剣聖の使徒

一条二豆

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第四章

決着

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 その手は、背に触れたところで、俺の手によってその動きを止められていた。

「どう、なって……」
「……黙ってりゃ好き勝手言いやがって……!」

 俺の体に再び、赤く煌めく瘴気が灯る。『死誘掌』によって背につけられた黒い瘴気など、気にもならないくらいに。
 俺はヴァルゴの手首を掴んだまま、すっと立ち上がった。
 意識を完全に取り戻した俺は、ヴァルゴを見つつ、シーナに向かって叫ぶ。

「ふざけてんのはてめえだシーナ! 勝手に俺が負けたみたいに言うんじゃねえよ!」
「日向さん……っ!」

 シーナが息をのんだのが伝わってきた。やはり、さっきの罵倒は、本心からじゃなかったんだな……。
 そう思うと、俺はなんだかくすぐったい気持ちになった。
 俺は気持ちをすぐに引締め、正面にいるヴァルゴを睨んだ。

「やっと捕まえたぞ……ヴァルゴ」
「おかしい、だろ……? なぜ、立っていられるんだ……?」

 ヴァルゴの声は楽しそうなものから打って変わって、畏怖を抱いたものになっていた。
 俺は目を泳がせているヴァルゴに、彼の疑問の答えを教えてやった。

「お前のくそくだらねえ体術より、俺のてめえをぶっ飛ばしたい気持ちが勝ったってことだろ? ま、助けられはしたけどな……それで、覚悟はできてんだろうな?」
「っ!」

 俺は手首を持つ左手に思いっきり力を注いだ状態で、右手で左わきの空を握った。

「最悪だったよ、お前は……でもこれで、もう終わりだ!
 いい加減目を覚ましやがれ! 現実から目をそらすな! お前の娘が『使徒』を殺して何が起こるって言うんだ!」

 イメージされた刀は、大きな殺気をまとい、姿を現す。

「『天罰』でも、食らっとけ悪魔があっ!」

 湧き出る意志の力は、俺の心に呼応し形を変える。
 罪を焼き払う、炎として。

「我流、九十九屋流、居合――奥義!」

 怒りの炎は現れた刃を包み、眩きを増す。
 そして、燃え上がる刀は、ヴァルゴを斬る。

「『纏炎怒鬼てんえんどき』!」
「――――――!」

 たった一撃。

 俺の放った一太刀は、呆気なくヴァルゴを地面に伏せさせた。
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