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春は出会い……

泣き虫とデフケース

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 私は、優子を乗せると、私の車で柚月を追った。
 私と優子には分かるんだ。今、柚月が何、考えてるのか。
 柚月はね、そうは見えないんだけど、超・負けず嫌いだからさー、悠梨が、思いの外、タイムが早かった上に、自分がミスって、悠梨のタイムが超えられなかったのが、とっても悔しいんだよ。

 ウン、分かるよー、柚月は、R33での8の字だったら、熟練度で絶対的に優位にいたはずの自分が勝つと思ってたのに、悠梨の上達が予想外に早くて、それを認めざるを得ないのはさ、特に柚月はバイクの時は1番だったからね。でも、そこは認めてあげようよ。

 「柚月、飛ばしてんなー、見失っちゃったよ」

 私が言うと、優子が

 「マイ、きっとあそこだよ」

 と言うので、私は

 「あそこか、私も、そうだと思ってたよ」

 と言った。
 私らは、つき合い長いからね。柚月の行くところなんて、大体お見通しなんだよ。
 街から、学校に向かう山の中腹にある公園に向かうと、予想通り、柚月のGTS-4が止められていた。

 私たちは、車を降りると、公園の端にあるジャングルジムへと向かった。
 予想通り柚月は、ジャングルジムの天辺に座っていた。
 
 「柚月、いい加減にしなよ。言い出しっぺは柚月じゃん」
 
 私が声を掛けながら登っていくと

 「マイには分からないんだよ。悠梨はさ、なんでも、ソツなくこなしてて、私はバイクだけは勝てて、車は、親のお下がりだって、言うから安心してたのにさ、R33に乗ってきてさ……ズルいんだよぉ」

 柚月は言いながら、涙を流していた。
 またかよぉ~、柚月は、昔からすぐに泣くんだもん。
 格闘技の試合で負けた時も、柚月のお父さんのゴルフクラブ折っちゃった時も、バイク買って貰えなかった時も、いつもここに来て泣いてるんだもん。子供の頃から、全く変わってないよね。

 「柚月、もう、悠梨の事、許してあげようよ~」

 優子はジャングルジムに登れないので、下から柚月に声を掛けている。
 柚月、みんな心配してるんだからさ、そんな癇癪《かんしゃく》起こしてないでさ。
 それに、LSD用意したのも柚月じゃん。置きっぱなしにしておいて、邪魔じゃないの?

 「ううっ!」

 ホラ、やっぱり邪魔になってるんじゃん! ね、悠梨にだってさ、別に今日は、たまたま、調子が悪くて負けただけなんだからさ。

 「そんな事ないもん! 本気で走ってたのに、負けたんだもん!」

 柚月は、顔を真っ赤にしながら、そう言った。

 イヤ、外から見てたけど、今日の柚月、超乗れてなかったよ。もう、ブレーキのタイミングをミスりまくって、ボンボンと外に膨らんでたし。

 「え?」

 タイムを訊いてなかったの?
 私と柚月は3秒半差、悠梨からは2秒差だって、だから、柚月は、悠梨に出した課題タイムにも、いってないんだよ。
 つまりは、この間、柚月が走ったのよりも遅いタイムなの!

 「そうなの?」

 柚月は、洟を啜りながら、きょとんとした表情で訊いてきた。
 もうさ、柚月、これも昔からそうなんだけどさ、癇癪起こす前に深呼吸して、人の話訊きなよ。免許取った時に、免許センターで言われなかった? イラっとすることがあっても、腹立てる前に、深呼吸して6秒待つと、イライラが収まって冷静になれるって。

 「ううっ!」

 もう、ほらティッシュ、鼻くらいかみなよ。
 柚月さ、子供じゃないんだから、負けず嫌いも程々にしとこうよ。
 悠梨に、敵意剥き出しにしても、悠梨は何とも思ってないんだからさ。それよりも、みんなで楽しく、悠梨の車借り出して、乗り回せば良いじゃん。

 柚月をジャングルジムから降ろすと、優子にGTS-4を任せて、柚月を私の車の助手席に乗せて、元のタレントショップ跡に向かった。
 駐車場にやって来ると、悠梨が

 「おい、柚月ー、突然いなくなるなよなー。意味が分からないだろー」

 と、敢えて軽口を言っていた。

 ちょっと悠梨、悠梨の車貸して、柚月がさっき不調だったから、もう1回走りたいんだって。
 ホラ柚月、今度こそ真面目に走りなさいよね。

 柚月が走って、優子がタイム計測してる間、私は、悠梨と雑談に花を咲かせていた。
 私は、この間買った、夏のお洒落着服の話をしていたはずなのに、気がついたら、ECR33の純正シートは、なんで、あんなダサい形なのに、座り心地と、腰のサポートが抜群なんだろ? って、話にすり替わってたんだけど、もう、みんな、車に毒され過ぎだよ! 私ら、お洒落系女子グループだったじゃん!
 え? 楽しいからよくね、だって? 別に、つまらなくは無いけどさ~、私は服の話をしたかったのー。
 で、悠梨はどうしたいの? 替えたいの? 今のところは、お金が無いから、このままだけど、そのうちに、イケてる社外品にしたいって? GT-Rのじゃなくて? アレって、結構高いから、それだけ出すなら、社外品でも良いかな? だって。
 そういうものかなぁ、シートなんて、座れればよくね? だったら、私のシートをよこせって? 嫌だよ! 兄貴と苦労してつけたんだからさ。

 あ、柚月が戻ってきた。
 どうだった? 4周してみて……ホラ、やっぱり乗れてなかっただけじゃん! 悠梨のタイムより早いでしょ。

 「じゃぁ~、来週から、デフの交換作業に入るよ~」

 柚月は、すっかり上機嫌で言い放った。
 もう、ウチの人間は、高3にもなって、扱い辛くて困るよ~。
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