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夏は休み

お遣いとペプシコーラ

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 あれから家に帰って、ホーンの交換してみたんだ。
 純正ホーンとの入れ替えだから、あっという間に終わって、簡単だったよ。
 そして、なにより、音に大満足だよね。ちょっと高音をいじったから、私の理想とする音質に近づいたよ。
 やっぱり解体屋さんと知り合いで良かったよぉ、缶コーヒー1本で、この音質だからね。

 さて、今日は活動日なので、登校したよ。
 なんか、結衣の家が遅れて帰省するとかで、今週は休みな以外、あとはみんな出席で、活動なんだけど、別に作業らしい作業の予定は入ってないから、主に1、2年生の練習走行の同乗だね。
 まぁ、彼女たちにしてみれば、数少ない、車に乗れる機会だから、気合いは自然と入ってくるわけだから、主に、同乗する私らの方が、手が足りなくて大変になっちゃうんだよね。

 そして、あっという間に8月も終わりに近づいてるんだけどさ、忘れてる事がない?

 「マイ~、今年は夏の課題は無いよ~」
 「バカぁ!」

 柚月がくだらないボケをかましたため、力一杯ツッコんだ。
 うずくまっている柚月は無視して、続けた。

 秋の終わりに、エッセを使った耐久レースに出場することになるんだよ。今回は、3年生全員出場だから、対策やら、出走順やら、色々とやる事が出てくるんだよ。
 前回のジムカーナは、タイムで決めたから、私と、そこの恥部……もとい柚月とで自動で出走順も決まったけど、今回は全員で出場して、長丁場をもたせるレースだからね、作戦を立てなくちゃいけないんだ。

 だから、ちょっと来週は、3年生での打ち合わせも必要になってくるから、時間を取って貰いたいんだよね。
 それで、今回は2泊になります。だから、下級生も選抜して連れて行くことになるんだけど、それは休み明けに、おいおい決定するよ。

 じゃぁ、今日の活動を始めて……と、水野だ。

 「あぁ~、ちょっと役員2人に話が……」

 あぁ、なんか用事を言いつける呼び方だよ。
 オイ、柚月、いつまで寝てるんだよ!

◇◆◇◆◇

 やっぱり、用事だったよ。
 しかも、部と何の関係もない、学校のお遣いじゃん! 部車があるからって、部員を便利屋に使おうなんて、どうよ?

 「いいじゃん。お昼代貰ったしさ~」

 まぁね、しかもだ、今回の行き先は、県庁所在地にある高校なんだよ。つまりは、都会の高校だよね。お昼も結構いいとこで食べて来ようよ。
 ちょっと身が引き締まらね? う~ん、こんな、継ぎはぎみたいな部車で行くのは、気が引けるな……って、そう言えば、さっき、水野が言ってたけど、解体屋さんに、グリニッシュ・ブルーのS14が入って来たみたいだから、来週あたり見に行ってくれって言ってたよ。

◇◆◇◆◇

 用事って言っても、ただ、書類を渡してくるだけの簡単な用事だったね。
 なんか、夏休みで生徒もほとんどいないし、全然身が引き締まらなかったなぁ……じゃぁ、駅か国道の方に行って、シャレオツなお店でお昼にしよう……って、柚月がいない!

 あっ、校門の外にいるぞ、アイツ、帰りの足もないくせに、1人でほっつき歩きやがってぇ!
 “ゴチン”

 「痛いなぁ~、何するんだよぉ~!」

 学校の用事で来てるのに、フラフラ出歩くんじゃない!
 なに? ペプシコーラが飲みたかったぁ? 飲みたかったら、なんで私に黙って勝手に行っちゃうのよ?

 「だって、マイは絶対に『私の分も買って来て』とか言って、私をパシリに使うに決まってるもん、ケチでおデブなマイだから~」

 “ゴチン、ゴン”

 さぁ、帰るよ! ホラ、キリキリ歩く!

 「イヤだぁ~、ペプシコーラ買うんだもん、買うったら、買うんだもん~!」

 ここで、柚月と議論したり、引きずっていくと単に通行人の注目を集めて、学校の恥を晒すことになるからね。証拠の動画は、バッチリ撮ってあるから、後で優子に送信しよっと。

 しょうがない、まぁ、喉乾いたし、学校も休みで購買閉まってたしね、ここで買うか……って、この昭和臭のするペプシの看板って、ここ、文房具屋さんじゃないの?
 いやぁ、今時手動引き戸のお店で、中に入った瞬間にカビ臭がほんのりするよぉ……ここって、やってるの?

 「こんにちは~!」

 柚月は初めてでも、こんなお店でも、物怖じしないからな、こういうところ、羨ましいよ。
 ねぇ、柚月、やってないんじゃないの? 夏休み中だし、電気も消えてるし……って、蛍光灯が点いたぞ。
 あぁ、お婆さんが出てきたよ。大丈夫かな? 青いラベルになってないペプシコーラとか出てこないよね?

 瓶のペプシコーラが出てきたよ。
 え? 瓶のペプシコーラは、今年の春の製造で生産終了なので、もう飲めないんだって? そんな貴重だったの?
 飲み終わった瓶は持って帰ろう? 良いの? 柚月がお婆さんを押し切っているようにしか見えないなぁ……。

 改めて見てみると、このお店、凄いよ。
 色鉛筆が、バラ売りされてるよ。確かに、無くなる色は無くなるのに、黒とかは、しぶとく残ってるもんねぇ……。
 ほとんどの物が売れ残っていて、埃を被りきってるよ。
 上履きとかも、学校の購買で買えるもんね。わざわざここで買わなくても……え? 近くに小学校もあるんだ。なるほどね。

 店の壁一面にプラモデルがあるよ。
 でもって、これって、いつの車よ?

 柚月、このセドリックって、ドアミラーになってないんだけど、え? 430だって? あぁ、これが430型かぁ……1979年~83年のかぁ。
 これ『ニュークラウン』って書いてあるんだけど、クラウンって2800ccだっけ? 
 『セリカバツバツ』って何? え? 『ダブルエックス』だって? これも、2800ccみたいだよ。
 ねぇ、柚月、ここって?

 「おばちゃ~ん! ここのプラモデル、いくら~?」

 ……お婆ちゃん、どんぶり勘定だな、『全部500円でいいよ』だって、解体屋のおじさん並みの値付け術だな。

 「マイ、いくらある?」

 なんだよ柚月、学校から貰ったお金以外だと、5千円くらいかな?

 「私もそのくらいあるから、20個は買えるね!」

 オイ、柚月、プラモデル20個も買ってくつもりか? うち半分は私のお金だぞ! すると、柚月はとても妖艶な表情でニヤッとすると、私に耳打ちした。

 「マイ、悪いようにはしないから~」

 と言うので、私は柚月の指示に従って、棚からプラモを抜いているうちに、1つのプラモデルを発見した。
 レッドパールのR32クーペ、しかも、タイトルも『スカイラインGTS-t』だ。私は迷わずそれを取ると、柚月にパスした。

 「マイ~、R32もう1つある~?」

 柚月の声に見てみると、同じものがもう1個あったので、柚月にパスした。
 お婆ちゃんは、さすがに、20個もプラモデル買っていくと言ったら驚いていたけど、そんなにまとめて買うなら……とさらに値引きしてくれて7千円になった。
 更に、柚月ったら、バイト代出たらもう1回来て、またプラモ買っていきますなんて言ってるよ。
 そしたら、お婆ちゃんが『12月でお店閉めるから、欲しい物があったら、全部持って行ってもいいからね』なんて言ってたよ。……もう、こんな時代を感じる文房具屋さんじゃ、商売にならないんだろうね。

 S14を回してきて、トランクにプラモを積んでると、お婆ちゃんが、学校名を見て驚いてたよ。あんな山の中から来てるとは思わなかったんだね。
 そして、柚月と私に飴玉をくれて『来月も、きっと来てね』なんて言っていて、私も思わずホロリとしちゃったよ。

 お昼は駅前の洋食屋さんで食べた。
 柚月はこっちの高校にも知り合いがいて、その娘たちのイチ押しなんだって。確かに、ちょっとお洒落で、お安めの料理が出てきたよ。
 ハヤシライスがおススメだって言うので、おススメを食べてきたけど、お肉が口の中でトロっと溶けて美味しかったよ。

 帰りの高速道路で、私は言った。

 「柚月~、どうするんだよ? こんなにプラモ買ってきてさ~」
 「もちろん作るためだけど~? 同じ物2つずつ買ってきたから、マイは、R32以外の物、興味なかったら、売っちゃえば~? 恐らく、安く見積もっても、3万くらいにはなるから~」

 柚月の返答に驚いた。20個で7千円だから、私のは3,150円なのに、安く見積もっても3万だって?


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 ■あとがき■

 評価、多数のブックマーク頂き、大変感謝です。
 暑い中でも、モチベーションアップの源になってます。

 次回は
 買ってきたプラモデルの解説と、舞華はこれらをどうするのか?

 お楽しみに。
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