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第四章
VSヴァルゴ
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少し間はあったが、シーナの頼もしい返事を聞き、俺は再びヴァルゴの方へと向いた。
「だってよ、お父さん?」
「……そうか」
ヴァルゴもさっき凛音が倒れた時に声を上げていた。家族としての良心があることは、認めてやろう。
「で、俺に何か用かな、『剣聖の使徒』?」
「……ああ、そうだ。お前に用がある」
その言葉を皮切りに、俺は気持ちを切り替え、体に怒りを満ちさせていった。
「お前は父親失格だ、おっさん」
「あ?」
ヴァルゴは、俺のその一言で軽かった姿勢を崩した。
俺の中で湧き上がる怒りは、ある一点を目指して集まっていく。
「娘をおかしな方向へ進ませやがって……少しは、凛音の気持ちになったことがあんのか?」
「……」
それは、一つの巨大なエネルギーとなる。そして、そのエネルギーは俺の体全体へと巡っていく。
「自分の気持ちを、人に――よりにもよって娘に押しつけやがって……!」
そして、体に爆発したような感覚が走る。
「俺は、兄として、てめえをぶっ潰しに来た!」
同時に、俺を中心として、公園の中に爆風が巻き起こる。
……なんとなく分かる。
俺の意思の力が、勝手にあふれ出てきたのだ。
より赤みを増した俺の体は、夕日の空によく映えた……いや、映えているだろう。
さながら一つの――炎のように。
「言いたいことは――」
ヴァルゴは、明らかに異質な存在に臆することなく、毅然と立っていた。
怒りに満ちた顔つきで、ヴァルゴは距離を取り拳を構え、
「――ッそれだけかっ!」
撃った。
殴るわけでも、突くわけでもなく、撃つ。
ヴァルゴが放った拳が拳圧を生みだしたのだ。
それは、凛音よりも数倍重い、本気の攻撃だった。
だが、
「我流、九十九屋流、居合」
「!」
痛みは、全く感じない。……いや、感じてなどいられない。
刀を瞬時に構成し、抜く。
「『螺旋曲舞』」
「うぬっ!」
うなり、波打つ斬撃は、変則的な動きでヴァルゴを襲う。
しかし、軽快なフットワークでそれをかわされ、一気に距離を詰められる。
「なぜそんな体でここまで動ける……!」
言いながらヴァルゴは、俺の頭を狙い、上段蹴りを放った。
俺は刀の刀身でそれを受け止めるが、強力な蹴りの勢いは消えず、俺は後方に押しやられた。
足がガタガタと震え始めた。……これはかなり応えているな……早く決着をつけないと……!
その一心で俺は再び刀を構える。
「我流、九十九屋流、居合――『天狼野走』!」
足を狙って、地面すれすれの斬撃を、体の回転を利用して放つ。
ヴァルゴは、その斬撃を避けるために、宙へと跳んだ。
……今だ!
「九十九屋流二の太刀――『抜穴』!」
俺はその瞬間に、ありったけの力を込め、突きを放った。
しかし、攻撃はあえなく防がれる。
「白刃どり、だと……!」
勢いを持って放たれたはずの刀は、ヴァルゴの体の首を貫く手前で、彼の両手によって受け止められていた。
突きを腕の力だけで抑えるなんて、とても人間の芸当とは……そういや、悪魔だったな……とことん規格外なやつらめ!
俺とヴァルゴの足が地面につき、瞬間、刀ごと思いっきり突き飛ばされた。
「なめるな、小僧」
眼前のヴァルゴの右手に、感じているこっち側が気持ち悪くなるくらいの量の負のエネルギーが、手に現れる。
黒い靄で覆われたその手は、だんだんと悪魔らしい、禍々(まがまが)しい手へと変わっていった。
「死ね、『使徒』が」
闇と言うべき黒さを持った、輝かない右手で、俺の胸の向って思いっきり掌底が放たれる。
「『死誘掌』」
危険を回避するため、俺は思いっきり宙へと跳んだ。
そしてそのまま、空中で刀を構える。
「我流、九十九屋流、いあ――っ!」
しかし、真下からヴァルゴが放った拳圧が飛び、姿勢が崩れてしまう。
「しまっ!」
崩れた姿勢のまま、俺の体は落下を始めた。そして、精神が崩れた俺の手から、刀が消える。これは――まずい!
案の定、俺の落下地点では『死誘掌』を手に展開しているヴァルゴが待ち構えていた。
「終わりだよ、次こそ」
ヴァルゴは先ほどの調子戻り、妙にさわやかな声でそう言った。
「終わるかよっ!」
ここで死ぬわけにはいかない。
まだ仇が討てていない。
凛音の無事を見届けられていない。
ここでまだ終わるわけには、いかねえんだ!
ヴァルゴがもうすぐそこに見えたとき、俺は――。
「な……うおっ!」
虚空から、ただ無造作に刀を抜いた。
しかし、今までのシャープな刀ではなく、大きな質量をもった巨大な太刀を。
ヴァルゴはこの太刀を避けるために、後ろに下がった。そのうちに、俺は体勢を立て直した。
持っていても手に余るその太刀を、俺はすぐさま粒子へと戻した。
「くっ……しぶといやつだなあ……」
「体力には自信があるんでね――!」
ヴァルゴに対して悪態を吐いた途端に、体がぐらつく。
おそらく、術をかけられたわけではない。
俺の意思の力のサポートに、限界が訪れ始めたのだ。
ヴァルゴはふらつく俺を見て、ニヤリと笑った。
「ほう? そろそろ体が耐え切れなくなってきてるみたいだが……まだ戦うって言うのかい?」
「体がぶっ壊れる前に、てめえを倒せばいいだけの話だろうが!」
そう強がって見せるも、話しているうちに、たまっていたダメージがだんだんと広がっていっている。
意思の力のドーピングが……切れてしまう。
何を思っているのか、ヴァルゴはこちらをじっと見つめていた。
「いい加減……終わらせよう!」
ヴァルゴが沈黙を破り、光速と錯覚するほどの速さで、俺の腹へと拳を入れた。
「っぐ……っっっ!」
今の状態の体には、とてつもなくつらい一撃。一瞬でも気を抜けば、意識を刈り取られそうだった。
俺は歯を食いしばり、必死に耐える。口の中に血の味が広がる。
まだ……まだだ!
俺は自分の意思を芯にして、痛みに耐えた。
だが、そんな最後の踏ん張りも、すぐに粉々にしてしまうような光景が、俺の歯科医に広がっていた。
まるで分身しているかのようだった。
高速で俺の周りを囲むようにして動き続けるヴァルゴは、生まれた残像によって、錯覚を見せているのだ。
バアルとはまた違う、ありえない能力だった。
「これが俺の奥の手……高速で動く力だよ」
「だってよ、お父さん?」
「……そうか」
ヴァルゴもさっき凛音が倒れた時に声を上げていた。家族としての良心があることは、認めてやろう。
「で、俺に何か用かな、『剣聖の使徒』?」
「……ああ、そうだ。お前に用がある」
その言葉を皮切りに、俺は気持ちを切り替え、体に怒りを満ちさせていった。
「お前は父親失格だ、おっさん」
「あ?」
ヴァルゴは、俺のその一言で軽かった姿勢を崩した。
俺の中で湧き上がる怒りは、ある一点を目指して集まっていく。
「娘をおかしな方向へ進ませやがって……少しは、凛音の気持ちになったことがあんのか?」
「……」
それは、一つの巨大なエネルギーとなる。そして、そのエネルギーは俺の体全体へと巡っていく。
「自分の気持ちを、人に――よりにもよって娘に押しつけやがって……!」
そして、体に爆発したような感覚が走る。
「俺は、兄として、てめえをぶっ潰しに来た!」
同時に、俺を中心として、公園の中に爆風が巻き起こる。
……なんとなく分かる。
俺の意思の力が、勝手にあふれ出てきたのだ。
より赤みを増した俺の体は、夕日の空によく映えた……いや、映えているだろう。
さながら一つの――炎のように。
「言いたいことは――」
ヴァルゴは、明らかに異質な存在に臆することなく、毅然と立っていた。
怒りに満ちた顔つきで、ヴァルゴは距離を取り拳を構え、
「――ッそれだけかっ!」
撃った。
殴るわけでも、突くわけでもなく、撃つ。
ヴァルゴが放った拳が拳圧を生みだしたのだ。
それは、凛音よりも数倍重い、本気の攻撃だった。
だが、
「我流、九十九屋流、居合」
「!」
痛みは、全く感じない。……いや、感じてなどいられない。
刀を瞬時に構成し、抜く。
「『螺旋曲舞』」
「うぬっ!」
うなり、波打つ斬撃は、変則的な動きでヴァルゴを襲う。
しかし、軽快なフットワークでそれをかわされ、一気に距離を詰められる。
「なぜそんな体でここまで動ける……!」
言いながらヴァルゴは、俺の頭を狙い、上段蹴りを放った。
俺は刀の刀身でそれを受け止めるが、強力な蹴りの勢いは消えず、俺は後方に押しやられた。
足がガタガタと震え始めた。……これはかなり応えているな……早く決着をつけないと……!
その一心で俺は再び刀を構える。
「我流、九十九屋流、居合――『天狼野走』!」
足を狙って、地面すれすれの斬撃を、体の回転を利用して放つ。
ヴァルゴは、その斬撃を避けるために、宙へと跳んだ。
……今だ!
「九十九屋流二の太刀――『抜穴』!」
俺はその瞬間に、ありったけの力を込め、突きを放った。
しかし、攻撃はあえなく防がれる。
「白刃どり、だと……!」
勢いを持って放たれたはずの刀は、ヴァルゴの体の首を貫く手前で、彼の両手によって受け止められていた。
突きを腕の力だけで抑えるなんて、とても人間の芸当とは……そういや、悪魔だったな……とことん規格外なやつらめ!
俺とヴァルゴの足が地面につき、瞬間、刀ごと思いっきり突き飛ばされた。
「なめるな、小僧」
眼前のヴァルゴの右手に、感じているこっち側が気持ち悪くなるくらいの量の負のエネルギーが、手に現れる。
黒い靄で覆われたその手は、だんだんと悪魔らしい、禍々(まがまが)しい手へと変わっていった。
「死ね、『使徒』が」
闇と言うべき黒さを持った、輝かない右手で、俺の胸の向って思いっきり掌底が放たれる。
「『死誘掌』」
危険を回避するため、俺は思いっきり宙へと跳んだ。
そしてそのまま、空中で刀を構える。
「我流、九十九屋流、いあ――っ!」
しかし、真下からヴァルゴが放った拳圧が飛び、姿勢が崩れてしまう。
「しまっ!」
崩れた姿勢のまま、俺の体は落下を始めた。そして、精神が崩れた俺の手から、刀が消える。これは――まずい!
案の定、俺の落下地点では『死誘掌』を手に展開しているヴァルゴが待ち構えていた。
「終わりだよ、次こそ」
ヴァルゴは先ほどの調子戻り、妙にさわやかな声でそう言った。
「終わるかよっ!」
ここで死ぬわけにはいかない。
まだ仇が討てていない。
凛音の無事を見届けられていない。
ここでまだ終わるわけには、いかねえんだ!
ヴァルゴがもうすぐそこに見えたとき、俺は――。
「な……うおっ!」
虚空から、ただ無造作に刀を抜いた。
しかし、今までのシャープな刀ではなく、大きな質量をもった巨大な太刀を。
ヴァルゴはこの太刀を避けるために、後ろに下がった。そのうちに、俺は体勢を立て直した。
持っていても手に余るその太刀を、俺はすぐさま粒子へと戻した。
「くっ……しぶといやつだなあ……」
「体力には自信があるんでね――!」
ヴァルゴに対して悪態を吐いた途端に、体がぐらつく。
おそらく、術をかけられたわけではない。
俺の意思の力のサポートに、限界が訪れ始めたのだ。
ヴァルゴはふらつく俺を見て、ニヤリと笑った。
「ほう? そろそろ体が耐え切れなくなってきてるみたいだが……まだ戦うって言うのかい?」
「体がぶっ壊れる前に、てめえを倒せばいいだけの話だろうが!」
そう強がって見せるも、話しているうちに、たまっていたダメージがだんだんと広がっていっている。
意思の力のドーピングが……切れてしまう。
何を思っているのか、ヴァルゴはこちらをじっと見つめていた。
「いい加減……終わらせよう!」
ヴァルゴが沈黙を破り、光速と錯覚するほどの速さで、俺の腹へと拳を入れた。
「っぐ……っっっ!」
今の状態の体には、とてつもなくつらい一撃。一瞬でも気を抜けば、意識を刈り取られそうだった。
俺は歯を食いしばり、必死に耐える。口の中に血の味が広がる。
まだ……まだだ!
俺は自分の意思を芯にして、痛みに耐えた。
だが、そんな最後の踏ん張りも、すぐに粉々にしてしまうような光景が、俺の歯科医に広がっていた。
まるで分身しているかのようだった。
高速で俺の周りを囲むようにして動き続けるヴァルゴは、生まれた残像によって、錯覚を見せているのだ。
バアルとはまた違う、ありえない能力だった。
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