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春は出会い……

カフェと伝説の人

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 へぇー、ここって、結構ファストファッションでも、私らの街にあるのとは、全然違うよね。何がって、言われると、ちょっと困るけどさ、なんか趣《おもむき》? そうだよ、趣が違うってやつよ。
 なんか、大人っぽいよね、全体にさ、大人の女ってやつ? 今の私にピッタリじゃね? と思っちゃってさ……なに、笑ってるんだよ柚月。パンツ脱ぐ?

 「大人の女は、そんなこと言わないもん~」

 うるさい! うるさい! 大人だって、怒る時は、怒るんだよ。
 大体、柚月のくせに、私の大人の女化計画をバカにするなんて、許されないんだよ。そんなの、10万年と4日早いんだよぉ。
 その4日ってのは、なんだって? いちいち口答えするんじゃない!

 さて、ファストファッションのお店を見て回って、結構シックで落ち着いた、イケてるお洒落着見つけちゃったから、つい買っちゃったよ。優子の割引券があったおかげで、結構お安く買えちゃったしね。
 結局、気がつくと、みんなも色々な服を買っていたよ。

 悠梨なんてさ、バラエティショップ行って、怪しげなスライムとか買ってるし、そんなもん、何に使うのさ?
 なんか、見て回ってると、まだオープンしてない区画があって、そこは、100均と本屋さんが入るみたいだね。

 ホントに、ここって教習所なの? マジで凄いし、マジで羨ましいね。
 私らの時、オープンしてたら、ちょっと考えちゃったかもな。原付で通うのは無理だけど、電車なら行けるしな。
 でもって、芙美香がダメだとか言うんだろうなぁ……。

 併設されてるお洒落なカフェで、みんなでお茶しながら、私らは、口々にここの施設の充実ぶりに感嘆していた。

 このカフェだってさ、表参道とか、セレブが住むような街にしかない系列のやつでしょ、私さ、入るの初めてなんだけど……って、みんなも初めてなのか。
 この抹茶ラテ、美味しいよ、柚月の、そのコーラフロートみたいのも美味しそうだね、え? 実際美味いって?
 結衣のブレンドも、深みがあって美味しいから、一口飲んでみてって? じゃぁ、私のラテも一口……あぁ、確かに濃いねぇ、そして、コクがあるよ。なるほど、さすがセレブが使うカフェだね。
 どしたの優子? 優子は、私と同じ抹茶ラテだから、一口しなくてもいいでしょ? 違うって?

 「あそこの席にいる女の人って、結構お洒落だね」

 え? どこどこ? 窓側の? あぁ、あそこね。
 そこには、緩いウェーブの明るめの茶髪を長く伸ばして、更にサイドテールにしている女の人が、コーヒーを片手に座っていた。

 遠目から一見すると、ケバく見えそうだが、コーディネートと、髪のせいで、そう見えているだけで、メイクはナチュラルで、ポイントだけを濃くつけている感じだね。
 それよりも、あの人、コーディネートに似つかわしくない程、美人だよ。キャミの上に、派手な柄のワンピ着て、ネックレスとか、結構つけてるけどさ、ちょとシックな色合いの、大人っぽいコーディネートにしたら、超映えるんですけど。

 あの人、ショップ店員っぽいコーデだね。
 免許取りに来たにしては、教習バッグ持ってないし、年齢的に、私らより2~3歳上っぽいから、教習生じゃなさそうだね……って、連れっぽい人が来たよ。

 「意外だね。連れの人が普通っぽくて」

 私と一緒に、向こうのテーブルの様子を見ていた優子がボソッと言った。
 確かに、連れの女の人は、年齢こそ一緒っぽいけど、いかにもスポーツやってます、って感じの、シャープで、髪もショートボブっぽい、黒めの茶髪だしさ、ちょっと、釣り合わないって言うのかな、ちょっと違和感を感じるんだよね。

 しかも、後から来た人の事を、フー子って呼んで、逆に、あの派手めの人のことはオリオリって、呼んでるよ。あだ名かな?

 「マイ~、優子~、何やってるの~? ちなみに~、私のは全部飲んじゃったよ~。あげないからね~」

 あ、柚月か、いいところなのに邪魔すんなよ。
 あそこのテーブルの2人を見てたんだからさ。
 柚月、いいよ、見なくても、どうせ柚月じゃ知ってる訳ないしね。

 「知ってるもん~、あの人って、確か、オリオリって人だろ~」

 え? 柚月、なんで知ってるの?

 「ここの駅の近くにあるショップで、伝説の店員だった人だよ~。マイも行った事あるじゃん。あの店から、渋谷本店に異動したって、凄い人なんだからな~」

 確かに、1、2年の頃に、悠梨や柚月に連れられて、電車に乗って、ここの駅の近くにあるショップは、行った事があるね。
 この辺りと、私らが住むあたりの地区のJKは、あそこの洗礼を受けとけ、っていうくらいの、地域一番のイケてるお店なんだよね。

 へぇ~、あそこの店員さんだった人なんだ。
 悠梨も知ってるの? 無論だって? ちょっと、悠梨、どこ行くの? サイン貰いに行くって? やめなよ! 芸能人でもないのに、迷惑だって……って、みんなして、どうして行くのよ。

◇◆◇◆◇

 訳の分からないまま、サイン貰って、みんなで撮影して貰っちゃったよ。
 凄い気さくな人だったね、オリオリさん。
 『舞chanへ Oriori』 
 だって、そんなに凄い人だったんだね。
 連れの人も、元々、JK時代は、お客さんだったんだってね、凄いね、今も交流が続いてるんだ。
 連れの人が、JK時代に、部活の試合で、ウチの高校に来たことがある、って言ってたね。
 この辺と、私らの街って、山を挟んで県が違うんだけど、学校同士の交流試合だとかって、地理的に近いから、県の枠超えて、結構やってるんだよね。

 さて、もう夕方だし、悠梨の伯父さんの別荘行って、温泉入って、カラオケやろうよぉ~。
 帰りにスーパーでも寄ってさ、食材買って、今日は、私と優子で夕飯作っちゃうからさ~……って、あれ、さっきのオリオリさんじゃね?

 お洒落な車に乗ってるね。水色のコンパクトカーで、ライトが丸くて、ちょっとゴツ可愛い感じの車。
 アレって外車? 違うって、R32と同じ頃に、日産から、限定発売されたパオって車だって?
 当時のマーチのシャーシを使って、全く新しいボディと、内装を作って発売した、当時流の『レトロ風現代車』だって?

 ふーん、あれ、日産の車なんだね。
 って、ちょっと見て見て、オリオリさんの車に3人乗ってるよ。ほら、あの助手席に乗ってる人って、教習バッグ持ってるよね。
 ほら、あの可愛い感じの、髪が肩のチョイ下くらいまである娘だよ。
 あの娘って、女子高生じゃね? なんか、雰囲気的にさ、私らと変わんない感じがするんだよね。

 あの娘の教習に、一緒について来てたんだね。
 マニュアルの教習だね。バッグの色で分かった。そして、免許取るってことは、あの娘さ、3年って事かぁ……なんで、そんな気になるんだって? だってさ、結構美人系だよ。ちょっと、お近づきになりたいな、って気にならない?

 結衣ったら、せっかちだなぁ……そんな少し、綺麗な子に見惚れてたみとれてたくらいで『置いていくからねー』は、なくない? これは私の車だって? だったら、なんで自分で運転してこなかったんだよぉー!

 そして、その日の夜は、温泉とカラオケで、空前絶後の宴会となった。
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