ソウルブライター魂を輝かせる者 〜夢現術師は魔導革命後の世界で今日も想い人の目覚めを待つ〜

楠嶺れい

文字の大きさ
12 / 22

第11話 雨上がりの買い物

しおりを挟む
 雨が降っていた。

 私は足早にポータルを目指している。それは精密検査を受けに行くため、休みを取得して病院に向かっているからだ。人通りは多いのに傘はぶつかり合いながらも追従してくる。とにかく魔導小物は便利だ。ポータルを潜るときには傘は自動で閉じてバッグに収まった。

 専門医院はポータルを出てすぐだった。

 古く歴史を感じさせる建物。受付を通り抜けると予約カウンターがある。手をかざして表示された部屋番号まで進む。待ち時間なしの快適診療。


 医師は診察をはじめ事前に送っていた一次検査を確認した。そして、これから実施する精密検査について同意を求められる。私は迷いなく肯定してサインした。そして、検査を受けに検査室まで廊下を歩いて向かっている。

 通路は少し薄暗いし、薬剤の臭いが微かにただよう。

 検査室は尋問部屋と似たような作りで、所狭しとばかりに魔導具が並んでいた。私は控室で全裸になって検査着を頭からかぶる。連絡ボードに貼ってある説明によると魔導具の持ち込みは禁止らしい。うっかりな人が居るから書いているのだろう。

 検査担当の魔導医は女医で検査技師は老人だった。

 検査技師が魔導検査機の調整を始めると背後の壁に影がうごめく。
 トカゲ、ヤモリかな?
 どこからともなく現れて次々と技師の後ろに集合する。

「あの、後ろの影って魔導具の影響ですか?」
「後ろかい?」

 検査技師の老人が振り向くと影が雲散した。

「正常だが。何か問題かな」
「いいえ……」

 何なのだろう。技師が魔導具を調整し始めるとまた影が湧いてくる。もう気にしないことにした。目の錯覚か何かの病気かもしれない。

 しかし、多すぎるよヤモリ。

 検査自体は長時間を要したものの、期待した大きなトラブルは発生せず完了してしまう。検査が終わり担当医から次回の診察は1週間後と伝えられた。

 この病院は居心地悪いし、また来ないといけないと思うと憂鬱になる。



 精密検査が中途半端に早く終わったので近くにあった寂れたレストランに入って時間をつぶしている。

 窓際から外を眺めると、さっきまで降っていた雨は上がっていて、肌寒いけれど散歩するにはいい天候かもしれない。おなかがすいたのでお茶とサラダに腸詰と揚げ物のセットを頼んで遅いランチにした。フライはちょっとしつこかったが、サラダとお茶で流しいれた。

「さて、早く終わったから買い物でもしておくべきね。食材買わなきゃ」

 記憶にある保管庫は空っぽにちかく、野菜や肉類と日持ちする調味料をまとめ買いすることにした。一人暮らしの買い物は楽しさと面倒臭さがせめぎあう。配送サービスを使わなければ女手では持ち帰りが苦痛でしかたない。

 なんとなく食べ足りないのでデザートを物色していたけど、あまり美味しそうにないので途中で買って帰ることにした。

 店を出ようとするとねっとりとした視線を感じる。振り向いても誰も私を見ていない。

 最近ちょっと自意識過剰かもしれない。


 家の近くのポータルから出て、近所にあるショッピングモールを目指す。ちょっと高くても一度に多種類の物が買え一括配送も可能なことから、手間を省いて手ぶらで帰ることにした。検察局の先にあるショッピングモールは魔導バルーンに吊り下げられ、さながら浮遊市場といった風情である。

 手前の緑地では親子連れが大勢いて、買い物に飽きた子供の相手をしているようだ。私は子供にぶつからないように避けながら、突き当りにある店内への短距離ポータルを目指した。

 店内に入って店内用の異空間収納バッグをタッチして認証を完了。あとは欲しいものを放り込むだけ、お買い物は手ぶらで便利なのだ。モール内は売り場もお店も関係なく共通会計になっていて、いうなれば入れたもの勝ち。勝負じゃないけれど。

 私は魔獣の肉の鮮度を確認しては収納バッグに放り込む。野菜の特売品をベタベタ触っていると店員が睨みつけてくる。触り過ぎかもしれないが気にしたら負けだ。しかし、収納バッグは買い過ぎに注意しないと家の収納庫が破裂する。何度かやらかして、保管庫を魔法再構築するはめになったので要注意である。

 買いたいものは一通り揃い、買い忘れや数に間違いがないか確認して、配送サービスを選んで店を出た。店から出るときに清算されるのでストレスはない。


 外に出ると太陽が顔を出し、陽光がとても眩しかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

離婚した彼女は死ぬことにした

はるかわ 美穂
恋愛
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。 もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。 今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、 「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」 返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。 それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。 神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。 大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...