上 下
12 / 12
第1章

12話 拘束されました......

しおりを挟む
だ、誰!!?
力強くガシッと掴まれたがリオンかと思ったら違っていた。私がひどく動揺して「ヒャっ」と大声を上げたから、私の腕を掴んでいた彼は鋭い目つきで「しっ」と人差し指を口元に立てる……のと同時に私の口も片手で塞いだ。
私はそのまま壁に押し付けられて身動きが取れない。覆い被さるように私の前にいる。
どうしよう……これじゃ反撃できない。しばらくじっとしている彼は辺りを窺っている。
「……もういいか」
彼はつぶやくと、ゆっくりと私から手を離した。
「……悪い、急につかんだりして」
あれ。思ったよりいい人そうだ。私は目をパチパチさせる。
「この先は危ないぞ。それにあの黒服のやつは追わない方がいい」
「さっきの人、何か知ってるの?」
こっちをじっと見ていた気がした、もしかしたら魔法を使うところを見られていたかもしれない。いや……無詠唱だし、そんなことはないか。
「いいや、知らない。ただの勘」
「…………」
勘……?それだけなの?
「俺の勘は結構当たるんだぞ」
そういうことなら、一応従っておこう。青みが強い紺の髪に翡翠色の瞳がこっちを見つめる。リオンの隣にいても負けずとも劣らない顔立ちだ。
「それより、おま……」
「ルリ!!」
リオン! 私を見つけた途端にリオンが慌てて走ってくる。
「勝手にいなくなるなって、いつも言ってるだろ」
私は見つかった途端にお叱りを受けた。
「ご、ごめんって」
私は素直に謝る。リオンに心配をかけてしまった。少しだけ息が荒いリオン。私を探したのが良くわかった。私を見つけてホッとしたのか、辺りを見回す。
「でも……なんでこんなとこに………って、ラスターもいたのか」
リオンとそう変わらない身長の少年に声をかけた。
「知ってるの?」
「ああ。俺の友達のラスターだ」
「おまえもこいつと知り合いなのか?」
リオンと向かいあった少年が私に向かって親指を使って指差した。
「幼馴染だよ」
「ふーん……こいつがねぇ」
?? なぜか意味ありげな表情で私を見つめてくる。私が疑問たっぷりの顔で見つめ返しているとリオンの方へ顔を向け耳打ちをしはじめる。小さくて何を言っているのかよく聞こえない。




 
「リオン……こいつ不審人物を追ってさらに奥へと進もうとしてた。ここら辺は治安が良くないから俺が止めた、気をつけろよ」
「悪いな、ラスター。止めてくれてありがとう」
「いや、いいって」
「ルリのことは僕にも責任があるから。これも修行の一環だって言われてたんだけど僕が目を離した隙に……」
ラスターからはリオンが表情には出さずとも肩を落として落ち込んでいるように見えた。
「最近街で見かけないと思ったら、毎日森に行ってんのか?」
「ああ、せめて剣は強くなりたくて…………」
「お前はもう街で1番強いだろ? もうお前に勝てるやつなんていないだろ、どんだけ強くなりゃぁ気が済むんだよ」
ラスターはそう言いながらハハハッと屈託なく笑う。ラスターは知っている。リオンが森に行くようになってから剣の腕をものすごい速さで上達していることを。それなのにも関わらず、自分はまだまだ弱いと言ってさらに強くなろうとしていることも………………自分が弱いと信じきって落ち込んでいる姿を見るのは一度や二度ではない。本人は一度もそういった姿を見せないが……。
そして、だいたいそういった姿を見かけるのは森から帰ってきたときだ。
「たまには、森だけにいってないで街にも顔出せよ。リオンがいねぇとつまらねぇからな」
「ああ、そうだな…………考えておくよ」
そのときラスターはリオンの顔を見て思った。やっぱり……肯定はしないんだなと。わざとぼかしたんだ。街には顔を出すことはないだろうからとリオン自身、そう思っているのだろう。本当に幼馴染のことが大事なんだな…………だからこそ気に食わない。
リオンとその幼馴染が並んで帰っていく光景を見つめ口を歪ませた。


途中から立ち話に入った二人の会話が終了したようだ。二人の様子を見るにリオンはそのラスターという友人とは久しぶりに会ったように見えた。それにしても……2、3言交わした程度でいいのだろうか。リオンはいつも森にいるのだからいつも会えるわけじゃないのに。
そう思っているうちにリオンから声をかけられた。
「行くぞ」
といって私の横を通り過ぎてスタスタと歩く。
私は慌ててリオンについていくが、その時に不意に過去の記憶がフラッシュバックした。彼、何か…………っ! 背中に何かの気配を感じた私は勢いよく振り返る。そこには何もなく……ただ、リオンの友人がこっちを睨みつけて立っているのが見えた。ラスターは私が振り返ったのに驚きすぐに顔を逸らした。睨んで見えたのは気のせいかな?
ただ、何か違和感が残る目つきをしていた。
「ねぇ、リオン。ラスターってどんな人なの?」
「ラスター? うーん……面倒見のいいやつだよ。おおよそ、今回だってルリが危ない方に行こうとしてるのをたまたま見かけて止めてくれたんだし。ラスターは悪いやつじゃない。信頼できるやつだよ」
リオンがそういうのならさっきのは見間違いかもしれない。リオンの目を見ていればわかる。信頼を寄せている目をしていた。
「ラスターのこと見覚えがある気がするんだけど? なんでだろ」
「ん……? ラスターはおんなじクラスだぞ」
「え! うーん…………あ!」
確かにいた、リオンが教室に入って挨拶をしていた気がする。
「……ところで、俺いったよな? 離れたら……は?」
私はこれから言われることがわかり両腕を突き出した。
「いいよいつでも、魔法でもなんでも拘束して」
潔い私にリオンが目を丸くしている。
「実際、リオンのこと無視して行動したのは私だし……」
「わかってたのかよ。でも、魔法は効かないからダメだ。俺とルリの実力差だとルリに逃げられるからな」
うん、まぁ確かに。じゃどうするのか?
「だから……こう」
リオンはそう言いながら突き出した両腕のうち片手を掴み手を繋ぐ。
「次からこれで移動するからな」
 確かに……これなら私がいなくなったとしてもすぐに気がつくし、私はいつもリオンの手から逃げられないから。結局拘束され……あれ? でもリオンの顔が少しだけ赤いような。すぐにそっぽを向くリオン。
でも、これはちょっと私も……恥ずかしい。
まるでどこかにいって離れてしまう子供のようだ。つないでいるリオンのほうがもっと恥ずかしいかもしれない。なんかちょっぴり申し訳なさがいまさらながらにこみあげてくる。ごめんねリオン。
「ほら森に行っておじさんに精霊のこと聞きに行こう」
森に着くまでの間にそのまま手を繋ぎ歩き人々の視線を集めたのだった。








このことが、私の学園生活に影響を及ぼすなんて夢にすら思わなかった。











 1週間後のこと学校が再開したのだが…………。
「あのー、私たちの班人数足りてないんですけど……」
おずおずと手を挙げて発言する私にみんなからの視線が一気に突き刺さる。
しかも、女子からの視線は1週間前と比べてより尖った視線を感じる。1週間学園がなかったはずなのに、女子の連帯感が凄まじい。何があったの!?
……うっ、なんか私嫌われてない?
もうすでにできてる班が、私を見てコソコソ喋ってる。
もともと森にいた時間が長すぎて、リオン以外の人との会話の仕方を忘れてしまっている私だけどこれは敵意に満ちた目をしてる。もうすでに疎外感を感じる…………。
もう、どうすればいいのーーー!!

次回……理由



しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

1 / 3

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

お一人サマじゃいられない!?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:2

元婚約者に泣きつかれて、仕方なく追い返すことにしましたが

恋愛 / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:7

愛した人は悪い人

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:19

きっと明日も幸あれ

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

淀んだ激情の引き金

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:19

処理中です...