【完結】俺はお前がいなくても。

ぽぽ

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「ねえ、光。今日の夜、空いてたりする?」

柔らかくも期待をにじませた声でそう問いかけてきたのは舞子だった。撮影の合間の短い休憩時間、光は手元の水を口に含んでいたところで思わず顔を上げる。
白いライトの下、華やかなドレスに身を包んだ舞子はどこか凛とした上品さを纏っていた。

今日は舞子と雑誌の表紙の撮影だった。舞子とはよく共演をするため、そこまで久しぶりとも感じない。

今日の撮影テーマは「日常から離れた特別なデート」。
 
光もまた、舞子の衣装に合わせた高級感のあるネイビーのスーツに身を包み、大人びた色気を漂わせていた。一般人が着ていたら浮いてしまうであろうスーツも長身でスタイルのいい光は自分のものかのように着こなす。

二人の姿は現場のスタッフたちも絶賛をしていた。

「今日?仕事終わり特に……あっ」

言葉にしかけたところで、光の頭にある約束を思い出す。朝陽と食事に行く約束だった。けれど、それは今日でなくてもいいと思えてしまった。朝陽とは気心が知れている。また今度にしようと声をかければいいだけだ。

「……なんかあった?」

不意に黙り込んだ光を見て、マイコが心配そうに眉尻を下げる。

光は慌てて小さく首を振る。

「ううん、何もないよ。特に予定はなし。どうしたの?」

安心させるように微笑みかけると、マイコは少し息を吸ってから意を決したように口を開いた。

「あのね、今日、一緒に食事でもどうかなって。その二人きりで…」


その声音には控えめな遠慮と、確かな勇気が混じっていた。上目遣いでこちらを窺うその瞳は、仕事仲間としての彼女ではなく、一人の女性としての顔をしている。光はその姿に思わず「かわいい」と心の中でつぶやいていた。
二人きりでということはスタッフには聞かれたくない彼女なりの相談があるのかもしれない。そう感じた光は快く返事した。

「ん、いいよ。一緒に行こう」

答えると同時に、マイコの表情がぱっと明るくなる。普段は大勢のスタッフと一緒に食事をすることはあっても、二人きりで出かけることはなかった。それだけに、光自身もどこか新鮮な気持ちになっていた。

撮影が終わり、二人はそれぞれの車に乗り込み、約束した場所へと向かう。

待ち合わせのレストランは、夜景の見える高層階にある店だった。普段の光なら、このような空間に居心地の悪さを感じるためプライベートで利用することはなかった。
しかし、今日の舞子の姿を思い浮かべると、自然とここがふさわしいと思えた。舞子は撮影を終え、私服に着替えていたがその服も派手すぎず上品な服装で舞子のスタイルの良さを際立たせるようなものだった。

「光、こんな素敵なお店を予約してくれてありがとう。私から誘ったのに……」

個室に通され、窓の外の夜景に視線をやったあと、舞子が少し申し訳なさそうに笑う。

「いいよ。俺も舞子から誘われて嬉しかったし」

光が穏やかに返すと、舞子の頬がほんのり赤く染まる。光はふと、自分がこうして女性と向き合い、食事を楽しむこと自体が久しぶりであることに気づく。芸能界に入ってからは、週刊誌に撮られることを恐れ、二人きりになる状況を意識的に避けてきた。

料理が運ばれ、ワインやシャンパンを飲んでいく。談笑とともに時間は穏やかに流れ、光は心地よい酔いに身を任せていた。そんなときだった。

ふと、足元に柔らかな感触が走る。下に視線を落とすと、それは舞子の足だった。遠慮がちに光の足に爪先で触れてくる。

視線を上げると、舞子は頬杖をつき、グラスを傾けながら光をじっと見つめていた。その瞳には、隠しきれない熱が宿っている。

「ねえ、光」

いつもとは違う声色に違和感を覚えた。

「どうした?」

マイコは小さく息を吐き、視線を外すことなく言葉を紡ぐ。

「私ね、実は光のことが好きなの。デビューした時から、ずっと……」

「え……?」

その瞬間、時間が止まったかのように感じられた。耳に入ったはずの言葉が、すぐには意味として理解できない。光はグラスを持つ手を固まらせ、ただ彼女の表情を見つめ返すことしかできなかった。
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