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しおりを挟む二人はその日から恋人という関係になった。しかし、光はただ朝陽を受け入れたわけではない。条件を提示した。光が出した条件はどれも、普通の恋人関係ではあり得ないようなものだった。
束縛しないこと。
嫉妬をしないこと。
もし嫉妬したとしても、決して本人の前で感情をぶつけないこと。
光が他の女と一緒にいたとしても文句を言わないこと。
そして、もし光が付き合いたいと思う相手が現れた時は、その瞬間に未練を残さず身を引くこと。
そうした条件を突きつけたのには理由があった。光は容姿が優れていたせいで、昔から常に女に囲まれていた。彼女と別れたという噂が広まれば、待ってましたとばかりに光を狙う女が次から次へと寄ってくる。中には今付き合っている彼氏をあっさり切り捨て、光のもとにやって来るような女すらいた。
光自身は来る者拒まずというスタンスをとっていた。自分の許容範囲に入る容姿であれば、どんな女でも自分が誰とも付き合ってないのであれば受け入れた。だが、そうした態度はやがて彼女たちを不安にさせ、束縛や干渉を生み、結果として光にとっては鬱陶しいものとなっていった。
だからこそ、朝陽に対して最初から条件を突きつけたのだ。どうせ他の女と同じように、時間が経てば束縛を始め、感情をぶつけてくるだろう。そうなれば面倒くさくなった時点で別れればいい。光はその程度に考えていた。
それから十年。
気づけば共に過ごした年月が積み重なっていた。光はふと、これまでを振り返ることが増えていた。
芸能界という世界は、想像していた以上に厳しかった。華やかなイメージとは裏腹に、見た目が良いからといってすぐに売れるわけではない。むしろ、そこで散々思い知らされてきた。最初の頃は一人分の生活費すら稼げず、情けなさに歯噛みしながら朝陽に金を工面してもらう日々が続いた。
朝陽は光をそばにいる時はどんな扱いをされようと温かく光を見守っていた。オーディションがうまくいかない日は八つ当たりなどをしたこともあったが朝陽は光の傍から離れることはなかった。
光の家庭の事情を知っていた人間は限られている、その中の一人が朝陽だった。だが朝陽は、光の過去を誰かに言いふらすこともなく、ただ黙って光を支えた。その沈黙と献身が光にとっては何より救いになっていた。
仕事が決まらない日々も、休む暇なくアルバイトを掛け持ちし、眠る時間を削って演技の勉強に打ち込んだ。心が折れそうな時も、傍らにいた朝陽は言った。
「光くんは、どんな道にでも進めばいい。僕がその分稼いで、君たちを絶対に幸せにするから」
その言葉は、光の心を静かに揺さぶった。その時は「根拠もないのにそんなこと言うな」と光は言ったが、こいつなら本当にそうするんだろうという根拠のない説得力があった。
そして、光が弟たちの将来を背負っているように、朝陽も光だけでなく、その弟たちまで思いやってくれていた。その事実は、胸の奥をほんの少し温かくした。朝陽はそれを行動で示すような顔、光と共に児童養護施設を訪れる際は両手にいっぱいの弟達への差し入れを持ち込んでいた。
やがて、光の努力は実を結び始めた。小さな舞台に脇役として立つ時も、光は全力で役に臨んだ。一つの動作、一つの表情に命を注ぎ込み、役になりきることを徹底した。甲子園を目指す野球部員の役をもらった時には、監督が無名だと気を抜く周囲をよそに、実際に甲子園を経験した選手に話を聞き、野球のルールを一から叩き込み、社会人チームの練習にまで参加した。すべては「生きるため」「守るため」。その覚悟が、演技に血を通わせていった。
やがて光の名は世間に広まり、映画やドラマ、舞台、雑誌と活動の幅は急速に広がっていった。数年後には朝陽の年収を軽く超え、事務所の勧めでセキュリティ万全の高級タワーマンションに住み、高校生になった弟たちには不自由のない生活を与えることができた。求められれば全てを買い与えることができるし、大学への進学費用も、海外留学の費用すら、即座に用意できるだけの力を持った。
けれど、状況が変わっても朝陽は変わらなかった。光の収入が自分の数倍になっても、相変わらず気前よく金を出そうとする。まるで売れていなかった頃の感覚を引きずるように。
そして何より、朝陽はあの日の条件を十年経っても守り続けていた。自分から無理に会いたいとは言わず、光が恋愛ドラマで女優とキスをしようが、濡れ場を演じようが、嫉妬の色を一切見せない。光が他の女と歩いているところを見ても、まるで何も見なかったかのように立ち去り、翌日も変わらぬ態度で接した。スマホに届く女からの誘いのメッセージを目にしても、平然としていた。
その徹底した態度は、時に光に疑念を抱かせた。「本当に自分のことを好きなのか」と。けれど、いくら月日が流れても朝陽は光の傍を離れようとしなかった。だからこそ、光は理解した。朝陽は本気で、自分を想い続けているのだと。
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