1 / 105
好きな人との幸せな日々
しおりを挟む菊池菫は7歳の頃、初恋をした。
その相手は隣に引っ越してきた6歳年上のお兄さん。
13歳とは思えない、すらっと伸びた長い足に端正な顔立ち。
菫の近所に住む婦人たちも彼の姿を見て、色めきだった。
色素の薄い茶色の髪とアーモンド色の瞳はモデルであった母から受け継いだものらしく、引っ越し当日、トラックから荷物を運び出す彼の姿を家の窓から眺めていると、茶色の髪が太陽に照らされてキラキラと光っていたのを菫は覚えている。
彼が家族揃って菫の家へと挨拶に来た時は、母の背中に隠れながらチラチラと彼へと視線を送り続けていたことに彼が気付いたようで菫と同じ高さの視線になるようにしゃがみ込み柔らかい笑みを向けた。
2人の視線が初めて合わさった瞬間だ。
「はじめまして、花崎蒴です
よろしくね?」
菫はその笑顔のあまりの美しさに目を丸くした。
母親の洋服を手のひらで強く掴みながら背中に顔を隠す。
「ごめんなさい、この子人見知りで」
菫の母親が困ったような声を出しながら謝る。
普段、そこまで人見知りをするわけではない。
だが、目の前の美形家族を前にしたら菫が戸惑うのも無理はなかった。
大人たちが会話を繰り広げる中、菫は目の目にいる蒴に目を奪われていた。
男性ような凛々しさがありながら、女性のような繊細さも持つその中世的な顔立ちに子供でさえも目が引かれる存在。
「いえいえ、小さい頃なんて人見知りして当たり前じゃないですか」
蒴の凛々しさの理由は父親からの遺伝であることがわかる。
ホリの濃い顔立ちに口元と顎に生える整えられた髭、筋肉質な大きい体。
ワイルドという言葉が似合う男だ。
「女の子はやっぱり可愛いですね
お名前はなんていうの?」
蒴と同じ色の髪と瞳を持つ美女はラベンダーのような香りをさせながら、菫へと近づく。
にっこりと微笑むと目尻に小さな皺が寄る。
その優しい笑顔に菫はすこし警戒心を解いて、消えいるような声で答える。
「……す、すみ…れ」
「ん?すみちゃん?」
「母さん、すみじゃなくてすみれちゃんだよ」
「あら、ごめんなさい
すみれちゃんね?」
菫は母の背中に隠れながら首を何回か縦に動かした。
その姿に蒴の母親である恵は"可愛い!たまらない!女の子欲しくなっちゃう"と言って頬を綻ばした。
大人同士でしばらく世間話をしている間も、菫は蒴に気づかれないように視線を送っていた。
だが、蒴はそれをかくれんぼでもしたいのだと勘違いして、菫と視線があうと”見つけた!”と声を出さずに口だけ動かして菫に笑顔を向ける。
菫自身はかくれんぼをしている覚えは一切ないが、蒴が構ってくれることに対して嬉しさと似たときめきのようなものを感じた。
初めて感じるその感覚がなんなのかはわからない心臓は激しく動いているが、緊張とは違う胸の高鳴りを感じる。
周りのクラスメイトの男子に対しては何も感じたことがないのに。
そして、大人たちの世間話も終わり、花崎家が帰る時になった時、蒴が菫の目線にしゃがみ込んで菫へと視線を向ける。
「またね、菫ちゃん」
微笑みながら手を振る蒴の姿を見ながら、固まってしまった菫は母に背中をトントンと押されて母の前に出される。
せめて礼儀として何か言えという母からの無言の圧力を感じて菫は小さい口を開く。
「ま、また…ね…」
うまくは言えなかったが、蒴はようやく話してくれた菫に対して美しい笑顔を向けた。
その日以来、菫は蒴に夢中になっていった。
70
あなたにおすすめの小説
幼馴染の許嫁
山見月あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。
彼は、私の許嫁だ。
___あの日までは
その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった
連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった
連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった
女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース
誰が見ても、愛らしいと思う子だった。
それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡
どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服
どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう
「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」
可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる
「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」
例のってことは、前から私のことを話していたのか。
それだけでも、ショックだった。
その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした
「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」
頭を殴られた感覚だった。
いや、それ以上だったかもしれない。
「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」
受け入れたくない。
けど、これが連の本心なんだ。
受け入れるしかない
一つだけ、わかったことがある
私は、連に
「許嫁、やめますっ」
選ばれなかったんだ…
八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。
好きな男子と付き合えるなら罰ゲームの嘘告白だって嬉しいです。なのにネタばらしどころか、遠恋なんて嫌だ、結婚してくれと泣かれて困惑しています。
石河 翠
恋愛
ずっと好きだったクラスメイトに告白された、高校2年生の山本めぐみ。罰ゲームによる嘘告白だったが、それを承知の上で、彼女は告白にOKを出した。好きなひとと付き合えるなら、嘘告白でも幸せだと考えたからだ。
すぐにフラれて笑いものにされると思っていたが、失恋するどころか大切にされる毎日。ところがある日、めぐみが海外に引っ越すと勘違いした相手が、別れたくない、どうか結婚してくれと突然泣きついてきて……。
なんだかんだ今の関係を最大限楽しんでいる、意外と図太いヒロインと、くそ真面目なせいで盛大に空振りしてしまっている残念イケメンなヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりhimawariinさまの作品をお借りしております。
思わせぶりには騙されない。
ぽぽ
恋愛
「もう好きなのやめる」
恋愛経験ゼロの地味な女、小森陸。
そんな陸と仲良くなったのは、社内でも圧倒的人気を誇る“思わせぶりな男”加藤隼人。
加藤に片思いをするが、自分には脈が一切ないことを知った陸は、恋心を手放す決意をする。
自分磨きを始め、新しい恋を探し始めたそのとき、自分に興味ないと思っていた後輩から距離を縮められ…
毎週金曜日の夜に更新する予定ですが、時々お休み挟みます
夫が運命の番と出会いました
重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。
だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。
しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?
会社のイケメン先輩がなぜか夜な夜な私のアパートにやって来る件について(※付き合っていません)
久留茶
恋愛
地味で陰キャでぽっちゃり体型の小森菜乃(24)は、会社の飲み会で女子一番人気のイケメン社員・五十嵐大和(26)を、ひょんなことから自分のアパートに泊めることに。
しかし五十嵐は表の顔とは別に、腹黒でひと癖もふた癖もある男だった。
「お前は俺の恋愛対象外。ヤル気も全く起きない安全地帯」
――酷い言葉に、菜乃は呆然。二度と関わるまいと決める。
なのに、それを境に彼は夜な夜な菜乃のもとへ現れるようになり……?
溺愛×性格に難ありの執着男子 × 冴えない自分から変身する健気ヒロイン。
王道と刺激が詰まったオフィスラブコメディ!
*全28話完結
*辛口で過激な発言あり。苦手な方はご注意ください。
*他誌にも掲載中です。
大好きな彼の婚約者の座を譲るため、ワガママを言って嫌われようと思います。
airria
恋愛
「私、アマンド様と愛し合っているの。レイリア、本当にごめんなさい。罪深いことだとわかってる。でも、レイリアは彼を愛していないでしょう?どうかお願い。婚約者の座を私に譲ってほしいの」
親友のメイベルから涙ながらにそう告げられて、私が一番最初に思ったのは、「ああ、やっぱり」。
婚約者のアマンド様とは、ここ1年ほど余所余所しい関係が続いていたから。
2人が想い合っているのなら、お邪魔虫になんてなりたくない。
心が別の人にあるのなら、結婚なんてしたくない。
そんなわけで、穏便に婚約解消してもらうために、我儘になってナチュラルに嫌われようと思います!
でも本当は…
これは、彼の仕事の邪魔にならないように、自分を抑えてきたヒロインが、我儘に振る舞ううちに溺愛されてしまう物語。
すれ違う思い、私と貴方の恋の行方…
アズやっこ
恋愛
私には婚約者がいる。
婚約者には役目がある。
例え、私との時間が取れなくても、
例え、一人で夜会に行く事になっても、
例え、貴方が彼女を愛していても、
私は貴方を愛してる。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 女性視点、男性視点があります。
❈ ふんわりとした設定なので温かい目でお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる