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冬は総括
片目と変化の兆し
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昨日は、家に帰ってから暗くなるのを待って、外に出てライト点けてみちゃったんだよね。
今までのライトでも不満は無かったんだけど、HIDの光と言ったらさ、感動の一言なんだよね。
もう真っ白で明るい光が、遠くまで照らしてくれてる感じが良くてさ、どこまでも走っていけそうな感じだよね。
そんな感動の余韻に浸っていた朝、学校にやって来た優子が、私らを見るなり
「大変なんだよー」
と言いながら飛び込んできた。
優子って、普段は冷静なんだけどさ、自分の事になるとパニックになっちゃって、支離滅裂な事を喚きまくってて話にならないから、まずは落ち着かせなくちゃ。柚月。
「オッケー」
柚月は言うと、優子の肩を押さえて
「まずは~、深呼吸してから~ゆっくりと話していこうねぇ~」
となだめた。
とは言っても実際のところ、柚月のバカ力で押さえつけられたら、優子の場合はどうにもならないから、なだめているようには見えないんだよね。
しばらくしてから、優子が言った。
「ライトが、片側点かないんだよ」
そりゃぁ優子、バルブ切れなんじゃない?
よくある事じゃん。なんだ、心配して損しちゃったよ……と言うと、優子は
「そんな単純なことな訳ないでしょ! バルブは交換したの。でも点かないんだから」
と憮然とした表情で喰って掛かってきた。
そんなにキレてかかられたって、そもそも私らのせいじゃないじゃん。
優子、マジで感じ悪いんですけど~。
「そうだよ~優子、人にキレる前にさ~、自分で調べてみればいいじゃん~」
普段の柚月にだったら、その言葉そっくりそのまま柚月に返すよって、言うところだけど、今は正論なのであえて突っ込まずにいたら、優子は下を向きながら
「ゴメン……」
と言って大人しくなってしまった。
正直さ、優子って、感情の動きが激しすぎるんだって、上手くコントロールできないと、色々なところで失敗するからね。
まぁいいや、とにかく優子のために調べよう……って、ホームルーム始まっちゃったよ。
◇◆◇◆◇
部室で燈梨とお昼にしながら、そのことについて話し合ったんだけど
「マイ~!!」
なんだよ柚菌か、ビックリするじゃないか。
「ユズキンって言うな~! それから変な妄想してるだろ~、どうせ、今の状況を『燈梨ちゃんと部室で2人きりでお昼~』とかさ~! 人の話を聞くんだよ~!」
そりゃぁ、人の話を聞くことは、やぶさかじゃないけど、菌の話は聞く気ないよ。それじゃぁ、ゆずゆずき~ん。
「どっこも、韻を踏んでない、ただの悪口じゃないか~!」
え? 今の悪口なの? 昨日のトレンドワードに入ってたよ『ゆずゆずきん』で検索してね。
「しないー!」
それで何よ柚月、もし、くだらない事だったら許さないからね。
「ライトの片目切れの原因なんだけど~」
どれどれ、検索したら定番トラブルみたいで出るわ出るわ……だったよ。
やっぱり優子は調べてなかったんだね。
どうやらスイッチの接触不良みたいだね。
中にある接点か、それを押す部分がすり減ったり、バネの劣化で押せなくなるのが原因らしくて、一番簡単な修理方法はスイッチの交換らしいけど、結局、いつかまた起こり得るものだし、一度修理方法を覚えると、結構簡単なものらしいから、一度後学のためにバラして修理してみた方が良いかもね。
「嫌だよー、スイッチ交換しようよ」
良いけど、優子新品買えるの?
十数年前に交換した人の例だと、当時で1万6千円くらいしてたみたいだよ。
今だと2万はオーバーしてそうだよね。
「ええっ!?」
そりゃぁ、あれだけ古い車のスイッチだからね。
しかも、最近買った人の情報が載ってないから、もしかすると製廃になったのかもね。
それに、R32って、ライトのスイッチが特殊だからさ、他の車種との共用性無いんだよね。だから、シルビアとかセフィーロと違って、部分だけでも流用して……とかできないよ。
「そんなぁ……」
だからって、中古部品使うのはやめようよ。
だってさ、その剥ぎ取った部品だって、いつまでもつか分からないし、下手したら、それも壊れてる可能性だってあるんだよ。
「あのさ……」
なに燈梨? 私に頬スリスリして欲しいの? 仕方ないなぁ……じゃぁ、ちょっとだけだよ。
え、それは後でね。だって?
「部にある車のスイッチをしばらく優子ちゃんに貸して、修理が終わったところで返却……ってのはどうかな?」
え、良いの燈梨? 優子にそんな事言うと、踏み倒されて一生返ってこないかもよ。
「そんなことしないよ!」
いや、きっと『燈梨ちゃんの物は、私の物、私の物は私の物でしょぉ』とか言ってそのまま返してくれないよ。
挙句、返してとか言うと、数日後に体の不調が起こってさ、神社の裏とかに燈梨の藁人形が打ち付けられてたりするんだよ。イヤー!
「マイ、いい加減にしてよ!」
まったく、ノリが悪いな優子は。
でもって、ホントに良いの?
「うん、元々暗い時間帯まで練習する車って決まってるからさ、あの2ドアのタイプMとかは明るい時間しか使ってないんだよ。しかも、雪が降ったら2ドアは使えなくなるから」
あぁ、そうか、あのタイプMは、教習車やGTEが来てからは1、2年生のメインの練習車じゃ無くなっちゃったもんね。
しかもスタッドレスも無いから、冬場はお休みになるのか。
じゃぁ、悪いんだけどしばらく借りるね。
「うん、いいよ」
燈梨はニコッとして言った。
いい娘だ。代わりに私が頬をスリスリしちゃおう。
「あははは……」
燈梨ったら、もっと素直に喜びを表現しても良いんだよぉ。
え? 嫌がってるんだって? なんだと柚月、モテないからって僻むな!
◇◆◇◆◇
放課後、早速ガレージに行って、文化祭以来のタイプMとの対面を果たしちゃったよ。
ウン、この部の活動は、この車の整備から始まったんだよね。
そう考えると、この車って、この部の原点みたいなものだよね。
「大袈裟だなぁ~」
そうかな柚月?
だってこの車が無ければ、活動らしい活動なんて無かったじゃん。
ムーヴとプレミオを前にただただ、柚月と悠梨が悪ふざけしてるだけの意味の無い活動になってたんだよ。
まぁいいや。
それで、今回の作業の主役は優子だから、今回は優子先生にライトのスイッチをサクッと外して貰いましょー。
「ええっ!? 私1人でなの?」
そりゃそうだよ、こんなのドライバー1本でできる、軽作業中の軽作業だよ。
しかも重いものも無いから、箸より重い物の持てない優子にもピッタリの作業じゃん。
サテライトスイッチのあるメーターフードを外しちゃえば、もう作業は8割終わったも同然なんだからさ。
「私、初めてなんだよ!」
あのさ、私だってそのフードまで外したけどさ、その時って、私しか車に乗ってなくて、誰も手伝ってくれない中でやったんだよ。
「そうだね~」
そうか、あの時は、教習所帰りの柚月もいたか……って、あの時、柚月は手伝いもしないで見てただけだったなぁ……思い出しただけでムカムカしてくるから殴っちゃおう。
「痛いなぁ~、なにするんだよぉ~!」
うるさい! 薄情者の柚月め、殴られて当然だ!
優子は、1つのパネルを外そうとすると、重なった隣のパネルを外さなくちゃいけない事に気付いて、かなり苦戦している様子だった。
うんうん、初心者はそうやって1つ1つ失敗しながら覚えていかないとね。
私は、ついこの間の事のように春の出来事を思い出しながら、なんか、変わってきた自分を感じてしまったよ。
私って、いつの間にオイル交換は自分でやるのが当たり前のような人間になっちゃったんだろうって。
「取れた!」
スイッチを取り外して嬉々とした表情を浮かべる優子を見て、私はしみじみと考えてしまった。
今までのライトでも不満は無かったんだけど、HIDの光と言ったらさ、感動の一言なんだよね。
もう真っ白で明るい光が、遠くまで照らしてくれてる感じが良くてさ、どこまでも走っていけそうな感じだよね。
そんな感動の余韻に浸っていた朝、学校にやって来た優子が、私らを見るなり
「大変なんだよー」
と言いながら飛び込んできた。
優子って、普段は冷静なんだけどさ、自分の事になるとパニックになっちゃって、支離滅裂な事を喚きまくってて話にならないから、まずは落ち着かせなくちゃ。柚月。
「オッケー」
柚月は言うと、優子の肩を押さえて
「まずは~、深呼吸してから~ゆっくりと話していこうねぇ~」
となだめた。
とは言っても実際のところ、柚月のバカ力で押さえつけられたら、優子の場合はどうにもならないから、なだめているようには見えないんだよね。
しばらくしてから、優子が言った。
「ライトが、片側点かないんだよ」
そりゃぁ優子、バルブ切れなんじゃない?
よくある事じゃん。なんだ、心配して損しちゃったよ……と言うと、優子は
「そんな単純なことな訳ないでしょ! バルブは交換したの。でも点かないんだから」
と憮然とした表情で喰って掛かってきた。
そんなにキレてかかられたって、そもそも私らのせいじゃないじゃん。
優子、マジで感じ悪いんですけど~。
「そうだよ~優子、人にキレる前にさ~、自分で調べてみればいいじゃん~」
普段の柚月にだったら、その言葉そっくりそのまま柚月に返すよって、言うところだけど、今は正論なのであえて突っ込まずにいたら、優子は下を向きながら
「ゴメン……」
と言って大人しくなってしまった。
正直さ、優子って、感情の動きが激しすぎるんだって、上手くコントロールできないと、色々なところで失敗するからね。
まぁいいや、とにかく優子のために調べよう……って、ホームルーム始まっちゃったよ。
◇◆◇◆◇
部室で燈梨とお昼にしながら、そのことについて話し合ったんだけど
「マイ~!!」
なんだよ柚菌か、ビックリするじゃないか。
「ユズキンって言うな~! それから変な妄想してるだろ~、どうせ、今の状況を『燈梨ちゃんと部室で2人きりでお昼~』とかさ~! 人の話を聞くんだよ~!」
そりゃぁ、人の話を聞くことは、やぶさかじゃないけど、菌の話は聞く気ないよ。それじゃぁ、ゆずゆずき~ん。
「どっこも、韻を踏んでない、ただの悪口じゃないか~!」
え? 今の悪口なの? 昨日のトレンドワードに入ってたよ『ゆずゆずきん』で検索してね。
「しないー!」
それで何よ柚月、もし、くだらない事だったら許さないからね。
「ライトの片目切れの原因なんだけど~」
どれどれ、検索したら定番トラブルみたいで出るわ出るわ……だったよ。
やっぱり優子は調べてなかったんだね。
どうやらスイッチの接触不良みたいだね。
中にある接点か、それを押す部分がすり減ったり、バネの劣化で押せなくなるのが原因らしくて、一番簡単な修理方法はスイッチの交換らしいけど、結局、いつかまた起こり得るものだし、一度修理方法を覚えると、結構簡単なものらしいから、一度後学のためにバラして修理してみた方が良いかもね。
「嫌だよー、スイッチ交換しようよ」
良いけど、優子新品買えるの?
十数年前に交換した人の例だと、当時で1万6千円くらいしてたみたいだよ。
今だと2万はオーバーしてそうだよね。
「ええっ!?」
そりゃぁ、あれだけ古い車のスイッチだからね。
しかも、最近買った人の情報が載ってないから、もしかすると製廃になったのかもね。
それに、R32って、ライトのスイッチが特殊だからさ、他の車種との共用性無いんだよね。だから、シルビアとかセフィーロと違って、部分だけでも流用して……とかできないよ。
「そんなぁ……」
だからって、中古部品使うのはやめようよ。
だってさ、その剥ぎ取った部品だって、いつまでもつか分からないし、下手したら、それも壊れてる可能性だってあるんだよ。
「あのさ……」
なに燈梨? 私に頬スリスリして欲しいの? 仕方ないなぁ……じゃぁ、ちょっとだけだよ。
え、それは後でね。だって?
「部にある車のスイッチをしばらく優子ちゃんに貸して、修理が終わったところで返却……ってのはどうかな?」
え、良いの燈梨? 優子にそんな事言うと、踏み倒されて一生返ってこないかもよ。
「そんなことしないよ!」
いや、きっと『燈梨ちゃんの物は、私の物、私の物は私の物でしょぉ』とか言ってそのまま返してくれないよ。
挙句、返してとか言うと、数日後に体の不調が起こってさ、神社の裏とかに燈梨の藁人形が打ち付けられてたりするんだよ。イヤー!
「マイ、いい加減にしてよ!」
まったく、ノリが悪いな優子は。
でもって、ホントに良いの?
「うん、元々暗い時間帯まで練習する車って決まってるからさ、あの2ドアのタイプMとかは明るい時間しか使ってないんだよ。しかも、雪が降ったら2ドアは使えなくなるから」
あぁ、そうか、あのタイプMは、教習車やGTEが来てからは1、2年生のメインの練習車じゃ無くなっちゃったもんね。
しかもスタッドレスも無いから、冬場はお休みになるのか。
じゃぁ、悪いんだけどしばらく借りるね。
「うん、いいよ」
燈梨はニコッとして言った。
いい娘だ。代わりに私が頬をスリスリしちゃおう。
「あははは……」
燈梨ったら、もっと素直に喜びを表現しても良いんだよぉ。
え? 嫌がってるんだって? なんだと柚月、モテないからって僻むな!
◇◆◇◆◇
放課後、早速ガレージに行って、文化祭以来のタイプMとの対面を果たしちゃったよ。
ウン、この部の活動は、この車の整備から始まったんだよね。
そう考えると、この車って、この部の原点みたいなものだよね。
「大袈裟だなぁ~」
そうかな柚月?
だってこの車が無ければ、活動らしい活動なんて無かったじゃん。
ムーヴとプレミオを前にただただ、柚月と悠梨が悪ふざけしてるだけの意味の無い活動になってたんだよ。
まぁいいや。
それで、今回の作業の主役は優子だから、今回は優子先生にライトのスイッチをサクッと外して貰いましょー。
「ええっ!? 私1人でなの?」
そりゃそうだよ、こんなのドライバー1本でできる、軽作業中の軽作業だよ。
しかも重いものも無いから、箸より重い物の持てない優子にもピッタリの作業じゃん。
サテライトスイッチのあるメーターフードを外しちゃえば、もう作業は8割終わったも同然なんだからさ。
「私、初めてなんだよ!」
あのさ、私だってそのフードまで外したけどさ、その時って、私しか車に乗ってなくて、誰も手伝ってくれない中でやったんだよ。
「そうだね~」
そうか、あの時は、教習所帰りの柚月もいたか……って、あの時、柚月は手伝いもしないで見てただけだったなぁ……思い出しただけでムカムカしてくるから殴っちゃおう。
「痛いなぁ~、なにするんだよぉ~!」
うるさい! 薄情者の柚月め、殴られて当然だ!
優子は、1つのパネルを外そうとすると、重なった隣のパネルを外さなくちゃいけない事に気付いて、かなり苦戦している様子だった。
うんうん、初心者はそうやって1つ1つ失敗しながら覚えていかないとね。
私は、ついこの間の事のように春の出来事を思い出しながら、なんか、変わってきた自分を感じてしまったよ。
私って、いつの間にオイル交換は自分でやるのが当たり前のような人間になっちゃったんだろうって。
「取れた!」
スイッチを取り外して嬉々とした表情を浮かべる優子を見て、私はしみじみと考えてしまった。
応援ありがとうございます!
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