60 / 62
第四章
幕引き
しおりを挟む
ヴァルゴは立ち上がろうとするも、うまく起き上れていなかった。
やがて、起き上がるのをやめたのか、手と足を広げて、だらりとしていた。
「やられてしまった……ね……」
相当なダメージを負っているだろうに、ヴァルゴは笑みを作った。
俺は伸びているヴァルゴに近づいた。
「何で……俺を斬らなかったんだい?」
ヴァルゴは俺の顔を覗き込み笑みを崩さずにそう言った。
……俺がヴァルゴに放った攻撃は、峰打ちだった。
斬撃だったならば、即死だっただろう。だが、峰打ちのためにヴァルゴは体の骨がいかれるくらいで済んだはずだ。
俺はできるだけ冷たく努めて言った。
「別に……俺とお前は似た者同士だろう。だから何か嫌だった……お前を殺したら、自分を否定しているみたいでな」
「素直じゃないな……だが、ありがとう」
「礼を言われる筋合いなんかないがな……でも、目、覚めたんだろ?」
「ああ」
素直じゃないとか言いやがって……別に、お前のためじゃない。ただ、お前を殺したら凛音が悲しむと、そう思っただけだよ……。
「父さん! 日向!」
「日向さん!」
ヴァルゴと話していると、シーナと凛音の声が後ろから聞こえてきた。
二人はこちらを心配そうに、そして少し安堵したような様子で走ってきた。
「大丈夫二人とも……父さん、痛む?」
「痛いに決まってるだろう……まあ、大丈夫だから」
「日向さん、とてもかっこよかったですよ! 今日のごはんはお赤飯ですね!」
「分かった。分かったからあんまり揺らすな!」
シーナはキラキラとした目でそう言ってくるが、けがの心配はしないのかとか、何で赤飯なんだよとか、ツッコミしたいことが山ほど出てきているぞ。
あっちではなんか温かい雰囲気になってるって言うのによ……。
凛音は目尻に涙をためて、ヴァルゴを見ていた。
「リヴィア、すまないな……お前のことを全然分かってやれてなかった……」
「いいんだよ、父さん。分かってくれればそれで……」
会話を聞いている限りでは、どうやらちゃんと親子関係を取り戻せているみたいだな……。もとはいいやつのはずなんだ。それが知れてよかった。
二人が浮かべている表情は、俺にはもう得られない何かがあった……。
心の中で浮かんだ、黒い感情を振り払うように、俺はヴァルゴへと声をかける。
「で、これからどうするんだ、ヴァルゴ」
ヴァルゴは今までたくさんの人を殺してきた。それはぬぐえない罪だ。
これからこいつがどう生きていくのか、俺は知りたかった。
ヴァルゴは俺たちの方へと顔を動かした。
「ああ、これからは……凛音と一緒に暮らしていこうと思う」
「父さん……」
凛音が感動したように声をもらした。
ヴァルゴはそんな凛音に微笑み、また俺の方へと向き直る。
「できれば……罪を償いたい。そのためにも、また人間のために尽くせたらと思うよ……。そこでだ、君の助けになりたい。どうかな、『剣聖の使徒』?」
次いでヴァルゴの口から出た言葉は、俺を驚かせる言葉だった。
ヴァルゴは神妙な面持ちで念を押してくる。
「君には、人間たちには、すまないことをした……これで全てが許されるとは思っていない。ただ、せめてもの償いとして、な……」
「……考えとくよ」
ヴァルゴに対して、今はこれだけしか言えなかった。
悪魔と協力するということが、俺には決断しかねることだった。
「まあ、ゆっくりでいい……いつか答えを聞かせてくれ」
言い終えてヴァルゴは凛音に肩を貸してもらいながら、ふらふらながら立ち上がった。
「父さん、あんまり無理しないで……」
「大丈夫だよ……それよりも、そろそろ家に帰った方がいいんじゃないかな? お互い、疲れているだろう」
「そうだね、あ、今日は私がご飯作ってあげるよ!」
傷つけてきたのお前だろ! というのは無粋だろうか。
凛音が浮かべる笑みを見て思う。この笑顔を見るために、俺は頑張れただろうか。
そんなことを思っていると、隣で立つシーナにふふっと笑われた。
そんなに変な顔してただろうか。俺は恥ずかしい思いを隠すように、据わった目でシーナを見た。
「……なんだよ」
「いえ、別に何でもないですよ。それより、私たちも帰りませんか? 今日はお赤飯を炊かなくてはいけませんから」
「だから、何で赤飯なんだ……っ! ……うぐぁ!」
気を緩め、一歩進んだ途端に、意識が飛びかけるほどの痛みが全身に走る。
たまらず俺はその場に倒れこんだ。
「「日向(さん)!」」
二人の少女の声が聞こえる。
だが、痛みに耐え、目を必死につむっていて、俺は二人の姿を見ることができなかった。
遅れて、男の声が聞こえる。
「しまった……『死誘掌』を……!」
「そ、そうだった! し、椎名ちゃん! 術を使って治せないの!」
「す、すいません! 凛音さんにかかった術を解くのに力を使ってしまって……」
「じゃあ、父さんは? 父さんは解術できないの!」
「すまない……この体じゃ……」
「凛音さんはどうなんですか?」
「わ、私は術なんか使えないよ……」
「そ、そんな……日向さん!」
三人の必死な声が耳に入ってくる。
だが、その声ももうかすれて聞こえてくる。
っ……くそ、ここまで来たのに……。
「全く、ボクから招待すると言ったのに……仕方のない『使徒』だね」
薄れゆく意識の中、最後に聞こえてきたのは妙に腹の立つ男の声。
それが誰なのかを理解する前に、俺の記憶はぷつりと途絶えた。
やがて、起き上がるのをやめたのか、手と足を広げて、だらりとしていた。
「やられてしまった……ね……」
相当なダメージを負っているだろうに、ヴァルゴは笑みを作った。
俺は伸びているヴァルゴに近づいた。
「何で……俺を斬らなかったんだい?」
ヴァルゴは俺の顔を覗き込み笑みを崩さずにそう言った。
……俺がヴァルゴに放った攻撃は、峰打ちだった。
斬撃だったならば、即死だっただろう。だが、峰打ちのためにヴァルゴは体の骨がいかれるくらいで済んだはずだ。
俺はできるだけ冷たく努めて言った。
「別に……俺とお前は似た者同士だろう。だから何か嫌だった……お前を殺したら、自分を否定しているみたいでな」
「素直じゃないな……だが、ありがとう」
「礼を言われる筋合いなんかないがな……でも、目、覚めたんだろ?」
「ああ」
素直じゃないとか言いやがって……別に、お前のためじゃない。ただ、お前を殺したら凛音が悲しむと、そう思っただけだよ……。
「父さん! 日向!」
「日向さん!」
ヴァルゴと話していると、シーナと凛音の声が後ろから聞こえてきた。
二人はこちらを心配そうに、そして少し安堵したような様子で走ってきた。
「大丈夫二人とも……父さん、痛む?」
「痛いに決まってるだろう……まあ、大丈夫だから」
「日向さん、とてもかっこよかったですよ! 今日のごはんはお赤飯ですね!」
「分かった。分かったからあんまり揺らすな!」
シーナはキラキラとした目でそう言ってくるが、けがの心配はしないのかとか、何で赤飯なんだよとか、ツッコミしたいことが山ほど出てきているぞ。
あっちではなんか温かい雰囲気になってるって言うのによ……。
凛音は目尻に涙をためて、ヴァルゴを見ていた。
「リヴィア、すまないな……お前のことを全然分かってやれてなかった……」
「いいんだよ、父さん。分かってくれればそれで……」
会話を聞いている限りでは、どうやらちゃんと親子関係を取り戻せているみたいだな……。もとはいいやつのはずなんだ。それが知れてよかった。
二人が浮かべている表情は、俺にはもう得られない何かがあった……。
心の中で浮かんだ、黒い感情を振り払うように、俺はヴァルゴへと声をかける。
「で、これからどうするんだ、ヴァルゴ」
ヴァルゴは今までたくさんの人を殺してきた。それはぬぐえない罪だ。
これからこいつがどう生きていくのか、俺は知りたかった。
ヴァルゴは俺たちの方へと顔を動かした。
「ああ、これからは……凛音と一緒に暮らしていこうと思う」
「父さん……」
凛音が感動したように声をもらした。
ヴァルゴはそんな凛音に微笑み、また俺の方へと向き直る。
「できれば……罪を償いたい。そのためにも、また人間のために尽くせたらと思うよ……。そこでだ、君の助けになりたい。どうかな、『剣聖の使徒』?」
次いでヴァルゴの口から出た言葉は、俺を驚かせる言葉だった。
ヴァルゴは神妙な面持ちで念を押してくる。
「君には、人間たちには、すまないことをした……これで全てが許されるとは思っていない。ただ、せめてもの償いとして、な……」
「……考えとくよ」
ヴァルゴに対して、今はこれだけしか言えなかった。
悪魔と協力するということが、俺には決断しかねることだった。
「まあ、ゆっくりでいい……いつか答えを聞かせてくれ」
言い終えてヴァルゴは凛音に肩を貸してもらいながら、ふらふらながら立ち上がった。
「父さん、あんまり無理しないで……」
「大丈夫だよ……それよりも、そろそろ家に帰った方がいいんじゃないかな? お互い、疲れているだろう」
「そうだね、あ、今日は私がご飯作ってあげるよ!」
傷つけてきたのお前だろ! というのは無粋だろうか。
凛音が浮かべる笑みを見て思う。この笑顔を見るために、俺は頑張れただろうか。
そんなことを思っていると、隣で立つシーナにふふっと笑われた。
そんなに変な顔してただろうか。俺は恥ずかしい思いを隠すように、据わった目でシーナを見た。
「……なんだよ」
「いえ、別に何でもないですよ。それより、私たちも帰りませんか? 今日はお赤飯を炊かなくてはいけませんから」
「だから、何で赤飯なんだ……っ! ……うぐぁ!」
気を緩め、一歩進んだ途端に、意識が飛びかけるほどの痛みが全身に走る。
たまらず俺はその場に倒れこんだ。
「「日向(さん)!」」
二人の少女の声が聞こえる。
だが、痛みに耐え、目を必死につむっていて、俺は二人の姿を見ることができなかった。
遅れて、男の声が聞こえる。
「しまった……『死誘掌』を……!」
「そ、そうだった! し、椎名ちゃん! 術を使って治せないの!」
「す、すいません! 凛音さんにかかった術を解くのに力を使ってしまって……」
「じゃあ、父さんは? 父さんは解術できないの!」
「すまない……この体じゃ……」
「凛音さんはどうなんですか?」
「わ、私は術なんか使えないよ……」
「そ、そんな……日向さん!」
三人の必死な声が耳に入ってくる。
だが、その声ももうかすれて聞こえてくる。
っ……くそ、ここまで来たのに……。
「全く、ボクから招待すると言ったのに……仕方のない『使徒』だね」
薄れゆく意識の中、最後に聞こえてきたのは妙に腹の立つ男の声。
それが誰なのかを理解する前に、俺の記憶はぷつりと途絶えた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる