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秋は変化……

風船と虹

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 次は燈梨のだね。
 エアバッグ付き車は、ちょっと面倒臭いんだよね。

 「なんか、ボスも物凄く高かったよぉ」

 エアバッグキャンセルするからね。
 でも、兄貴が言ってたけど、電気の回路に詳しい人だったら、千円くらいで自作できるみたいだよ。

 「ううっ」

 でもって、かくいう兄貴だって、できてないしね。
 良いんだよ、安心を買ったつもりで、正規の値段を払ったと思えばさ。

 エアバッグ付きの場合は、まずはバッテリーのマイナス端子を外して、5分くらいかけて放電するんだって。
 その間で、ボスの形や、ハンドルについてる配線を見ていこう。
 燈梨は、モモのチューナーってハンドルにしたんだね。これって、グリップも太いけど、ちょうど手で握るであろう位置が、掌や、親指の付け根の形に合わせて抉ってえぐってあって、結構カッコ良いし、使い良さそうだよね。

 燈梨のボスは、リターンピンを打ち込むタイプだね。
 ハンドルを外した時に、裏側を見ると、2ヶ所出っ張ってる位置があるんだ。それって、左右にハンドルを回した時に、ウインカーを出してると、そのスイッチにぶつかって、ウインカーを消してくれる役割の出っ張りなんだけど、車種によって違ったりするんで、社外品の場合は、このリターンピンって、いうピンで代用するんだ。
 柚月の買ったボスは、最初からピンが打ち込まれてたけど、燈梨のは、自分で打ち込むタイプだから、ハンドルを外した後、裏側を見て自分で打ち込むんだよ。

 さて、そろそろ10分くらい経ったね。
 そしたら、あとは他のハンドル交換と一緒だよ。ホーンパッドの裏にネジがあるから、外すんだけど、エアバッグ車のそこのネジは、弄り止めの特殊形状になってるから、ボスに付属してるL字レンチで外していくんだ。

 「ぐぐぐ……ぐ……ぐ」

 回らないんでしょ。
 大抵、そのネジって、回り止めが塗ってあったりして、普通の人だと、付属のレンチだと舐めちゃったりするんだよね。
 ちょっと柚月、このネジ外してよ。なるはやでね。

 「なんで、燈梨ちゃんと私で、態度が違うんだよ~!」

 そりゃそうでしょ、燈梨は初心者で作業に慣れてないでしょ、柚月はエッセやノートのエアバッグハンドル交換したじゃん、段取りも、力加減も分かってるでしょ。
 ……まぁ、ホントは、燈梨はVIP待遇なのに対して、柚月は底辺の対応っていう、持って生まれた扱いの差があるんだよね。

 「マイ~! 何か言った~?」

 何にも言ってる訳ないじゃん、それよりもさっさとやろうよ。
 柚月、飛べない乳牛ちちうしは、ただの乳牛だぞ。

 「言ってることの意味が分からないよ~!」

 よし、外れたぞ、今度は燈梨にチェンジして、ホーンパッドを外して貰おう。
 このパッドの裏についてるコレが、エアバッグユニットだよ。これが爆発してエアバッグが展開するんだよ。

 そして、前に柚月がやってたのと同じ感じで、ハンドルを外していっちゃおう。
 そう、ナットは完全に外さずに、ハンドルの両端を持って縦横にリズミカルに揺らしながら、ハンドルを抜いていく方向に力を入れていくんだ。

 「えいっ! えいっ!」

 そうそう、そうやって力をかけながら、少しずつ少しずつ動かしていくと……
 “ガコッ”
 最後にはハンドルがこうやって抜けてくるから、ナットを外して、ハンドルを完全に抜くんだよ。

 そして、言われる前にハンドルを裏返してピンの位置を確認して、私に訊いてきたよ。さすが燈梨だね、どこかの柚月とは大違いだ……って、痛っ!

 「どういうところが、大違いなんだよ~!」

 作業に対する姿勢全般がだ。どこかの柚月は、調べれば、すぐに分かるR32の前期と後期のステアリング互換性が無い話すら調べずに、テキトーに作業した挙句、ハイキャスを誤作動させて大騒ぎして、私と燈梨の貴重な時間をパーにしてくれた迷惑者だからな。
 それに対して、この燈梨の作業に対するやる気と、確認動作のきめ細やかさはどうだい! これを大違いと言わずに、なんと言うんだよ!

 「ううっ……!」

 いいか、か弱い私に暴力振るってる暇があったら、燈梨の作業を観察しながら、サポートしてやるくらいの姿勢があっても良いんだぞ、若しくは、煎じて飲む爪のアカのお願いをするとかだ。

 「そんな物、飲むもんか~! それに、マイは、か弱くなんてないやい~!」

 あっ! 作業のサポートの礼も言わずに走り去っていきやがった。

 さぁ、バカは放っておいて、作業の続きといこうね。
 ハンドルが抜けると、黄色い輪っかみたいなものがあるでしょ? 燈梨も七海ちゃんも、みんなもよく見てね、これは、スパイラルケーブルっていって、エアバッグのセンサーや、ホーンを鳴らすのに必要なケーブルが入ってるんだよ。

 なので、エアバッグ車特有のものなんだ。試しに、部にあるR32のハンドルを抜いても、これは出てこないからね。
 それで、エアバッグをキャンセルしちゃうんだけど、だからと言って、このスパイラルケーブルをぞんざいに扱ったり、切っちゃったりすると、エアバッグ警告灯が点灯したり、ホーンが鳴らなくなったりするから、エアバッグを外した後も、長いお付き合いになるんだよ。

 まずは、エアバッグセンサーのハーネスに、ボスに付属していた抵抗を取り付けるんだ。これをつけることによって、センサーに、エアバッグ異常無しって、誤認させるんだよ。
 そして、もう1つのハーネスはホーンなので、こちらも取り付ける……と。

 え? なに七海ちゃん? このケーブルもクルクル回りそうに見えるけど、回していいのかって?
 あぁ、ハイキャスの舵角センサーの件の直後だから、そういう疑問が出てくるのか。

 これ自体は回しても問題ないけど、外した時の位置が、一番、ケーブルに無理がない位置だと思うから、取り付けの妨げにならない限りは、回す必要ないかな?
 じゃぁ、ボスを取り付けるんだけど、リターンピンは打ち込んだね。そうそう、ピンの真ん中あたりに印があるから、そこまでしっかり打ち込まないと、ボスが付かないからね。

 ボスを取り付ける際は、シャフトのギザギザに合わせてつけるから、大体の位置は決まってきちゃうんだけど、注意点は、ボスには「TOP」って、頂点の位置の印がついてるから、それに合わせてやる事ね。
 ズレちゃうと、ハンドルがズレてくっついちゃうから、気分的に良くないと思うよ。それに慣れちゃえばって、いう人がいるんだけどさ。視覚のズレって、なかなか慣れないもので、兄貴の友達が、やっぱりボスをちょっとズラしてつけちゃった時、1ヶ月我慢してたけど、やっぱりストレスに耐えられなくなって、修正したらしいよ。

 取り付けたらナットを締めて、そしたらついにハンドル本体だけど、その前にホーンボタンと、配線の接続と、アースの接続だね。
 昔の社外品は、アースは本体で取ってたらしいけど、今のは、別になってる事が多いみたいだね。ナルディは、今でも本体アースらしいけど、この差はなんだろ?

 そして最後は、ハンドル本体を、付属の皿ビスで留めるんだ。
 ハンドルをボスに留める皿ビスの頭は、六角形の独特な形のものが多いね。

 なに、七海ちゃん?
 なんで社外品のハンドルは、ボスを使って取り付けるのかって?
 それは、メーカーや車種ごとに、ハンドルのシャフトの径や形状がまちまちだからだよ。更に、純正のハンドルに、ラジオやクルーズコントロールのスイッチがついてるものだとか、電話のボタンがついてたりするのがあるからね、それらを内包させたりすることを考えると、ボスを使わないとくっつかないんだよ。

 ちなみに、R32でも、ハイキャス付きと無し、更にはGTSやGTS-tのオプションだったクルーズコントロールの有無で品番が違っているから、同じ車種でも、複数あるんだよ。

 よし、これで燈梨の方も、ハンドル交換が終わったね。

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