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春は出会い……

2台のノンターボ

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 「どう思う?」

 私は、結衣がテスト走行に行っている間、みんなに訊いてみた。

 「どうって?」

 優子が訊いてきたが、私に言わせれば、優子が言うと白々しく聞こえるよ。
 結衣には、考え方の違いだからって、きちんと理論的に説明したけどさ、あの負けず嫌いの結衣がさ、あれに乗っちゃうと、悔しさで卒倒しちゃうんじゃないかって思うんだよね。
 だってさ、優子の今の仕様だって、NA乗ってる人から見れば、涎が垂れるレベルでしょ?

 「だね~、これで、ハイカムまで入ってれば、NAチューンの第1ステップは、完成って感じだよね~」

 だよね~、柚月、この感覚は、結衣からすると、相当悔しく感じちゃうのかな~って、思っちゃうのよ。それで、結衣と優子のチューニング合戦みたいになっても、色々と困っちゃうしさ。

 「でも~、結衣の25を、同程度までにしても、ここまでのフィーリングは、出ないと思うよ~」

 そうなの柚月? なんで? 優子のエンジンが当たりだから?

 「エンジンの当たりハズレってのは、あんまり関係ないかな~? それよりも、25DEに対して、元々20DEの方が、高回転まで回りやすいエンジンだからね~」

 まじか~、やっぱりイメージ的に、排気量の少なさが、そうさせてるのかな?

 「違うよ、元々R32のは、20DEの方が、高回転型なんだよ」

 そうなの優子? 
 カタログスペックを見てみても、20DEの方が、最大パワーを400rpm高いところで出してるって?
 なるほど、それで体感的にも、20DEの方が回りやすいって、感じた訳なんだね。
 だから、優子の伯父さんも、25にしなかったのかな?

 「そうじゃないかな? 確か25が出た時に、伯父さんと一緒に試乗したって、お父さんから訊いたよ」

 ふーん、そうなのか。
 でも、実際、20DEと25DEだと、どっちが速いのかな?

 「その話をしたら、25でしょ。排気量も大きいし、パワーも確実に出てるし」

 だよね、優子。なのに、なんでだろ? あの負けた感を感じてしまうのは。

 「NAエンジンは~、実際のパワー以上に、フィーリングで体感が変わるからだよ~」

 なるほどね、柚月。
 AE86が、実際には大した速さでもないのに、速く感じるのは、シャーシ性能の低さと、エンジンフィーリングの良さの賜物たまものなんだって? 

 ほうほう、そういう事か。
 あ、結衣が戻ってきたよ。……なんでだろう? 心なしか怒ってるように見えるよ。

 「どんなチューニングしたのよ!」

 結衣、なんで怒ってるんだか知らないけどさ、落ち着こうよ。
 優子も言ってるじゃん、タコ足とマフラーと、エアクリーナーと、軽量フライホイールだってさ。
 え? 絶対、エンジンのバランス取りをして、カムまで替えてるって? そんな事ないよ。優子だって、解体屋さんで買ったAT車のエンジンだって、言ってるじゃん。
 なに? 私は黙ってろだって? 酷くない?

 その時、後ろから柚月と悠梨に捕まえられて、そのまま、悠梨の車の後ろの席に連れ込まれちゃったよ。
 
 「もう、ああなっちゃったら、放っとくしかないよ」

 悠梨に言われたんだけど、だから、って言っても、優子だって、見かけによらず負けん気の塊みたいな娘だからさ、放っといたら、あの2人、喧嘩になっちゃうかもよ。

 「大丈夫だって~、さすがに結衣だって、ある程度のところでセーブするからさ~」

 そうかな柚月? なんかハラハラしちゃってさ、見てられないんだよね。でもって、後ろの窓は開かないし……あぁ、気になってるのに、外に出られないよぉ。

 「安心しなって、マイよりか、私らの方が、よっぽど、しょっちゅう結衣怒らしてるんだからさ」

 そうか、それなら安心だ……って、なるか!
 なんか、一触即発みたいな雰囲気で怖いよ~。どっちも引かない性格だからさ、ホントに喧嘩になっちゃうんじゃないかって気になってさ~。

 あ、終わったみたいだよ。終わったみたいだけどさ、なんか、スッキリした顔になってない気がするよぉ……。
 悠梨は、さっきから大丈夫だって、言うんだけどさ、なんか、そんな感じには全く見えなくってさ。
 本当? 悠梨、大丈夫なのあの2人、nice boat.になったりしない? だったら、取り敢えず良かった……って、結衣がこっちに来たよ。もしかして、今度は私らに矛先が向いた?

 悠梨、早く車出して、帰ろうよぉ……って、ドア開けられちゃったよ。

 「マイ、ちょっと来て」

 だって、なんで私なのさ。
 くそっ! 柚月と悠梨め、他人事みたいに、車の中から手なんか振りやがってぇ~!

 「これから、優子のと、私の車で、タイムを計るから、マイが運転して」

 なんでよー! 自分の車なんだから、自分で運転すれば良いじゃん!
 なに? 当事者が運転したら、公正なタイム計測ができない? そんな訳ないじゃん! 
 それに大体、なんで私なのさ、柚月で良いじゃん!
 なんだって? 柚月だと手を抜いても分からないだって? 私が、まるで単純な人みたいじゃん! それに、この間のジムカーナ大会で、最速タイムを出した実績を評価してるんだって?

 なんか、取ってつけたような感じで、ムカつくよね~。
 帰りに、クレープ買ってあげるからだって?
 バカにするな~!

◇◆◇◆◇
 
 取り敢えず、優子の車での計測が終わったね。
 優子の車に、私と結衣で乗るっていう絵面が、まずにして、あり得ないんですけど。
 テストコースは、さすがに30分ずつかかると、時間かかるからさ、3分の1の距離で済む、解体屋さんの入口からのスタートにしたよ。
 
 取り敢えず、9分38秒らしい。
 ホントに優子の車は、私に向かって、とにかくエンジンを回せ回せ……って、誘ってくるからさ、ついつい思いっきり走っちゃうんだよね。
 恐らく、私の車だと、速さ的には、もっと速いんだろうと、体感で分かるけどさ、走った、っていう感じは、この車の方がずっと上だね。ランニングの後の気持ちよさみたいな感じがあってさ。

 そして、結衣の車か。
 ねぇ、結衣。もう終わりにしようよぉ~。優子の車は、体感的に速く感じるだけで、結衣の車の方が速いんだって。

 「つべこべ言ってないで、行くの! ここでやめても、結局、頂上までいくんだから、変わらないでしょ!」

 もう、仕方ないなぁ……大体、なんでこんな事になっちゃったんだろ?
 結衣が、優子に妙な対抗意識持つから、こんな面倒な事になっちゃってるんだよね。

 だってさ、こっちは2.5リッターで180馬力だよ。優子の方は、いくら、ちょっといじってるって言っても、2リッターの155馬力なんだからさ。
 兄貴が言ってたけど、ノンターボのエンジンで、10馬力上げるのって、メチャクチャ大変な事らしいよ。
 ターボは、マフラーだけで20馬力上がったり、ブーストアップって、やつで40馬力上がったりするらしいけど、ノンターボでそんな数字は、排気量を上げて、ハイカム入れて、圧縮比を上げて、バランス取りをしても出るかどうか怪しいって。

 そんなこと言っても、結衣のやつ、全然聞く耳持ってないよ。

 「3、2、1……スタート!」

 もう! 知らないから。

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