剣聖の使徒

一条二豆

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第四章

死誘掌

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「そうだったのか……」

 夢﨑凜音が背負っていた『悩み』はあまりにも重かった。
 凛音が、俺と全く同じ境遇に一度立たされていたことに、俺は驚いた。
 そんな彼女に、俺が今かけてやれる言葉は、一つだけ。

「もう、いいんだよ」
「!」

 凛音から、何かの重みがふっと消えてしまったように見えた。
 そして、思いっきり走って、勢いよく俺へと抱きついてきた。
 悲しみではなく、喜びを表したような抱擁を。

「ありがとう、日向!私、とっても窮屈で……ずっと、一人で生きてるみたいで…!」

 何かゴタゴタと言っている凛音の頭に、俺は拳骨を一発食らわせてやった。                      
「? 何するの?」
「さっき殴ってやるって言ったろ? これでお終いだ」
「……バーカ」

 凛音は何がおかしかったのか、そっぽを向いた。
 そんな姿が何か愛おしくて、ついつい笑ってしまう。
 俺たちの周りが、和やかな雰囲気につつまれる。
 やっと、本気の意味で、俺たちは家族になれた気がした。



「話は、ついたみたいだね」



 そんな空気を切り裂く刃のような声が、俺の背後から響いた。

「じゃ、さようなら」

何事かと確かめる前に、後ろから巨大な負のエネルギーを感じた。
危険を感じ、俺は体を返らそうとしたが――動いてくれない。
ダメージを受けすぎた体は、うまく言うことを聞いてくれなかった。
万事休すか、と思ったその時、俺の視界がぐるりと回った。

「凛音っ!」
「凛音さんっ!」
「……っ……リヴィアッ!」

凛音はヴァルゴの掌底のようなものを受け、倒れこんだ。
攻撃を加えたヴァルゴは、一歩、俺たちから距離をおいた。
痛む体も忘れて、反射的に俺とシーナはあわてて凜音をかかえる。

「大丈夫か、凛音!」
「う……大丈夫、じゃないかも……父さんの攻撃、当たると、死んじゃう……」
「っ! ……どういうことだよ!」

 現実を受け止めきれず、つい声があらぶってしまう。
 俺と共に凛音の様子を伺うシーナが、渋い顔になった。

「日向さん……凛音さんに術がかけられています。それも、とてつもない強力なものが! 早く解いて差し上げないと!」
「! それ、本当か! 俺はどうすればいい!」
「とりあえず、凛音さんを仰向けにしましょう!」

 シーナの指示を受け、俺は凛音を仰向けに寝かせた。

すると、思いもよらぬ光景が、俺の目に飛び込んできた。

「こ、これは……」

 凛音の背中についた、黒い痕。それは、あの『悪魔の悪戯』事件で被害者が負っていたものと、全く同じ形をしていたものだった。

「まさか……」
「そう、だよ……」
「凛音さん! 無理しないでください!」

 凛音はシーナに止められつつも、苦し紛れに言葉を紡ごうとしていた。

「いいの、椎名ちゃん……『悪魔の悪戯』事件は、父さんがやったもの。『死誘掌しゆうしょう』って言ってね、打ち込んだ相手を数分で死へと誘う術なの……ゴホッ!」

 苦しそうに咳き込む凛音だったが、俺の腕をぎゅうっと掴み、まだ何かを伝えようとしていた。

「だから、最初日向がこの事件のことを知った時、いつか巻き込まれるんじゃないかって、心配してんだよ? でも、仇探しにも協力してあげたいっていう気持ちもあって……」
「分かった」

 俺はそう言って、凛音の頭にポンと、手を置いてやった。

「分かったから、もう寝てろ」

 そして、痛みに耐えながらも、ヴァルゴのもとへと歩みを進める。
 凛音とシーナは、信じられないといった顔になっていた。
 俺はヴァルゴの正面に立つと、そのままシーナの方へと顔を向けた。

「シーナ、凛音にかかった術は直せるか?」
「はい……ですが、力を使ってしまったら、日向さんのお体を直すのには少し無理があります」
「それは別にいいよ……凛音の傷を、絶対直してくれよ」
「…………はい!」

 少し間はあったが、シーナの頼もしい返事を聞き、俺は再びヴァルゴの方へと向いた。
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