逢魔時に穿つ

夏蜜

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久遠の学業

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 数日が過ぎても、素肌に充てがわれた舌や凝固した異物が内臓を圧迫する感覚が残り、久遠を苦しめた。だが、貴士は一度で済ます質ではない。久遠は次第に学業が疎かとなり、他人と擦れ違うだけで肩を震わせるようになった。
「可哀想に。ぼくならもっと優しくできるのに」
 夕暮れ時、校舎から遠ざかる久遠に誰かがそう呟く。


「今夜は、何もしなくていい」
 寝台へ横たわろうとする久遠を、貴士は寝室の隅にあるベルベット生地の椅子に移動させた。早くも飽きられたのか、違う学び・・をするのかはわからない。
 夜になって風が強く吹き荒び、屋敷の軋む音がいっそう不安を掻き立てる。シェードランプの橙色が寝台の縁に腰かける貴士を妖しくぼかし、不本意ながら、指一本触れようとしない彼に言いようのないもどかしさを募らせた。
 久遠が居心地の悪さに耐え兼ねて口を開こうとしたさい、ダイヤ型の硝子窓を嵌めた扉が突如引いた。絨毯を踏み込んでくる人物の、暗がりに溶けていた白い頬がサイドテーブルの灯りに浮き彫りになる。
 それが麻哉であると気付いたときには、二人の絡み合いは既に始まっていた。激しく唇を貪り、制服の釦を外された麻哉の艶かしい素肌が露になる。彼等はすぐ側に第三者がいることなど気に留めず、生々しい吐息を溢し、肌を密着させた。
 久遠は視覚も聴覚も嬲られながら、時間が過ぎるのをただひたすら待った。貴士の狙いは、久遠を間接的に辱しめることだったのだ。野性的な行為の最中、貴士の冷めた眼差しが一瞬久遠を捉える。そして口許を歪ませ、下に敷いていた麻哉を乱暴に解放した。
 一部始終を見終わった後、これが無声映画であればどれほど良かっただろうと、膝の上に置いた拳をさらに握り締める。それは、道徳心からくる感情ではない。久遠は欲情していた。双方から滴る体液が厭らしく糸を垂らし、その光景がついに久遠を欲望に誘い込む。
「……先輩、我慢しないで。ほら……」
 麻哉は濡れた自分の口回りを舐める。久遠は着衣を椅子に脱ぎ捨て、本能のままに麻哉に覆い被さった。たおやかな躰が久遠の胸許で弾ける。久遠は見様見真似で、麻哉の秘部に己のを当てた。だが忽ち体勢が反転し、麻哉に真上を奪われてしまう。
「駄目ですよ、先輩」
 麻哉は不敵に笑い、久遠の脚を開かせた。まさか後輩にまで犯されるとは。苦痛を訴える久遠の額に、貴士の掌が優しく触れる。貴士と一度口づけを交わすと、久遠は最初に教えられた通り、中央に顔を埋めて舐めだした。心の片隅では彼等を拒絶しているのに、躰は従順に反応を示す。いつから、こんな風になったのだろう。
「ああ、はしたない。けど最高だ。君にはもっともっと教えたいことが山ほどあるんだ」
 久遠は二人に挟まれ、今まで培った学業の浅はかさを思い知らされた。
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