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夏は休み
マスキングとクリアランスレンズ
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よし、塗料も乾いたよ。これであとはボディを組み上げれば完成だね。
「ちょっと待ったぁ~!」
また柚月の妨害かよぉ……今度はなんだよ。
「最後に仕上げをしないと~、ここまでの苦労が水の泡だよ~」
仕上げって何するの?
まずはクリアを吹き付けるって? クリアっていうのは透明な膜で艶を綺麗に出すんだって?
ふーん、このクリアを吹き付けることによって、メタリックやパールの場合は、輝きと艶が増すんだ。色によっては、クリアでのコートが必須になってる場合があるって?
ふんふん、吹きつけてみると、表面が水に濡れたみたいにしっとりとして、乾いていくと、そこがそのまま艶に変わっていくような感じだね。
これはイイ感じだね。今までも、決して酷いという訳じゃなかったけど、ワイン系の色というよりは、小豆色という感じで、近づいてみて初めてメタリックの存在に気付くっていう状況だったんだけどさ、これでレッドパールにより近付いたような気がした。
しばらく乾かしてみて、見てみると、なんか屋根の部分とかが、ざらついてて、今一つだけど、その他の部位は、綺麗にしっとりと艶も出ていて良いんじゃないかと思うんだ。
柚月がそれを見て言った。
「クリアが~、万遍なくかかってなかったんだね~。もう1回いこうかぁ~」
どうも、ボディ側面に吹き付ける方に必死になってしまって、屋根には飛沫が飛んだような感じになってしまっている状態みたいなので、今度は屋根にしっかりと吹き付けてから乾かしに入った。
ちなみに、柚月曰くクリアの吹きつけは
「濡れたくらいの艶感が、目視できたら、完成だよ~」
なんだって。
そこまで必要なのかと、私もそれに従ってやってみたよ。
それが乾くまでの間で、今度はテールランプや、ウインカーランプの塗装をやったよ。
柚月曰く、R32の2ドアのテールランプは楽らしい、テールランプとウインカーランプが接していない上に、バックランプも離れているため、色が混ざり合うリスクがないのが大きな理由らしいよ。
なので、R32でも4ドアとか、R30系の後期型なんかは面倒な部類に入るんだって。
そして、ウインカーに関しては、説明書通りに仕上げてはいけないと言われた。
ふふふ、柚月、それは私も理由は知ってるよ。
この説明書さ、ヘッドライト脇を単純にクリアーオレンジで塗れって、指示してるけどさ、それじゃぁ、後期型になっちゃうよね。
そう、R32の標準車のライト脇のウインカーは、前期型はクリアレンズなんだよ。
ただし、バルブに色がついてるから、反射板に映りこんで、若干反射板側に色を付ける必要があるのと、ランプの最外側の出っ張りの部分だけが、オレンジに着色されてるので、ランプの透明部品では最外側の爪の先くらいの部分だけを塗って、後は、ボディが乾くのを待って、反射板の部分に着色すれば良いんじゃね?
「さっすが~、マイ~、えらいえらい~!」
コラっ! 柚月、私は犬じゃないやい! 頭を撫でるなっつの!
次はガラスの縁《ふち》付けだって?
縁ってさ、フロントガラスの端っこについてる黒いやつの事?
それもだけど、サイドガラスの境目の部分にも使うんだって? 特に、クーペの場合は、リアサイドガラスの縁取りを忘れちゃうと、間が抜けてしまうし、車種によっては、フロントのサイドガラスとの境界線も無くなって、のっぺらぼうになっちゃう場合もあるんだって。
見てみるとさ、このキットの場合は必須って事だよね。
だってさ、実車と違って、このプラモのサイドって、前後の窓の間の柱が無くて、それをガラスで代用しようって設計になってるからさ、そのガラスの縁取りがされてないと、リアサイドウインドーの形が分からなくなってるよね。
なに柚月? え? マスキングテープを使って、サイドガラスの塗っちゃマズい部分を隠しておくんだって?
確かに、このキットって、塗る部分が、すりガラスみたいに、半透明になっていて、塗る範囲が分かるようになっているけど、うっかり見落としたり、細かい作業で手元が狂う事も多いからね。出来ればマスキングしてからスプレーで吹きつけちゃった方が楽な気がするね。
マスキングテープを貼ったら、その縁は、爪楊枝や爪で、よーく、しごいてやらないと、テープの端の僅かな浮きから塗料が流れ込んで、剥がした時にガッカリしちゃうからね……だって?
結構マスキングって、細かい作業で神経すり減らすね。
本来的には、プラモの製作ってのは、準備と制作で、3日から1週間くらいかけるのが一般的なんだけど、今日は、かなりスピードを上げて1日で仕上げまでやっちゃってるから、工程的には結構、キツキツで組んじゃってるからね?だって?
このキットなら、ボディの塗装だけで、まる1日くらいかけて、その後の細かな塗り分けだけで半日から1日、内装だけで、1日から2日くらいかけられるのが、ベストなんだって?
そんなにかけられないよ、今日中にマスターして、完成させたいんだもん。
「マイ~、分かるよその気持ち~。私がそうだからね~、でも、綺麗に仕上げるには、必要な待ち時間だってのを、理解して欲しいな~。今回は下準備とかしてあるから、端折れるところは、かなり端折ってるからね~」
そうなのか。ちなみに、下準備って、なんかしてあった?
なに? 今日、私は内装の塗装や、塗り分けをした記憶はあるのかって? そう言えば、してないなぁ、アレは、あの日、柚月が同じキットを買ってあったから、先もって自分のキットの内装を仕上げておいて、私のと入れ替えたんだって?
そうなの、ありがと。
「マイ~、もっと感謝の気持ちを盛大に表して欲しいね~。まずは、跪いて貰おうかな~」
この野郎! 調子に乗るなよ! 柚月のくせに私に対して、そんな口が叩けると思うのか? そもそも、アンタは一生奴隷なハズだしね。
コラっ! やる気かぁ~、柚月め、このっ! こうなったら、『M字開脚ご開帳』にしてやるぞぉ~!
「あっ! そろそろ、クリアも乾いた頃だね~」
柚月め、上手く誤魔化して逃げやがったなぁ……。
帰ってきたら、M字開脚の続きだからなぁ~!
そんな私たちのやり取りとは、無縁のように、悠梨がすぐそばで、一心不乱に、自分のR33を筆塗りしていた。
悠梨はね、黙ってると死んじゃうタイプの娘だから、調理実習の時でも、全校集会の時でも、話しかけてくるんだけどさ、今日は本当に、静かだよね。
私は、悠梨をも黙らせてしまう、プラモの力に、感心すると同時に、思わず恐ろしくもなった自分がいた。
──────────────────────────────────────
■あとがき■
★、♥評価、多数のブックマーク頂き、大変感謝です。
暑い中でも、モチベーションアップの源になってます。
次回は
クリアが仕上がり、遂に細かな仕上げに入ります。
次回で完成するのか?
お楽しみに。
「ちょっと待ったぁ~!」
また柚月の妨害かよぉ……今度はなんだよ。
「最後に仕上げをしないと~、ここまでの苦労が水の泡だよ~」
仕上げって何するの?
まずはクリアを吹き付けるって? クリアっていうのは透明な膜で艶を綺麗に出すんだって?
ふーん、このクリアを吹き付けることによって、メタリックやパールの場合は、輝きと艶が増すんだ。色によっては、クリアでのコートが必須になってる場合があるって?
ふんふん、吹きつけてみると、表面が水に濡れたみたいにしっとりとして、乾いていくと、そこがそのまま艶に変わっていくような感じだね。
これはイイ感じだね。今までも、決して酷いという訳じゃなかったけど、ワイン系の色というよりは、小豆色という感じで、近づいてみて初めてメタリックの存在に気付くっていう状況だったんだけどさ、これでレッドパールにより近付いたような気がした。
しばらく乾かしてみて、見てみると、なんか屋根の部分とかが、ざらついてて、今一つだけど、その他の部位は、綺麗にしっとりと艶も出ていて良いんじゃないかと思うんだ。
柚月がそれを見て言った。
「クリアが~、万遍なくかかってなかったんだね~。もう1回いこうかぁ~」
どうも、ボディ側面に吹き付ける方に必死になってしまって、屋根には飛沫が飛んだような感じになってしまっている状態みたいなので、今度は屋根にしっかりと吹き付けてから乾かしに入った。
ちなみに、柚月曰くクリアの吹きつけは
「濡れたくらいの艶感が、目視できたら、完成だよ~」
なんだって。
そこまで必要なのかと、私もそれに従ってやってみたよ。
それが乾くまでの間で、今度はテールランプや、ウインカーランプの塗装をやったよ。
柚月曰く、R32の2ドアのテールランプは楽らしい、テールランプとウインカーランプが接していない上に、バックランプも離れているため、色が混ざり合うリスクがないのが大きな理由らしいよ。
なので、R32でも4ドアとか、R30系の後期型なんかは面倒な部類に入るんだって。
そして、ウインカーに関しては、説明書通りに仕上げてはいけないと言われた。
ふふふ、柚月、それは私も理由は知ってるよ。
この説明書さ、ヘッドライト脇を単純にクリアーオレンジで塗れって、指示してるけどさ、それじゃぁ、後期型になっちゃうよね。
そう、R32の標準車のライト脇のウインカーは、前期型はクリアレンズなんだよ。
ただし、バルブに色がついてるから、反射板に映りこんで、若干反射板側に色を付ける必要があるのと、ランプの最外側の出っ張りの部分だけが、オレンジに着色されてるので、ランプの透明部品では最外側の爪の先くらいの部分だけを塗って、後は、ボディが乾くのを待って、反射板の部分に着色すれば良いんじゃね?
「さっすが~、マイ~、えらいえらい~!」
コラっ! 柚月、私は犬じゃないやい! 頭を撫でるなっつの!
次はガラスの縁《ふち》付けだって?
縁ってさ、フロントガラスの端っこについてる黒いやつの事?
それもだけど、サイドガラスの境目の部分にも使うんだって? 特に、クーペの場合は、リアサイドガラスの縁取りを忘れちゃうと、間が抜けてしまうし、車種によっては、フロントのサイドガラスとの境界線も無くなって、のっぺらぼうになっちゃう場合もあるんだって。
見てみるとさ、このキットの場合は必須って事だよね。
だってさ、実車と違って、このプラモのサイドって、前後の窓の間の柱が無くて、それをガラスで代用しようって設計になってるからさ、そのガラスの縁取りがされてないと、リアサイドウインドーの形が分からなくなってるよね。
なに柚月? え? マスキングテープを使って、サイドガラスの塗っちゃマズい部分を隠しておくんだって?
確かに、このキットって、塗る部分が、すりガラスみたいに、半透明になっていて、塗る範囲が分かるようになっているけど、うっかり見落としたり、細かい作業で手元が狂う事も多いからね。出来ればマスキングしてからスプレーで吹きつけちゃった方が楽な気がするね。
マスキングテープを貼ったら、その縁は、爪楊枝や爪で、よーく、しごいてやらないと、テープの端の僅かな浮きから塗料が流れ込んで、剥がした時にガッカリしちゃうからね……だって?
結構マスキングって、細かい作業で神経すり減らすね。
本来的には、プラモの製作ってのは、準備と制作で、3日から1週間くらいかけるのが一般的なんだけど、今日は、かなりスピードを上げて1日で仕上げまでやっちゃってるから、工程的には結構、キツキツで組んじゃってるからね?だって?
このキットなら、ボディの塗装だけで、まる1日くらいかけて、その後の細かな塗り分けだけで半日から1日、内装だけで、1日から2日くらいかけられるのが、ベストなんだって?
そんなにかけられないよ、今日中にマスターして、完成させたいんだもん。
「マイ~、分かるよその気持ち~。私がそうだからね~、でも、綺麗に仕上げるには、必要な待ち時間だってのを、理解して欲しいな~。今回は下準備とかしてあるから、端折れるところは、かなり端折ってるからね~」
そうなのか。ちなみに、下準備って、なんかしてあった?
なに? 今日、私は内装の塗装や、塗り分けをした記憶はあるのかって? そう言えば、してないなぁ、アレは、あの日、柚月が同じキットを買ってあったから、先もって自分のキットの内装を仕上げておいて、私のと入れ替えたんだって?
そうなの、ありがと。
「マイ~、もっと感謝の気持ちを盛大に表して欲しいね~。まずは、跪いて貰おうかな~」
この野郎! 調子に乗るなよ! 柚月のくせに私に対して、そんな口が叩けると思うのか? そもそも、アンタは一生奴隷なハズだしね。
コラっ! やる気かぁ~、柚月め、このっ! こうなったら、『M字開脚ご開帳』にしてやるぞぉ~!
「あっ! そろそろ、クリアも乾いた頃だね~」
柚月め、上手く誤魔化して逃げやがったなぁ……。
帰ってきたら、M字開脚の続きだからなぁ~!
そんな私たちのやり取りとは、無縁のように、悠梨がすぐそばで、一心不乱に、自分のR33を筆塗りしていた。
悠梨はね、黙ってると死んじゃうタイプの娘だから、調理実習の時でも、全校集会の時でも、話しかけてくるんだけどさ、今日は本当に、静かだよね。
私は、悠梨をも黙らせてしまう、プラモの力に、感心すると同時に、思わず恐ろしくもなった自分がいた。
──────────────────────────────────────
■あとがき■
★、♥評価、多数のブックマーク頂き、大変感謝です。
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次回は
クリアが仕上がり、遂に細かな仕上げに入ります。
次回で完成するのか?
お楽しみに。
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