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春は出会い……
覚悟とラジエーター
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私と優子の前に現れたのは、結衣と悠梨だった。
あちゃー、失敗したなぁ……。
結衣と悠梨は、あまり相性が良くないから、2人で行動することはないと思って、3人で、ここまで来ちゃったのがダメだったんだな……。
にしても、柚月は、役に立たないなぁ……何のための見張りだよ。
これだったら、柚月を教室に残して、あの2人の足止めをさせてた方が良かったよ。
「なに3人で、コソコソやってるのよ」
結衣が、私たちに向かって言った。
「別に、コソコソなんてしてないよ」
私が言うと、結衣は、屈んで柚月を捕まえ、立たせると
「コイツが怪しい行動取ってるんで、後をつけたら、こーんな所に来たって訳、捕まえて、部室で、いたぶってあげたら、2人はここにいるって、教えてくれたよぉ」
と、柚月の頬をぺしぺしと叩きながら言った。
「ううーー」
柚月が涙目でこちらを見た。
もう、やっぱり柚月から辿られたか、やっぱり、こういう時は、トコトン柚月は使えないなぁ……。
柚月じゃ、優子を説得できない、っていうのと、兄貴のLINEの件があったから、私がこの役を引き受けたんだけどさ。やっぱり、私が結衣たちを引き留める役に回った方が良かったね……。
「早く言わないと、コイツが、どうなっても知らないぞ~!」
悠梨が、柚月を捕まえると、おもむろに胸を掴んだ。
「むうーー!」
あ、コラ悠梨、柚月の胸を揉んで良いのは、私だけなんだぞ! ちゃんとコツがあって、それを知らないで闇雲に揉むと、柚月は痛がるんだから。
すると、不快な表情をした結衣が
「いいの? 柚月がどうなってもさ、早く何を隠してるのか言いなよ!」
と、強い口調で迫ってきた。
私は、仕方ない、適当に暴れて誤魔化そうと、身構えたが、優子がそれを制して、一歩前に出ると、結衣に向かって
「別にさ、2人に車の相談に乗って貰ってただけだよ。何か悪い事した?」
と言うと、結衣は一瞬たじろいだが、すぐさま、さっきの調子で返した。
「だったら、別にコソコソ隠れなくてもいいだろ」
「じゃぁ、訊くけど、結衣や悠梨は、車決める時に、私に相談してくれた? くれなかったじゃん。私が一番最後で、インパクトに薄いんだからさ、登場くらいインパクト欲しくない? ダメなの?」
優子が一本調子で無表情に言うと、結衣の顔から血の気が引いた。
出たな、優子の得意技なんだ。高校から一緒の結衣や悠梨は、馴染みのないところだから、ビビるだろうけど、優子の、この一本調子話法は、計算して繰り出している技なんだよ。
優子は、確かに怒らせると、この中で、一番怖いんだけど、優子が怒ると、突然怒鳴り散らした後に、暴力に訴えてくるため、分かりやすいんだよ。
優子の攻撃が効いて、すっかり勢いの削がれた結衣は
「でもって、優子は、車に乗って来てるんだからさ、急がなくていいじゃん!」
と言うと、優子は
「でもって、あの車、お爺ちゃんのだから、もしかすると、返さなきゃならなくなるかも……なんだよ。それに、あの車RB20Eだよ。みんなが、ターボや、2500のツインカムなのに、こっちはEだよ、いい訳ないじゃん」
と、また一本調子で言うと、結衣は、慌てて出て行った。
悠梨も、柚月から離れると
「覚えてろよー」
と言って、出て行った。
私と優子は、柚月に駆け寄ると、私が縄を解き、優子は猿轡を外した。
「大丈夫、柚月、ゴメンね」
「怖かったよー!」
優子が声を掛けると、柚月が優子の胸に飛び込んだ。
「もう、あれだけ気を付けろって言ったのに、なんで捕まるのよ!」
「だって~、いきなり頭から袋被せられてさ~、見えないうちに捕まっちゃったんだもん~」
私が呆れて言うと、柚月がどうにもならないといった表情で、当時の状況を話した。
そして、私は、教室に戻りながら言った。
「これで、しばらくは、あの2人の協力は仰げないよ」
「分かってるよ。頑張る」
優子は力強く答えた。
◇◆◇◆◇
土曜日になった。
私たち3人は、優子に迎えに来て貰って、解体所に向かった。
おじさんに挨拶して、解体所のガレージに入ると、そこには既に優子の家で見たR32が佇んでいた。
私は、思わず言った。
「白だったんだ……」
前回見た際は、苔で緑になっていて、何色か分からなかったボディは、綺麗な白だった。
解体屋のおじさんが言ってたけど、苔や汚れで覆われると、それが強力なコートになって、汚れや湿気から、ボディを守ってくれるんだって。だからこのR32はこんなに綺麗な状態を維持してるんだね。
私たちは、ガレージの奥で着替えると、優子が用意してきた部品類を見た。
なんか真っ黒い箱で『nismo』って書いてあるよ。ニスモ、調べてあるよ。日産のメーカー系のチューニングパーツメーカーで、ニッサン・モータースポーツ・インターナショナルの略だよね。
優子の車の足回りを支えるアームって部品や、それに組み込まれているゴムのブッシュは、長期間、同じ位置に置きっぱなしになっていたから、軒並み劣化しているんだって。
だから、変えた方が良いんだけど、ゴムのブッシュって、単体では数百円なんだけど、圧入? ってのに、お金がかかるから、なかなか交換し辛いんだって。
だけど、このニスモの強化アームは、最初から、アームに強化されたブッシュが組み入れてある状態で売ってるから、アームを交換すれば、一緒にブッシュも交換できちゃう。しかも、スポーツ走行用に強化されてるから、チューンナップにもなるんだって、これって一石二鳥ってやつだね。
解体屋のおじさんは、ガレージに2つあるリフトのうち、1つを貸してくれたから、結構便利なんだよ。
まずはエンジンを降ろすんだけど、その前に、ミッションと切り離したり、とかで、結構床下を動き回る作業が多いんだよ。
その時に、屈んだり、寝転がったりしないで、作業できるリフトがあると、物凄く助かるよね。工具をかけた後、力の入り方が違ってくるし、移動時間も短くなるからね。
部のガレージにある床下も、凄く便利なんだけど、今回は、結衣と悠梨には内緒で作業を進めたいから、使えないしね。
じゃぁ、まずはボンネットから外すんだね。
ボンネットは全開にした状態で、ウォッシャーの管を外して、一番根元にある蝶番(ヒンジって言うらしいよ)とボンネットを留めているボルト4本を外すと外れるんだって。
注意点は、慣れてない場合は、2人以上で作業しないと、ボルトが外れた瞬間に、ボンネットがズレて、フロントガラスを直撃し、ガラスが割れる……っていうパターンがあるのと、ボルトを均等に緩めないと、ボルトが残ったまま折れて、ボンネット再利用不可……という事もあるらしいよ。
早速やってみたよ。結構簡単な作業なんだけど、ボンネットってやっぱり重いよね。優子が力がないから、余計そう感じるのかな? ちょっと~、優子、そんな簡単にヘバらないでよ!
なに柚月? ちなみに、ボンネットは軽くし過ぎると、衝突した時に、上手く潰れてくれなかったり、室内に飛び込んだりして危ないんだって? うん、その知識、今必要か?
よしよし、ボンネットも外れたし、外したボルトは、ジッパー付きの袋に入れて、ナンバリングしておこう。
次にラジエーターを外して……と、まずは下から、メロンソーダ……じゃなかった、冷却水を抜くんだよね。
あ、そうか、リフトで上げちゃえばいいのか。そうすれば、すぐ目の前にドレンボルトがあるから、ぐるぐるっと回して、後は優子に受けてもらって、ゆっくりと抜け切るのを待とうっと。
終わったらホースを外して、上と下のネジを外して、ラジエーターファンもネジ4本で外れるから、ファンを先に外してから、ラジエーターを抜くっと。
言うのは簡単でも、ここまでの作業って、結構過酷なんだから、ホースを止めてるバンドの金具が、ホースに喰い込んだまま固着していたりとか、ホースも、そんな状況なので、ラジエーターにガッチリ喰い込んでいてなかなか外れないし……で、ここまでで、午前中いっぱいかかっちゃったよ。
なに? これは大容量の社外品だって? だったら、そのまま使うんでしょ。
その前に、中を流してみよう? あぁ、ホースを突っ込んで、水を出すのね。……しばらくすると、綺麗な水になったね。
え? ひとまず、ヘドロとかが出ていないから、再利用可だね、だって。ほうほう……勉強になるなぁ……って、そんな勉強しても、何の役にも立たないわ!
ねぇ、キリの良いところで、お昼いかない? 取り敢えず、後回しにするよりも行っちゃった方が良いでしょ? ね、行こうよ!
あちゃー、失敗したなぁ……。
結衣と悠梨は、あまり相性が良くないから、2人で行動することはないと思って、3人で、ここまで来ちゃったのがダメだったんだな……。
にしても、柚月は、役に立たないなぁ……何のための見張りだよ。
これだったら、柚月を教室に残して、あの2人の足止めをさせてた方が良かったよ。
「なに3人で、コソコソやってるのよ」
結衣が、私たちに向かって言った。
「別に、コソコソなんてしてないよ」
私が言うと、結衣は、屈んで柚月を捕まえ、立たせると
「コイツが怪しい行動取ってるんで、後をつけたら、こーんな所に来たって訳、捕まえて、部室で、いたぶってあげたら、2人はここにいるって、教えてくれたよぉ」
と、柚月の頬をぺしぺしと叩きながら言った。
「ううーー」
柚月が涙目でこちらを見た。
もう、やっぱり柚月から辿られたか、やっぱり、こういう時は、トコトン柚月は使えないなぁ……。
柚月じゃ、優子を説得できない、っていうのと、兄貴のLINEの件があったから、私がこの役を引き受けたんだけどさ。やっぱり、私が結衣たちを引き留める役に回った方が良かったね……。
「早く言わないと、コイツが、どうなっても知らないぞ~!」
悠梨が、柚月を捕まえると、おもむろに胸を掴んだ。
「むうーー!」
あ、コラ悠梨、柚月の胸を揉んで良いのは、私だけなんだぞ! ちゃんとコツがあって、それを知らないで闇雲に揉むと、柚月は痛がるんだから。
すると、不快な表情をした結衣が
「いいの? 柚月がどうなってもさ、早く何を隠してるのか言いなよ!」
と、強い口調で迫ってきた。
私は、仕方ない、適当に暴れて誤魔化そうと、身構えたが、優子がそれを制して、一歩前に出ると、結衣に向かって
「別にさ、2人に車の相談に乗って貰ってただけだよ。何か悪い事した?」
と言うと、結衣は一瞬たじろいだが、すぐさま、さっきの調子で返した。
「だったら、別にコソコソ隠れなくてもいいだろ」
「じゃぁ、訊くけど、結衣や悠梨は、車決める時に、私に相談してくれた? くれなかったじゃん。私が一番最後で、インパクトに薄いんだからさ、登場くらいインパクト欲しくない? ダメなの?」
優子が一本調子で無表情に言うと、結衣の顔から血の気が引いた。
出たな、優子の得意技なんだ。高校から一緒の結衣や悠梨は、馴染みのないところだから、ビビるだろうけど、優子の、この一本調子話法は、計算して繰り出している技なんだよ。
優子は、確かに怒らせると、この中で、一番怖いんだけど、優子が怒ると、突然怒鳴り散らした後に、暴力に訴えてくるため、分かりやすいんだよ。
優子の攻撃が効いて、すっかり勢いの削がれた結衣は
「でもって、優子は、車に乗って来てるんだからさ、急がなくていいじゃん!」
と言うと、優子は
「でもって、あの車、お爺ちゃんのだから、もしかすると、返さなきゃならなくなるかも……なんだよ。それに、あの車RB20Eだよ。みんなが、ターボや、2500のツインカムなのに、こっちはEだよ、いい訳ないじゃん」
と、また一本調子で言うと、結衣は、慌てて出て行った。
悠梨も、柚月から離れると
「覚えてろよー」
と言って、出て行った。
私と優子は、柚月に駆け寄ると、私が縄を解き、優子は猿轡を外した。
「大丈夫、柚月、ゴメンね」
「怖かったよー!」
優子が声を掛けると、柚月が優子の胸に飛び込んだ。
「もう、あれだけ気を付けろって言ったのに、なんで捕まるのよ!」
「だって~、いきなり頭から袋被せられてさ~、見えないうちに捕まっちゃったんだもん~」
私が呆れて言うと、柚月がどうにもならないといった表情で、当時の状況を話した。
そして、私は、教室に戻りながら言った。
「これで、しばらくは、あの2人の協力は仰げないよ」
「分かってるよ。頑張る」
優子は力強く答えた。
◇◆◇◆◇
土曜日になった。
私たち3人は、優子に迎えに来て貰って、解体所に向かった。
おじさんに挨拶して、解体所のガレージに入ると、そこには既に優子の家で見たR32が佇んでいた。
私は、思わず言った。
「白だったんだ……」
前回見た際は、苔で緑になっていて、何色か分からなかったボディは、綺麗な白だった。
解体屋のおじさんが言ってたけど、苔や汚れで覆われると、それが強力なコートになって、汚れや湿気から、ボディを守ってくれるんだって。だからこのR32はこんなに綺麗な状態を維持してるんだね。
私たちは、ガレージの奥で着替えると、優子が用意してきた部品類を見た。
なんか真っ黒い箱で『nismo』って書いてあるよ。ニスモ、調べてあるよ。日産のメーカー系のチューニングパーツメーカーで、ニッサン・モータースポーツ・インターナショナルの略だよね。
優子の車の足回りを支えるアームって部品や、それに組み込まれているゴムのブッシュは、長期間、同じ位置に置きっぱなしになっていたから、軒並み劣化しているんだって。
だから、変えた方が良いんだけど、ゴムのブッシュって、単体では数百円なんだけど、圧入? ってのに、お金がかかるから、なかなか交換し辛いんだって。
だけど、このニスモの強化アームは、最初から、アームに強化されたブッシュが組み入れてある状態で売ってるから、アームを交換すれば、一緒にブッシュも交換できちゃう。しかも、スポーツ走行用に強化されてるから、チューンナップにもなるんだって、これって一石二鳥ってやつだね。
解体屋のおじさんは、ガレージに2つあるリフトのうち、1つを貸してくれたから、結構便利なんだよ。
まずはエンジンを降ろすんだけど、その前に、ミッションと切り離したり、とかで、結構床下を動き回る作業が多いんだよ。
その時に、屈んだり、寝転がったりしないで、作業できるリフトがあると、物凄く助かるよね。工具をかけた後、力の入り方が違ってくるし、移動時間も短くなるからね。
部のガレージにある床下も、凄く便利なんだけど、今回は、結衣と悠梨には内緒で作業を進めたいから、使えないしね。
じゃぁ、まずはボンネットから外すんだね。
ボンネットは全開にした状態で、ウォッシャーの管を外して、一番根元にある蝶番(ヒンジって言うらしいよ)とボンネットを留めているボルト4本を外すと外れるんだって。
注意点は、慣れてない場合は、2人以上で作業しないと、ボルトが外れた瞬間に、ボンネットがズレて、フロントガラスを直撃し、ガラスが割れる……っていうパターンがあるのと、ボルトを均等に緩めないと、ボルトが残ったまま折れて、ボンネット再利用不可……という事もあるらしいよ。
早速やってみたよ。結構簡単な作業なんだけど、ボンネットってやっぱり重いよね。優子が力がないから、余計そう感じるのかな? ちょっと~、優子、そんな簡単にヘバらないでよ!
なに柚月? ちなみに、ボンネットは軽くし過ぎると、衝突した時に、上手く潰れてくれなかったり、室内に飛び込んだりして危ないんだって? うん、その知識、今必要か?
よしよし、ボンネットも外れたし、外したボルトは、ジッパー付きの袋に入れて、ナンバリングしておこう。
次にラジエーターを外して……と、まずは下から、メロンソーダ……じゃなかった、冷却水を抜くんだよね。
あ、そうか、リフトで上げちゃえばいいのか。そうすれば、すぐ目の前にドレンボルトがあるから、ぐるぐるっと回して、後は優子に受けてもらって、ゆっくりと抜け切るのを待とうっと。
終わったらホースを外して、上と下のネジを外して、ラジエーターファンもネジ4本で外れるから、ファンを先に外してから、ラジエーターを抜くっと。
言うのは簡単でも、ここまでの作業って、結構過酷なんだから、ホースを止めてるバンドの金具が、ホースに喰い込んだまま固着していたりとか、ホースも、そんな状況なので、ラジエーターにガッチリ喰い込んでいてなかなか外れないし……で、ここまでで、午前中いっぱいかかっちゃったよ。
なに? これは大容量の社外品だって? だったら、そのまま使うんでしょ。
その前に、中を流してみよう? あぁ、ホースを突っ込んで、水を出すのね。……しばらくすると、綺麗な水になったね。
え? ひとまず、ヘドロとかが出ていないから、再利用可だね、だって。ほうほう……勉強になるなぁ……って、そんな勉強しても、何の役にも立たないわ!
ねぇ、キリの良いところで、お昼いかない? 取り敢えず、後回しにするよりも行っちゃった方が良いでしょ? ね、行こうよ!
応援ありがとうございます!
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