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冬は総括
悠梨とシーソー
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それじゃぁ、これを早速優子の車につけて、チェックしてみようよ。
先もって優子の車も、ガレージの前に持って来てるから、ちゃきちゃきっと交換しちゃおう……って、なんか優子の車、香水のにおいがきついよ……。
「なんか最近ね、カビ臭いにおいがするんだよ。それに、窓の内側が曇る時があってさ」
……それってさ、優子。
優子の車に、どこかから水が漏ってるって事のような気がするんだけど、大丈夫なの?
まぁ、それは別の機会に改めて見るとして、まずは先に外しちゃおう。
2回目だから、さすがの優子も少し慣れた感じで、作業スピードが上がってきたよ。
メーターフードを外して、ライトスイッチのネジを外してつけ換えて。配線を接続……と優子ー、ライトのスイッチ入れてみてー。
「なんで?」
なんでって、もし、全部ネジまで締めた後に、今度は両方点かなかったらどうするの? そこまで見通して作業はするもんだよ。
優子は『そうか!』みたいな顔をしてから、ライトスイッチをオンにしたよ。
私は外から見たところ、しっかり点いていた。
いいよ~、両方点いてる。
さて、これで問題のライトスイッチを入手したわけなんだけど、正直、私も後学のためとは言え、やった事の無いスイッチの分解なんて事に手を出しちゃって大丈夫なのかな……なんて、言い出しっぺながら不安になってきちゃったんだよね。
うん、大丈夫大丈夫……と。
◇◆◇◆◇
翌日の朝、ホームルーム前に結衣と悠梨と話してたんだ。
あとの2人は、まだ来てなかったからね。
やっぱり、話題は優子の車のライトスイッチの話だった。
「私はR33だから実感ないんだけどさ、R32のライトスイッチでゴツイよね。どうなってるの?」
家に帰ってからネット見ておさらいしてきちゃったよ。
確かにゴツイんだけど、結構内部構造はシンプルなものだったよ。私でも原理が理解できちゃったからさ。
スイッチが入ると3つのうちの適切な接点に対して、筒型の樹脂が、バネの力によって押し出されてきて、接点を押すんだけどさ、その3つの構成要件のどれかが不良なんだよ。
「どれかって、どれ?」
それが分かれば苦労は無い訳ですよ、悠梨先生。
ネットを調べた結果、一番多かったのは、樹脂が減っていて、接点を押し出せないパターンなんだけど、その他にも、押してるんだけど接点が劣化していて、復活剤を塗ったケースとか、その2つは問題ないんだけど、バネがイカレてて、押し出してこないケースなんてのもあってさ、正直、バラしてみないと、どれだか分からないんだよ。
あ、優子と柚月が来た。
珍しいね、2人一緒なんてさ。
「ちょっと、ライトスイッチについて、ネットで調べてたら、寝るのが遅くなっちゃってさ……」
一応、優子にもやる気はあるみたいだね。
だったら、今回は優子主導でやって貰おうかな、その方が、優子のためにもなるでしょ。
なにせ、優子の場合は、車に色々したいけど、人任せって姿勢がありありとしててさ、それって良くない傾向なんだよね。
別にお金を払ってやって貰うって言うんだったら、それもアリなんだけど、お金は出さない、手は出したくない、だけど結果だけ欲しいなんて虫のいい話は無いからね。
それに、自分で成し遂げたっていう達成感があると、同じ結果でも満足もできるし、何より愛着が湧くってもんじゃね?
優子ってさ、今までロクに部活もやった事もないし、スポーツとか文科系の活動もしてたことが無いから、特にこの手の感動とか達成感に薄い人生送ってるんだよね。それだけに、きっと私らよりも感動や達成感の度合いが大きいと思うんだよね。
え? 散々愛着の話してるけど、私はどうなのかって?
そんなの、私の車にはないよ。今、私がしてたのはあくまで一般論の話で、私に当てはまるって事じゃないんだよ。
放課後になったので、みんなで部室に移動したんだ。
今日の作業はスイッチの分解だから、ガレージみたいな所よりも、しっかりした机の上でやった方が良い作業だよ。
それに、下級生の活動の邪魔になるしね……って、思うんだけど、さっきから、私らのすぐ後ろに何故かななみんがいるんだけどさ、なに? 燈梨に許可は取ったけど邪魔だった? 邪魔だってんなら、私らななみんの部屋の机の上でやるけど?
言っとくけど、コイツらは、手が空くと人の部屋のタンスの中とか物色するからね。柚月の部屋なんて、しょっちゅうタンス漁られてるし。
「今日は~ディフェンダーじゃなくて、フォワードだから~頑張っちゃお~!」
おおっ! 柚月、やる気だね! そうだよね、いつも柚月の家で結衣や優子にタンス漁られてたもんね。
「マイ~、ななみんの家で、おやつご馳走になろうよ~」
え! でもって、さすがにななみん抜きでそんな事……なに? 柚月がいれば、顔パスでおやつが出てくるんだって? あそ、良いなぁ、じゃあみんな、中断してななみんの家に集合ね。
さすがに車5台で行くと迷惑だから、1台にまとまって行こう。私的に悠梨か結衣の車が良いなぁ……。
「待ってくださいっス!」
ななみん、口癖なんだろうけど、『待ってください』の後に『です』は要らないよ。
「自分は、2年代表として、先輩たちの作業を見学しに来たんです。R32は部車に多いので、後学のためにです」
なんかちょっと怪しい気がするけど、取り敢えずいいや、作業を開始しよう。
まずはこのスイッチの側面に、合わせ目みたいなラインがあるから、ここをマイナスドライバーとかで、グイグイとこじって、真っ二つに割るんだって。
ライトのオンオフスイッチのダイヤルをグリグリやって外してから、今度は真っ二つに……なったよ!
そして、今度は中の様子を見てみよう。
なんか3つのボッチと、反対側には3つのシーソー状の板があるね。
このボッチが出っ張って、反対側の板を押すと、接点が接触して電流が流れるって寸法だね。
一番多いケースが、このボッチがすり減って、板を押せなくなるってものなんだけど、見た感じ、このボッチは綺麗で、高さも同じに揃ってるね。
次のケースは、そのボッチを押し出すバネがイカレてて、動かないってケースなんだけど、これはダイヤルを仮付けして、私がひねってみるよ。
え~~い!!
“カチッ、カチッ、カチッ”
どう?
「普通に、3つのポッチが出たり入ったりしてて、取り立ててどこかの動きがおかしいって訳じゃなかった」
そうか結衣、ありがと。
優子の話だと、点かないのは片目だけだったらしいから、3つが同じように動いていたんだとしたら、バネも正常だって事だね。
となると残るのは接点だよ。
私は、元々機械ものが苦手だから、この辺の話になると、どうしていいのかが全く分からないんだよ。
一応、ネット上の情報では、接点復活剤というものを使うと……って書いてあったんだけどさ。
誰か詳しい人?
ダメだ、誰も手を挙げない。
よく考えてみれば、みんな、電気には弱そうな顔してるもんな。
「マイ、私がやるよ」
え? 悠梨……そうか、悠梨は軽音楽部で、アンプとかいじってたもんね。
頼んだよ悠梨。そして、結衣は、ななみんの見張りを交代ね。
「ええっ! 自分、見張られてたんですか?」
無論だよ。
ななみんはお芝居が下手だから、私らの事を見張ってることくらいお見通しだっての、だから、逆に私らがななみんを見張ってたのさ。
悠梨がスイッチの前に座ると、鞄の中から、ペンケースのようなものを取り出したけど、私は知ってるよ、軽音楽部の時も、アンプやエレキギターをいじる時に、悠梨はあのケースの中から工具を出してたんだ。
悠梨は集中したように、何か小さなスポイトみたいなので、チュッと液体を出すと、綿棒を出してシュコシュコと磨き始めたよ。
確かにこの板、通電するために金属製になってるんだけど、悠梨が綿棒でゆっくり擦るごとに、くすんだ感じだったのが、鏡みたいにテカテカし始めてきたよ。
「ここ、怪しいよね」
悠梨が指した先の板は、ごく小さな黒ずみみたいなものがあった。
悠梨はそこにも液体を出すと、一心不乱に磨き始めたんだよ。
おお……おおお! あの黒ずみが消えて、新品みたいに綺麗になったよぉ。
その後悠梨は念のためと言って、残りの1つの板も綺麗に磨くと、小さなボトルに入ったスプレーを、シュッシュッと吹き付けた。
そして、さっきチェックした反対側の方にも、磨いた後で何かをスプレーして、接点とプッシュするスイッチの嵌合を見た上で組み立てると
「恐らく、これで治ったと思うよ」
と言った。
私を除いた全員が、悠梨を見直した瞬間だった。
先もって優子の車も、ガレージの前に持って来てるから、ちゃきちゃきっと交換しちゃおう……って、なんか優子の車、香水のにおいがきついよ……。
「なんか最近ね、カビ臭いにおいがするんだよ。それに、窓の内側が曇る時があってさ」
……それってさ、優子。
優子の車に、どこかから水が漏ってるって事のような気がするんだけど、大丈夫なの?
まぁ、それは別の機会に改めて見るとして、まずは先に外しちゃおう。
2回目だから、さすがの優子も少し慣れた感じで、作業スピードが上がってきたよ。
メーターフードを外して、ライトスイッチのネジを外してつけ換えて。配線を接続……と優子ー、ライトのスイッチ入れてみてー。
「なんで?」
なんでって、もし、全部ネジまで締めた後に、今度は両方点かなかったらどうするの? そこまで見通して作業はするもんだよ。
優子は『そうか!』みたいな顔をしてから、ライトスイッチをオンにしたよ。
私は外から見たところ、しっかり点いていた。
いいよ~、両方点いてる。
さて、これで問題のライトスイッチを入手したわけなんだけど、正直、私も後学のためとは言え、やった事の無いスイッチの分解なんて事に手を出しちゃって大丈夫なのかな……なんて、言い出しっぺながら不安になってきちゃったんだよね。
うん、大丈夫大丈夫……と。
◇◆◇◆◇
翌日の朝、ホームルーム前に結衣と悠梨と話してたんだ。
あとの2人は、まだ来てなかったからね。
やっぱり、話題は優子の車のライトスイッチの話だった。
「私はR33だから実感ないんだけどさ、R32のライトスイッチでゴツイよね。どうなってるの?」
家に帰ってからネット見ておさらいしてきちゃったよ。
確かにゴツイんだけど、結構内部構造はシンプルなものだったよ。私でも原理が理解できちゃったからさ。
スイッチが入ると3つのうちの適切な接点に対して、筒型の樹脂が、バネの力によって押し出されてきて、接点を押すんだけどさ、その3つの構成要件のどれかが不良なんだよ。
「どれかって、どれ?」
それが分かれば苦労は無い訳ですよ、悠梨先生。
ネットを調べた結果、一番多かったのは、樹脂が減っていて、接点を押し出せないパターンなんだけど、その他にも、押してるんだけど接点が劣化していて、復活剤を塗ったケースとか、その2つは問題ないんだけど、バネがイカレてて、押し出してこないケースなんてのもあってさ、正直、バラしてみないと、どれだか分からないんだよ。
あ、優子と柚月が来た。
珍しいね、2人一緒なんてさ。
「ちょっと、ライトスイッチについて、ネットで調べてたら、寝るのが遅くなっちゃってさ……」
一応、優子にもやる気はあるみたいだね。
だったら、今回は優子主導でやって貰おうかな、その方が、優子のためにもなるでしょ。
なにせ、優子の場合は、車に色々したいけど、人任せって姿勢がありありとしててさ、それって良くない傾向なんだよね。
別にお金を払ってやって貰うって言うんだったら、それもアリなんだけど、お金は出さない、手は出したくない、だけど結果だけ欲しいなんて虫のいい話は無いからね。
それに、自分で成し遂げたっていう達成感があると、同じ結果でも満足もできるし、何より愛着が湧くってもんじゃね?
優子ってさ、今までロクに部活もやった事もないし、スポーツとか文科系の活動もしてたことが無いから、特にこの手の感動とか達成感に薄い人生送ってるんだよね。それだけに、きっと私らよりも感動や達成感の度合いが大きいと思うんだよね。
え? 散々愛着の話してるけど、私はどうなのかって?
そんなの、私の車にはないよ。今、私がしてたのはあくまで一般論の話で、私に当てはまるって事じゃないんだよ。
放課後になったので、みんなで部室に移動したんだ。
今日の作業はスイッチの分解だから、ガレージみたいな所よりも、しっかりした机の上でやった方が良い作業だよ。
それに、下級生の活動の邪魔になるしね……って、思うんだけど、さっきから、私らのすぐ後ろに何故かななみんがいるんだけどさ、なに? 燈梨に許可は取ったけど邪魔だった? 邪魔だってんなら、私らななみんの部屋の机の上でやるけど?
言っとくけど、コイツらは、手が空くと人の部屋のタンスの中とか物色するからね。柚月の部屋なんて、しょっちゅうタンス漁られてるし。
「今日は~ディフェンダーじゃなくて、フォワードだから~頑張っちゃお~!」
おおっ! 柚月、やる気だね! そうだよね、いつも柚月の家で結衣や優子にタンス漁られてたもんね。
「マイ~、ななみんの家で、おやつご馳走になろうよ~」
え! でもって、さすがにななみん抜きでそんな事……なに? 柚月がいれば、顔パスでおやつが出てくるんだって? あそ、良いなぁ、じゃあみんな、中断してななみんの家に集合ね。
さすがに車5台で行くと迷惑だから、1台にまとまって行こう。私的に悠梨か結衣の車が良いなぁ……。
「待ってくださいっス!」
ななみん、口癖なんだろうけど、『待ってください』の後に『です』は要らないよ。
「自分は、2年代表として、先輩たちの作業を見学しに来たんです。R32は部車に多いので、後学のためにです」
なんかちょっと怪しい気がするけど、取り敢えずいいや、作業を開始しよう。
まずはこのスイッチの側面に、合わせ目みたいなラインがあるから、ここをマイナスドライバーとかで、グイグイとこじって、真っ二つに割るんだって。
ライトのオンオフスイッチのダイヤルをグリグリやって外してから、今度は真っ二つに……なったよ!
そして、今度は中の様子を見てみよう。
なんか3つのボッチと、反対側には3つのシーソー状の板があるね。
このボッチが出っ張って、反対側の板を押すと、接点が接触して電流が流れるって寸法だね。
一番多いケースが、このボッチがすり減って、板を押せなくなるってものなんだけど、見た感じ、このボッチは綺麗で、高さも同じに揃ってるね。
次のケースは、そのボッチを押し出すバネがイカレてて、動かないってケースなんだけど、これはダイヤルを仮付けして、私がひねってみるよ。
え~~い!!
“カチッ、カチッ、カチッ”
どう?
「普通に、3つのポッチが出たり入ったりしてて、取り立ててどこかの動きがおかしいって訳じゃなかった」
そうか結衣、ありがと。
優子の話だと、点かないのは片目だけだったらしいから、3つが同じように動いていたんだとしたら、バネも正常だって事だね。
となると残るのは接点だよ。
私は、元々機械ものが苦手だから、この辺の話になると、どうしていいのかが全く分からないんだよ。
一応、ネット上の情報では、接点復活剤というものを使うと……って書いてあったんだけどさ。
誰か詳しい人?
ダメだ、誰も手を挙げない。
よく考えてみれば、みんな、電気には弱そうな顔してるもんな。
「マイ、私がやるよ」
え? 悠梨……そうか、悠梨は軽音楽部で、アンプとかいじってたもんね。
頼んだよ悠梨。そして、結衣は、ななみんの見張りを交代ね。
「ええっ! 自分、見張られてたんですか?」
無論だよ。
ななみんはお芝居が下手だから、私らの事を見張ってることくらいお見通しだっての、だから、逆に私らがななみんを見張ってたのさ。
悠梨がスイッチの前に座ると、鞄の中から、ペンケースのようなものを取り出したけど、私は知ってるよ、軽音楽部の時も、アンプやエレキギターをいじる時に、悠梨はあのケースの中から工具を出してたんだ。
悠梨は集中したように、何か小さなスポイトみたいなので、チュッと液体を出すと、綿棒を出してシュコシュコと磨き始めたよ。
確かにこの板、通電するために金属製になってるんだけど、悠梨が綿棒でゆっくり擦るごとに、くすんだ感じだったのが、鏡みたいにテカテカし始めてきたよ。
「ここ、怪しいよね」
悠梨が指した先の板は、ごく小さな黒ずみみたいなものがあった。
悠梨はそこにも液体を出すと、一心不乱に磨き始めたんだよ。
おお……おおお! あの黒ずみが消えて、新品みたいに綺麗になったよぉ。
その後悠梨は念のためと言って、残りの1つの板も綺麗に磨くと、小さなボトルに入ったスプレーを、シュッシュッと吹き付けた。
そして、さっきチェックした反対側の方にも、磨いた後で何かをスプレーして、接点とプッシュするスイッチの嵌合を見た上で組み立てると
「恐らく、これで治ったと思うよ」
と言った。
私を除いた全員が、悠梨を見直した瞬間だった。
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