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夏蝉
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季節が移り変わり、一匹の蝉がわたしのもとへやってきた。毎年夏になるとうるさいほど合唱する彼らが、今年は何処へ行ってしまったのか、全く姿が見えなかった。
そこへ現れたのが、この蝉である。わたしは不吉な予感を感じ、硝子戸の開けられた縁側の奥を静観した。
お下げをした女の子が盆に土鍋をのせ、あなたの枕許に座った。あなたはゆっくりと重い上体を起こす。鍋の蓋を取った女の子は、レンゲにのせた粥をふう、ふうと冷ましてあなたの口へ運ぶ。微笑ましい光景の一方で、どこか物哀しさが漂う。
あなたは再び敷布に横たえると、我が子に何かを言い聞かせていた。しかし、女の子はあまり理解していないのだろう。軽く指切りをしたあとは、あなたの傍にごろんと寝転び歌いだす。そのうち眠ってしまい、あなたも子供を抱き締めながら眠りについた。長い昼間が、親子を優しく抱いていた。
何日かして、蝉は鳴かなくなった。あまりにも静寂な夏であった。わたしはほどなくして病気にかかり、腐った幹を切られた。
今年の夏は例年にも増して暑かった。夏季休暇の宿題を終えて図書館から帰宅したわたしは、涼みたい一心で、木陰にある庭の切り株に腰を降ろした。
ここはわたしの特等席で、いつもわたしを安らがせてくれる。なぜだか、しっくりくるのだ。まるで昔、この木であったかのような、変な錯覚を起こすからだろうか。この場所に来ると、懐かしい感覚がするだけでなく、何か大切な人を忘れている気がしてならないのだった。
いつからこの古い切り株があるのか、家族の誰も知らない。わたしが産まれたさいに、物好きな祖父が購入した日本家屋だった。戦前まではある一家が住んでいたらしいが、しばらく空き家となっていたため、詳細は不明だ。しかしながら、わたしはこの切り株に座ると、屋敷に住んでいたであろうある人の生涯が、目に浮かんでくるようだった。
「……ところでこの木って、元々なんだったんだろう」
「それはボクが好きな桜の木さ」
わたしは咄嗟に立ち上がり、辺りを見回した。家族は出払っており、当然いるのはわたしだけだ。
ブナの木で鳴いていた蝉が、ふわりとわたしの特等席に止まった。わたしはしゃがみ、興味本位で手を差し伸べる。すると、意外にも蝉はわたしの腕までのぼってきた。まるで以前から仲が良かったみたいだ。
庭は静かに夏の陽を浴びている。わたしは逢ったこともない人の面影を脳裏にちらつかせながら、一匹の蝉に想いを馳せた。
そこへ現れたのが、この蝉である。わたしは不吉な予感を感じ、硝子戸の開けられた縁側の奥を静観した。
お下げをした女の子が盆に土鍋をのせ、あなたの枕許に座った。あなたはゆっくりと重い上体を起こす。鍋の蓋を取った女の子は、レンゲにのせた粥をふう、ふうと冷ましてあなたの口へ運ぶ。微笑ましい光景の一方で、どこか物哀しさが漂う。
あなたは再び敷布に横たえると、我が子に何かを言い聞かせていた。しかし、女の子はあまり理解していないのだろう。軽く指切りをしたあとは、あなたの傍にごろんと寝転び歌いだす。そのうち眠ってしまい、あなたも子供を抱き締めながら眠りについた。長い昼間が、親子を優しく抱いていた。
何日かして、蝉は鳴かなくなった。あまりにも静寂な夏であった。わたしはほどなくして病気にかかり、腐った幹を切られた。
今年の夏は例年にも増して暑かった。夏季休暇の宿題を終えて図書館から帰宅したわたしは、涼みたい一心で、木陰にある庭の切り株に腰を降ろした。
ここはわたしの特等席で、いつもわたしを安らがせてくれる。なぜだか、しっくりくるのだ。まるで昔、この木であったかのような、変な錯覚を起こすからだろうか。この場所に来ると、懐かしい感覚がするだけでなく、何か大切な人を忘れている気がしてならないのだった。
いつからこの古い切り株があるのか、家族の誰も知らない。わたしが産まれたさいに、物好きな祖父が購入した日本家屋だった。戦前まではある一家が住んでいたらしいが、しばらく空き家となっていたため、詳細は不明だ。しかしながら、わたしはこの切り株に座ると、屋敷に住んでいたであろうある人の生涯が、目に浮かんでくるようだった。
「……ところでこの木って、元々なんだったんだろう」
「それはボクが好きな桜の木さ」
わたしは咄嗟に立ち上がり、辺りを見回した。家族は出払っており、当然いるのはわたしだけだ。
ブナの木で鳴いていた蝉が、ふわりとわたしの特等席に止まった。わたしはしゃがみ、興味本位で手を差し伸べる。すると、意外にも蝉はわたしの腕までのぼってきた。まるで以前から仲が良かったみたいだ。
庭は静かに夏の陽を浴びている。わたしは逢ったこともない人の面影を脳裏にちらつかせながら、一匹の蝉に想いを馳せた。
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