『短篇小説』は硝子細工のように(短編集)

泗水 眞刀(シスイ マコト)

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第2話 鬱陶しいほどの雨音を聞きながら

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「おい大丈夫か、しっかりしろ」
 頬を叩かれ、ケンイチは目を覚ました。

 見慣れない男の顔があった。
 恰好からしてパイロットのようだ。

「よかった、気が付いたのねケンイチ」
 半泣き状態のレイミーが、笑いかける。

「い、一体どうしたんだ──」
 上体を起こしながら、ケンイチが呟く。

「エンジントラブルでジェットが落ちてしまった、わたしは副操縦士のエリックです」
「落ちてしまったって、墜落か?」
「ああ、そのようだ」
 少し離れた所から、別の声が聞こえた。

「生き残ったのは、俺たち四人だけだ」
 中年の男が言った。

「ここはどの辺りなんです・・・」
「たぶんナルディアだと思う」
 エリックが応える。

「ナルディアって、あの沙漠の──」
 いつか街角のモニターで見た、映像を思い出す。

「そう、ここは沙漠のど真ん中だ。周りには砂しか見えない」
 中年男が言葉を吐き捨てる。

 ケンイチが横たわっているのも砂の上である。

「墜落前に緊急回線でSOS発信はしてあります、下手に動かず救助を待ちましょう」
「おいパイロット、本当に救助は来るのか。こんな所に居たらあっという間に干上がっちまうぞ」
「仕方ないじゃないのペルシュさん、ここは沙漠なんだから。歩き回ったってどうにもならないわ」
 レイミーがエリックを庇うように言う。

 中年男の名はペルシュというらしい。

「いいか言っておくぞ、救助されたらお前の会社を訴えるからな。俺の女房は死んじまった。メガ企業クラークグループの会長だったんだ、百億や二百億で済むと思うな。最低でも五千億は支払わせる。いやそれ以上だ」
「どうぞいくらでも請求して下さい、会社は保険に入ってるでしょうからね。それに支払うのはわたしじゃない」
 こんな状態で金の話しを始めるペルシュに、呆れたようにエリックが返す。

 墜落したジェット機は爆発したらしく、無残な姿を砂の上に晒している。

「ケンイチ、エリックさんが息をしてるあなたを機外に連れ出してくれたのよ。あのままだったら、爆発に巻き込まれて死んじゃってたわ」
「そうだったんですか、ありがとうございますエリックさん」
「乗務員として当然の行動ですから、礼は要りません」
 実直そうな顔が笑っている。


 やがて辺りは夕闇に包まれ、沙漠に夜が訪れた。
 陽が落ちると気温は低下し、幾分過ごしやすい。
 疲れもあり、四人はすぐに眠りに就いた。



 ケンイチは灼け付くような暑さで目覚めた。

 爆発前に機外へ運び出していた水のペットボトル二十四本のうち、すでに十本は昨日のうちに飲んでしまっている。

「念の為、節約しながら計画的に飲むようにしましょう」
 エリックの提案で、水は管理されることになった。

 そうしてその日も暮れ、二回目の夜が来た。

 そして太陽が昇り、灼熱の地獄が始まる。

「救助なんて来ないじゃないか、どうしてくれるんだ」
 暑さにたまりかね、ペルシュがエリックへ喰ってかかる。

「彼に当たってもしょうがないだろ、苛々してるのはあなただけじゃないんだ。いい加減怒鳴るのを止めろ」
 ケンイチが四六時中エリックへ文句を云っている、ペルシュを注意をする。

「うるさい、宝くじを当てただけの偽物セレブが。俺に意見するな」
 小馬鹿にするように毒づく。

「争うのはやめて下さい、余計に体力を消耗するだけです」
 冷静にエリックがたしなめる。

「救助が来ないということは、ここで待ってても意味がないんじゃないかな。移動してみてはどうでしょう、オアシスが見つかるかもしれない」
「そうですね。まだ水のある内に歩いてみますか」
 ケンイチの提案にエリックが頷く。

「そう都合よくオアシスなんてあるものか」
 ペルシュが嗤う。

「ならあなたはここに残れば、わたしたちは行くから」
 そう言って、レイミーが歩き出す。

「待てよ、俺を置いていくのか。この馬鹿どもめ」
 悪態を吐きながらも後をついて来る。
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