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第2話 鬱陶しいほどの雨音を聞きながら
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しおりを挟むそれから三日間、四人は砂の中を歩いた。
砂丘を越える度に、緑のオアシスがあるのではないかという期待をなんど抱いたろうか。
そのすべては裏切られ続けた。
救助のための飛行機やヘリもやって来ない。
そうして最悪の時が訪れた。
夜になり、とうとう水が尽きたのだ。
「このままじゃ俺たちは死んじまう、どうしてくれる」
ペルシュがエリックに掴み掛る。
「やめろよ、争ったって体力を消耗するだけだ」
ケンイチのもっともな意見に、すぐに諍いも終わりみなそれぞれ睡眠を取り始める。
「ねえケンイチ、起きてる」
明け方に、レイミーが耳に口を当て小さな声で囁いた。
眠りから覚めたケンイチが目を開けると、目の前にレイミーの顔がある。
「こっちに来て」
少し離れた所へレイミーが這って行く。
黎明の沙漠の空が、紫に色づいている。
「どうしたんだい」
ケンイチが訊く。
「えへへっ」
レイミーは悪戯っぽく笑みを浮かべた。
首から下げているポーチから、一本のペットボトルを取り出した。
「貧乏癖が直らずに、ホテルから出る時に入れといたの」
首をすくめ、小さく舌を出す。
「レイミー」
思わず彼はキスをした。
歩き始めて四日目になってもオアシスは見つからないし、救助も来ない。
それでも歩き続けるしかなかった。
止まれば、死を意味する。
今日なん度目かの休憩を取ることとなった。
ケンイチとレイミーは、ほかの二人から少し離れ背を向けるようにして抱き合っている。
こっそりと水を飲んでいるのだ。
「ケンイチも飲んで」
「いいや、俺はまだいい。君こそあと一口飲みな」
小さな声で囁き合っていると、突然ケンイチの背中が蹴り上げられた。
「なにコソコソしてるかと思えば、自分たちだけ水を飲みやがって。俺に渡せ」
鬼のような形相で、ペルシュがレイミーからボトルを取り上げる。
「なにするの、それはあたしのよ」
取り戻そうとするレイミーの顔を、情け容赦なく思いっきり蹴り飛ばす。
彼女はそのまま砂に突っ伏し、ぴくりとも動かない。
「レイミーどうした、しっかりしろ」
ケンイチが抱きあげ、身体を揺さぶるが目は開かない。
左耳から血が流れ出ていた。
「貴様、なんということをしたんだ。許さんぞ」
エリックはいままでの不満を吐き出すかのように、ペルシュを殴りつけた。
倒れているペルシュを立たせ、再度殴ろうとした瞬間彼の喉から血飛沫が噴き上がった。
「俺を怒らせるな、貧乏人どもめ」
その手にはナイフが握られている。
エリックはそのまま砂の上へ斃れ込んだ。
砂が赤黒く染まって行く。
「いいか、俺は大金持ちだ。お前ら貧乏人など死んでも構わん、ざまあみろ」
手に持った水をごくごくと飲み干し、歩き去って行く。
ケンイチはそのまま何時間もレイミーを抱き続けた。
しかし彼女が目を覚ますことはなかった。
やがて沙漠の唯一の自然現象が起きた。
砂嵐だ。
前さえ見えない中、ケンイチはふらふらと立ち上がり歩き出した。
どのくらい歩いたろうか、なにかに足を取られた。
それはペルシュの遺体だった。
微かに前方になにかが見えた。
それを頼りに進むと、小さな小屋があった。
沙漠の住民の、砂除けか休憩所なのだろう。
薄っぺらい板とトタン屋根だけの、扉さえない小屋だ。
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