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春は出会い……

オムライスとRB20DE

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 お昼美味しかったね。
 駅の方のお店って、結構観光客向けの、敷居の高いところってイメージがあるんだけどさ、そのお陰もあって、都会向きな感じがするよね。
 ああいう、ふわトロオムライスの出てくるお店って、東京とかに行かないと、ないもんだと思ってたよ。

 そうか、優子の家は、商売やってるから、駅に近いもんね。私なんかは、地元でも、駅前は違う世界だって思っちゃってるんだよね。

 じゃぁ、続きをはじめようか……って、優子、クルーをもっと奥に隠しておかないとダメだよ。
 こうやってブルーシートをかけて、タイヤで飛ばないようにして……っと、ここはさ、悠梨は来ないけど、結衣は来るんだからさ、見つかったら厄介だよ。

 さてと、じゃぁ、続きをやっちゃおう。
 柚月、どうなんだろうね? え? 初めての作業だから分からないけど、今日中にエンジンが降りるといいなぁ……って思ってるって?
 次にエアクリーナーとか、パイプ類の取り外しなんだけど、その辺がほとんどレイアウト変更されてるから、外さなくて大丈夫そうだね。

 次にベルト類を外して……って、ボルトで張り具合を調整してるんだね。これは意外な発見だった。3本外したけど、どうせこのベルトは再利用しないでしょ。
 次は、エアコンのコンプレッサーと、パワステポンプを外すって? 結構重要な装備の心臓部を一気に2つも外すのか。

 「優子さ~、これって、エアコンが動いてたかどうかって、分からないの~?」

 なに柚月? え? R32のエアコンのコンプレッサーは、高確率で壊れてるから、もし、交換するなら、この機会にやっちゃった方が良いって?
 なになに、R32のエアコンのトラブルは両極端で、全くエアコンが動かなくて、生ぬるい風しか出てこないパターンと、エアコンは生きてるんだけど、設定温度がメチャクチャになって、真夏でも5分に1回はエアコンを切らないといけないくらい、冷えすぎるかのどっちかだって? どっちにしても困るけど、敢えてどっちがマシかって言えば、後者の方かな……。

 エアコンは、念のため、後でおじさんに、リビルドを見てもらった方が良いと思うって? リビルドって、中古品をオーバーホールしてる物の事か、って事は新品並みって事だね。
 一応、コンプレッサーには、オイルを吹いた跡とかがないから、壊れてはないとは思うけど、長らく使ってないから、いきなり壊れるってこともあるからね……だって。

 次は、エンジンから出ている配線を抜くんだって?
 その配線の先って、この間、柚月が苦戦してたコンピューターのハーネスだね……って痛っ! 
 このお~、柚月~!

 「ゴメンなさい~、参りました~」

 まったく、いつもいつも、人にちょっかいを出してくるんじゃないよ! 今度やったら、リフトに縛り付けて帰るからね、本気だからね!

 さて、脱線したけど、このハーネスを、エンジン側から抜いていくんだね。
 助手席側の内装の他に、タイヤハウスのカバーも外して、抜いていくんだ。……へぇー、R32の配線って、左のフロントタイヤのカバーの中を通って、エンジンルームに行ってるんだ。

 じゃぁ、優子はエンジンルーム側で、私は室内側ね。
 せぇ~のぉ~……少しずつ引っ張られて行ってるんだけど、枝分かれしてるカプラーがあるから、それを順次切り離していくね。
 せぇ~のぉ~……配線自体がピンみたいなので固定してあるから、ラジオペンチで掴んで引っ張ると、あっさり外れたね。
 せぇ~のぉ~……って、遂に配線が抜けたぞぉ……。よし、エンジンの上に一まとめにして……と。

 次は、リフトを上げて、触媒の手前にある排気パイプとの継ぎ目を外す……か、ってさ、いつもの如くの、排気系のボルトじゃん、最初から固着してそうなのに、なんで、浸透潤滑剤塗っておかなかったんだよ!
 え? 忘れた? もう、柚月が緩めろよー!

 柚月が緩めてる間に、私と優子は、エンジンオイルと、ミッションオイルを抜いておこう。
 恐らくミッションは外れた時に漏ってくるだろうし、エンジンも念のため抜いておいた方が良いでしょ。 

 あとは、ミッションマウントを緩めて、プロペラシャフトも緩めて抜けるように準備しておく……と。
 そして、柚月がエンジンルームの中にある、エンジンマウントを全部緩めておけば、理論上、これでエンジンが抜けてくる……と。
 
 じゃぁ、ボルトは全部抜けたのを確認したから、あとは、エンジンクレーンをエンジンに取り付けて、みんなでいくよぉ……。
“せぇ~のぉ~……”
 ゴクっていって、少しエンジンが斜めに浮いてきたよぉ……その調子、その調子だよぉ……ゆっくりね、ゆっくりねぇ……オーライ、オーライっとぉ。

 そのまま、この古タイヤの上に置こうかぁ……そのまま真っ直ぐだよぉ……オーライ、オーライ……ストォーップ。

 よぉーーしぃ! 色々大変だったけど、なんとかエンジンは降りたね。
 どうしたの優子? 今のうちに、空っぽになったエンジンルームを掃除して来るって……優子、それは換気扇掃除の洗剤だよ! ちょっと、何するの柚月。え? 車の蓄積した油汚れなんかは、換気扇の洗剤の方がよく落ちるんだって?

 優子は、換気扇の洗剤でエンジンルームを綺麗にすると、水なし洗車剤で磨いてあげて、最後にワックスまでかけちゃったよ。
 なに柚月? え? ここを逃すと、綺麗にする機会がないからね……か、確かにそうだね。

 その間に、ミッションを外すんだって?
 あぁ、そうか、ドナー車はATだもんね。ミッションはこっちのを使わないとね。
 ……なかなか外れないね、えいっ、えいっ、えいっ!
 “ガゴッ” 
 あ、一気に外れたよぉ……って、危なかったぁ、足とかに落ちたら大怪我するよぉ。え? 大丈夫? 下に、ミッションジャッキ置いてるから、だって?

 エンジンとミッションが分かれたので、今度は、新しいエンジンの方を持って来て、ミッションとドッキングさせれば、交換はとりあえず終了になるね。
 その前に、クラッチを外してみて、残りを見てみよう……結構残りがあるから、このまま、組み付けても良さそうだね、だって? いいの柚月?

 「まだ、優子は新品買ってないから~、このままで良いよ~」

 まぁ、結構残ってるんだったら問題ないからいいか。
 で、さらに奥にあるのが、フライホイールなんだって。これも、向こうはATだから移植するんだって
 え? やっぱりって、何がやっぱりなの? このフライホイール、軽量品だって。
 えぇと、フライホイールを軽くすると、レスポンスが良くなるんだって?
 NAの場合は結構有効なんだけど、低速トルクが細るから、諸刃の剣でもあるのか……。

 やっぱり、凄くボルトが固いね……こういう時は、柚月にお任せだよ。
 ホラ、鉄パイプで延長したら、柚月のバカ力であっさり回るでしょ……コイツは異常なんだって、マゾだし。

 「マイ~、なんか言った~?」

 別に、それよりもさ、フライホイールって、回転するものでしょ、何でボルト回す時に、一緒に回らないの?
 あぁ、専用の周り止め工具があるんだ。なるほどね、工具を車側に固定して、工具の端のギザギザと、フライホイールの外周のギザギザが合って、止まるって寸法ね。

 外れてきたよ。
 なに柚月、クロモリ? 誰、その人? クロームモリブデン鋼っていう素材だって? 軽量フライホイールとか、自転車のフレームなんかに使われてるんだって?

 まぁ、何はともあれ、外れたこれらをチェックして、今度は、ドナーエンジンに組み込もう。
 外した逆をやればいいから、楽だよね。ただ、オートマのエンジンには、フライホイールの代わりに、ドライブプレートというのがあるから、そいつをフライホイールと同じ要領で外してやって、組み込む……と。
 で、今度はクラッチだね。これって純正なのかな。でも、結構、綺麗だし、ディスクがたくさん残ってるよね。

 「恐らく、エンジンのパワー的に、GT-Rの純正じゃないかな~?」

 なに? R32系の標準車には、前期型のGT-Rのクラッチが強化品として使えるんだ。確かに、GT-Rって、公称値を超えて、300馬力出てるって話もあるくらいだから、強化品になるのも頷けるね。それでいて純正品ってところもポイント高いよね。

 え? 取り付ける際は、センター出しをしないと、ダメだって?
 あぁ、クラッチのカバーの穴と、ディスクの穴の位置を合わせてやらないとダメだって事ね。 
 専用の工具があるんだね。これで、センターを合わせて……と、クラッチまでが取り付けられたね。これで、エンジンは搭載準備完了だ。
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