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第2話 鬱陶しいほどの雨音を聞きながら
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しおりを挟む今日は週末と言うこともあり、みな早々と着替えを済ませ職場を離れる。
ケンイチもいつもとは違う余所行きの服を着こみ、自分のロッカーに鍵をかけた。
レイミーと約束した、デートの日なのだ。
「おいケンイチよ、今日も真っ直ぐ帰んのか。よっぽど彼女が可愛いんだな、妬けちまうぞ」
出ようとした所で、ガナフィーが声をかけて来た。
「可愛いだなんて、ただ二人とも親兄弟がいないんで大事にしたいんだ。こんなささやかな生活でもね」
そういうケンイチを優し気な眼差しで見ながら、ガナフィーはポケットから小さな箱を取り出し突きつけた。
「えっ、なんですこれ──」
「俺から二人へのプレゼントだ、いいからとっとと結婚しちまえ。早く子どもを作らなきゃ、生きてるうちに成人した姿を見れねえぞ。俺みたいな家庭も持たねえ人間になっちゃいけねえ、お前には幸せになってもらいてえんだ」
それだけ言うと、ケンイチからの礼も聞かずに去って行く。
ケンイチは渡された箱を開けてみた。
「ガナフィーさん・・・」
そこにはひと組の指輪が入っていた。
小さいが、ちゃんと石もついている。
「ありがとう、ガナフィーさん」
去って行く影へケンイチが大声で叫んだ。
後姿の男は少しだけ右手を上げると、振り向きもせず雑踏へと消えた。
それから半年、ケンイチはいつものように家路を急いでいた。
左手の薬指には、ガナフィーからもらった指輪が光っている。
意識するともなく親指で指輪の感触を確かめ、あの日の彼の面影を思い出していた。
週明け作業場へ出勤して、あの夜ガナフィーが死んだことを知った。
四、五人の男たちに絡まれている若いカップルを救け、そいつらに刺されて呆気なく死んでしまったというのだ。
〝ガナフィーさん、俺きっと幸せになるよ〟
歩きながらケンイチは心でそう呟いた。
ぼろ長屋の扉を開けると、レイミーが抱きついて来た。
「やったよケンイチ、あたしたち大金持ちだよ。なんだって買える、どこにだって行ける。百歳だろうが二百歳だろうが、このままの姿で生きて行けるんだよ」
レイミーは顔中にキスをしまくる。
「一体なんの話しだ。分かるように説明してくれないか」
「当たったのよ、ナインルーレット。八十三億クレジットが当たったのよ」
再びキスの嵐がケンイチを襲った。
買い続けていた宝くじが、当たっていたのだ。
当選金額は八十三億クレジット。
ケンイチ達貧困層からしてみれば、生涯収入の六十倍の額になる。
それからの一か月間は、目まぐるしいほど雑多な手続きが待っていた。
身元の正式な確認から、メガバンクの口座開設。
一週間の徹底した金銭に関する教育が義務付けられ、泊りがけで講義が行われた。
金が口座に振り込まれるには、二か月かかるとの事だった。
しかし、仮想口座のお陰でクレジットカードの使用は自由だった。
新居を選び高価な家具調度品を買い、車のライセンスも取得した。
そうして、副賞である『パル・アイランド』への一か月のリゾート旅行が始まった。
空港へ出発する日、彼らは今まで棲んでいた粗末な長屋に別れを告げた。
「もうこんな、トタン屋根に降る鬱陶しい雨音ともおさらばだ」
ケンイチは生まれた時から聞いていた、雨音に最後の別れを告げた。
帰還先は、セレブが住む北半球の高級居住都市になる。
豪華な邸が、二人の帰りを待っているのだ。
青い空とエメラルドグリーンの海、燦燦と降り注ぐ太陽と贅沢な料理を堪能して、あっという間に一か月が過ぎた。
南の島に別れを告げ、二人は中型ジェット機で帰途に就いた。
機内には彼らのほかに、六人の乗客と操縦士を含めた八人の客室乗務員が乗っている。
十二時間で、目的地である上流都市『ファビュラシュ・シティ』へ到着予定だ。
離陸して三時間ほど経過したころ、機体が大きく揺れ急降下を始めた。
「わあーっ、事故か?」
ケンイチが叫んだ。
「こわいケンイチ」
レイミーがケンイチにしがみ付く。
機体はぐんぐんと高度を下げ、凄まじい衝撃が彼らを襲った。
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