剣聖の使徒

一条二豆

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第二章

大悪魔バアル

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 俺が飛ばした斬撃は、あっけなくバアルの体を貫いた。
 俺は唖然とする。何が大悪魔だよ……この程度か……。
 と思っていたが、

「素晴らしい突きだねえ……惚れ惚れしちゃうよ」
「⁉」

 貫かれたはずのバアルの声が、真後ろから聞こえてきた。
 俺は反射的に体をひねり、バアルの首を斬り落とす。
 しかし、またも不可解な現象が起こる。

「「「「反射神経も良いね……まさしく、戦いの申し子だなあ……はははっ!」」」」

 いつの間にか、四人のバアルに周りを囲まれていた。
 俺は焦らず、それを事実としてだけとらえ、再び刀を構えた。
 だが、そんな俺にシーナが声を飛ばしてきた。

「落ち着いてください日向さん!」

 そう言いながら、シーナは俺の横まで飛んできて、扇を構えた。

「『桜舞双扇』四の舞、蝕め――『葉桜』!」

 シーナの術によって、緑色の葉が俺の周りを覆い尽くした。
 そして、その葉が光を放ったかと思うと、俺の心の苛立ちが治まっていった。
 覆っていた葉は崩れ始め、俺の体があらわになる。
 俺は慌ててシーナの方へ向き直る。

「シーナ、すまん! 俺また勝手に暴走して……」

 必死で謝る俺に対して、シーナは優しい口調で話してくれた。

「大丈夫ですよ。さっきのは、バアルに心を興奮させる術をかけられていただけです。日向さんが悪いのではないですよ」

 それを聞いて、入れは戦慄した。
 いつの間にかけられていたんだ……それに気づけもしないなんて、俺ってやつは……。
 そんな気持ちが頭をよぎり、自己嫌悪に陥りかけるが、俺は気持ちをしっかりと持った。

 再び周りを見てみると、バアルは感心したような声音で言った。

「「「「へえ……さっきのが音に聞く、奇稲田嬢の『桜舞双扇』……いや、見事ですねえ」」」」
「お褒めに頂き光栄ですね。ところで、私の名前をご存じで?」
「「「「ああ、術の天才として有名だからね……〝人間界〟に来て長いボクでも、それくらいのことは知っている」」」」

 四人のバアルは話しながら一か所へと集まり始め、不思議なことに一人、また一人とバアルと融合していった。

「気持ちも落ち着いたようだし、そろそろ名乗ってもらおうか。金髪の『使徒』くん?」

 自分で気持ちを荒ぶらせたくせになにを、と思ったが、それこそ相手の思うつぼなのでぐっとこらえた。

「……俺の名前は九十九屋日向。使徒としての名前は『剣聖の使徒』だ。昨日から始めた」

 よろしくするつもりは無いので、よろしくとは言わない。
 一方のバアルは面白そうにこちらを見ていた。

「今の戦いぶりで昨日からなのかい? ……キミ達には驚かされるばかりだねえ。ほんとに、すごいよ」

 皮肉にしか聞こえないその言葉を聞き流しつつ、俺はシーナに話しかける。

「なあ、シーナ」
「はい?」
「俺さ……あいつ嫌いだ」
「あはは……私も嫌いですよ」

 シーナは乾いた笑い声を出し、苦笑した。

「だからよ……とりあえず、ぶっつぶしたいんだよ。いいか?」

 そう言うと、シーナは嘆息をした。
 そして、困ったような笑みを浮かべた。

「日向さんは……常に暴走状態ですね。止めても、止まってくれそうにないですから……でも、お互い死んでは駄目ですよ?」
「言われるまでもねえな」
「あ、そうだった日向さ――」

 俺はシーナとの会話の途中でバアルに向かって叫んだ。

「なあ、バアルさんよ……一つ聞いても良いか?」
「はははっ! なんだい? 『剣聖の使徒』?」
「てめえ……本当にあの事件を引き起こしたわけじゃねえんだな?」
「はははっ! ああ、関わっていないよ……神に誓って!」

 バアルのクソむかつく皮肉に対し、俺は大きな斬撃で返した。
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