬉しそうだね。
向こうになんかあった?」

「あ、え?私そんな顔してた?」

 
慌てて自分の頬に手を当てる。

 
「いや、あっちの家族連れとかカップルが幸せそうで……いいなって思って」

「そうなんだ。確かに幸せそうだね」


そう言う伊藤くんの目は、少しだけ冷めて見えた。
気のせいかもしれないけど。

そのあと、砂浜を並んで歩く。
波の音だけが響く。

会話が途切れて、少し気まずい空気。

何か話さなきゃ――と思ったその時。


「ねえ、ユイさん」

「ん?どうしたの?」

「靴紐、解けてる」

「あ、本当だ」

下を見ると、確かにほどけていた。
今日はたくさん歩くと思ってスニーカーにしてきたけど、まさかこんなところで。

しゃがもうとした瞬間。

「いいよ」

伊藤くんが、私の前にしゃがみこんだ。
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