剣聖の使徒

一条二豆

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第一章

手に入れた力

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「いいですか日向さん!」

 そこで、シーナの声が聞こえてきた。

「今から、私の言う通りにしてください。そうすれば、剣を抜くことができます!」
「分かった!」

 俺は強く返事を返し、神経を集中させる。
 とにかく今はごちゃごちゃとしたことを考えずに眼前の敵に集中する。

 雑魚は雑魚でも、これは戦いなんだ!

「では、まず剣の形質を思い浮かべて下さい!」

 そう言われて、俺は目を瞑り、イメージを始める。
 スラリとしたしなやかな形の刀身で、十分な硬度を持ち、とても軽い。そんな風にイメージを固めていく。

「次に、剣に殺気を込めてください!」

 俺は両親を殺されたあの日を思い出す。
 起きる必要の無かった悲劇。
 理不尽に肉親を殺された怒り。
 その全ての思いを、俺の刀に乗せた。

 イメージを固めている間にも、化け物の声が聞こえる。近くにいるのが、分かる。

「最後に、抜いてください。日向さんの剣を!」

 俺は腰のあたりにイメージを置いた。そして、そのイメージの刀の柄に手を添える。
 きっと化け物は、俺を狙ってきているだろう。

 だが……もう、遅い。

 俺は構えた刀に力を込める。
 イメージした刀は、俺が抜刀したと同時に現れた。

 確かな、そこにあると分かる感触と共に。



「我流、九十九屋流、居合――『湖上こじょうの冬月ふゆつき』!」



 刀を抜き、斬り裂く。

 それも、一瞬で。

 目を開けると、バラバラになった化け物の肉塊が転がっていた。
 流れ出る血が作る血だまりはまさしく、赤い湖。

 俺は手に握った、光り輝く刀を静かに鞘にしまった。
 すると、刀は霧のようになってどこかへ消えていった。

 空には薄く、月が見えていた。
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