6 / 23
6
しおりを挟む「ねえ、光。今日の夜、空いてたりする?」
柔らかくも期待をにじませた声でそう問いかけてきたのは舞子だった。撮影の合間の短い休憩時間、光は手元の水を口に含んでいたところで思わず顔を上げる。
白いライトの下、華やかなドレスに身を包んだ舞子はどこか凛とした上品さを纏っていた。
今日は舞子と雑誌の表紙の撮影だった。舞子とはよく共演をするため、そこまで久しぶりとも感じない。
今日の撮影テーマは「日常から離れた特別なデート」。
光もまた、舞子の衣装に合わせた高級感のあるネイビーのスーツに身を包み、大人びた色気を漂わせていた。一般人が着ていたら浮いてしまうであろうスーツも長身でスタイルのいい光は自分のものかのように着こなす。
二人の姿は現場のスタッフたちも絶賛をしていた。
「今日?仕事終わり特に……あっ」
言葉にしかけたところで、光の頭にある約束を思い出す。朝陽と食事に行く約束だった。けれど、それは今日でなくてもいいと思えてしまった。朝陽とは気心が知れている。また今度にしようと声をかければいいだけだ。
「……なんかあった?」
不意に黙り込んだ光を見て、マイコが心配そうに眉尻を下げる。
光は慌てて小さく首を振る。
「ううん、何もないよ。特に予定はなし。どうしたの?」
安心させるように微笑みかけると、マイコは少し息を吸ってから意を決したように口を開いた。
「あのね、今日、一緒に食事でもどうかなって。その二人きりで…」
その声音には控えめな遠慮と、確かな勇気が混じっていた。上目遣いでこちらを窺うその瞳は、仕事仲間としての彼女ではなく、一人の女性としての顔をしている。光はその姿に思わず「かわいい」と心の中でつぶやいていた。
二人きりでということはスタッフには聞かれたくない彼女なりの相談があるのかもしれない。そう感じた光は快く返事した。
「ん、いいよ。一緒に行こう」
答えると同時に、マイコの表情がぱっと明るくなる。普段は大勢のスタッフと一緒に食事をすることはあっても、二人きりで出かけることはなかった。それだけに、光自身もどこか新鮮な気持ちになっていた。
撮影が終わり、二人はそれぞれの車に乗り込み、約束した場所へと向かう。
待ち合わせのレストランは、夜景の見える高層階にある店だった。普段の光なら、このような空間に居心地の悪さを感じるためプライベートで利用することはなかった。
しかし、今日の舞子の姿を思い浮かべると、自然とここがふさわしいと思えた。舞子は撮影を終え、私服に着替えていたがその服も派手すぎず上品な服装で舞子のスタイルの良さを際立たせるようなものだった。
「光、こんな素敵なお店を予約してくれてありがとう。私から誘ったのに……」
個室に通され、窓の外の夜景に視線をやったあと、舞子が少し申し訳なさそうに笑う。
「いいよ。俺も舞子から誘われて嬉しかったし」
光が穏やかに返すと、舞子の頬がほんのり赤く染まる。光はふと、自分がこうして女性と向き合い、食事を楽しむこと自体が久しぶりであることに気づく。芸能界に入ってからは、週刊誌に撮られることを恐れ、二人きりになる状況を意識的に避けてきた。
料理が運ばれ、ワインやシャンパンを飲んでいく。談笑とともに時間は穏やかに流れ、光は心地よい酔いに身を任せていた。そんなときだった。
ふと、足元に柔らかな感触が走る。下に視線を落とすと、それは舞子の足だった。遠慮がちに光の足に爪先で触れてくる。
視線を上げると、舞子は頬杖をつき、グラスを傾けながら光をじっと見つめていた。その瞳には、隠しきれない熱が宿っている。
「ねえ、光」
いつもとは違う声色に違和感を覚えた。
「どうした?」
マイコは小さく息を吐き、視線を外すことなく言葉を紡ぐ。
「私ね、実は光のことが好きなの。デビューした時から、ずっと……」
「え……?」
その瞬間、時間が止まったかのように感じられた。耳に入ったはずの言葉が、すぐには意味として理解できない。光はグラスを持つ手を固まらせ、ただ彼女の表情を見つめ返すことしかできなかった。
386
あなたにおすすめの小説
美澄の顔には抗えない。
米奏よぞら
BL
スパダリ美形攻め×流され面食い受け
高校時代に一目惚れした相手と勢いで付き合ったはいいものの、徐々に相手の熱が冷めていっていることに限界を感じた主人公のお話です。
※なろう、カクヨムでも掲載中です。
幼馴染がいじめるのは俺だ!
むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに...
「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」
「はっ...ぁ??」
好きな奴って俺じゃないの___!?
ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子
ーーーーーー
主人公 いじめられっ子
小鳥遊洸人
タカナシ ヒロト
小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。
姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。
高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、
脳破壊。
千透星への恋心を自覚する。
幼馴染 いじめっ子
神宮寺 千透星
ジングウジ チトセ
小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。
美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている)
転校生の須藤千尋が初恋である
当て馬系ヤンデレキャラになったら、思ったよりもツラかった件。
マツヲ。
BL
ふと気がつけば自分が知るBLゲームのなかの、当て馬系ヤンデレキャラになっていた。
いつでもポーカーフェイスのそのキャラクターを俺は嫌っていたはずなのに、その無表情の下にはこんなにも苦しい思いが隠されていたなんて……。
こういうはじまりの、ゲームのその後の世界で、手探り状態のまま徐々に受けとしての才能を開花させていく主人公のお話が読みたいな、という気持ちで書いたものです。
続編、ゆっくりとですが連載開始します。
「当て馬系ヤンデレキャラからの脱却を図ったら、スピンオフに突入していた件。」(https://www.alphapolis.co.jp/novel/239008972/578503599)
アプリで元カノを気にしなくなるくらい魅力的になろうとした結果、彼氏がフリーズしました
あと
BL
「目指せ!!魅力的な彼氏!!」
誰にでも優しいように見えて重い…?攻め×天然な受け
⚠️攻めの元カノが出て来ます。
⚠️強い執着・ストーカー的表現があります。
⚠️細かいことが気になる人には向いてません。
合わないと感じた方は自衛をお願いします。
受けは、恋人が元カノと同級生と過去の付き合いについて話している場面に出くわしてしまう。失意の中、人生相談アプリの存在を知る。実は、なぜか苗字呼び、家に入れてもらえない、手を出さないといった不思議がある。こうして、元カノなんか気にしなくなるほど魅力的になろうとするための受けの戦いが始まった…。
攻め:進藤郁也
受け:天野翔
※誤字脱字・表現の修正はサイレントで行う場合があります。
※タグは定期的に整理します。
※批判・中傷コメントはご遠慮ください。
アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました
あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」
穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン
攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?
攻め:深海霧矢
受け:清水奏
前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。
ハピエンです。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
自己判断で消しますので、悪しからず。
痩せようとか思わねぇの?〜デリカシー0の君は、デブにゾッコン〜
四月一日 真実
BL
ふくよか体型で、自分に自信のない主人公 佐分は、嫌いな陽キャ似鳥と同じクラスになってしまう。
「あんなやつ、誰が好きになるんだよ」と心無い一言を言われたり、「痩せるきねえの?」なんてデリカシーの無い言葉をかけられたり。好きになる要素がない!
__と思っていたが、実は似鳥は、佐分のことが好みどストライクで……
※他サイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる