シンデレラフィットの異世界で、愛される伯爵夫人を目指していいですか?

帆々

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褪せない花(7)

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まあ。

あからさまな本人への悪口にちょっと言葉が出てこない。

こんな失礼な人に会ったことが、これまでになかった。
一人になった後も、その驚きと言葉の不快さで、胸がむかむかする。

もうお習字を続ける気にもなれず、わたしは意味もなく部屋を歩き回った。気を静めようとしたのだ。

ガイが戻ったのはそれからしばらくのことで、その頃にはようやく気持ちも落ち着きを取り戻していた。

彼はお客を伴っていた。学究院の理事を務めるキーラさんだ。
広大な院の管理運営をまとめる人物で、ガイとはジア先生と同じく学生時代からの仲と聞いた。

くるくるした栗色の髪が印象的なハンサムな男性だ。

「ああユラさん。あなたからもこの無頓着を説得してほしい」

お茶の支度をしようと立ち上がったわたしに、そんな声をかける。
ガイは面倒そうに、長いすに寝転んだ。

「お嬢さん、このうるさいのは無視していいから」
「まあ」

お茶を出しながら聞いていれば、二人のやり取り(一方的にキーラさんが発言)で、ガイが周囲から理事会に入ることが望まれているとわかる。

また届いた手紙を分類しようとしたわたしの手を、ガイが引いた。座れとうながす。
ガイは脚を下ろしてくれたけど、一人掛けの椅子に掛けた。

「今がチャンスだろ。古老派の一人が、せっかく辞したんだ。まだまだ多数には及ばないが、王宮に近い君が入れば、形勢が変わるよ」
「縁故は使えない。知っているだろ」

そう応じた後で、ガイはわたしに、キーラさんが院内運営の上で、理事会の刷新を目指しているのだと教えてくれた。

古い体制が続く理事会では、円滑な運営が図りにくい。予算の分配も、理事会の決定なのだという。

「学生が望んでいるのは、桟敷のある新たな劇場じゃない。寮の増築であるし、研究施設だろう。それに、コネ。院にはびこる悪の代名詞だ」
「それを言われると、肩身が狭いな。家名は必ず影響あるよ」
「君はそうじゃない」
「必要悪でもあるからな。そのせいで寄付が潤沢だ」
「消せとは言ってない。減らしたい。せめて三割程度に」

ガイはちょっと天井を見る風に、「取得単位の数で専攻を決めてしまうのはいいかもな」。

「変更になっても、転属と言うことで、お茶を濁せれば、親も納得するかも知らん」
「そう、お宅の息子は出来が悪くて落第だと言われるより、新たな可能性を提案したいと伝えれば、馬鹿な親もほけほけ喜ぶさ」
「君は、何かコネに恨みでもあるのか」

ガイがおかしそうに返す。

「君ら貴族さまと違って、商売屋出身は理不尽な目も見ているわけさ」
「ねえお嬢さん」

ガイはわたしへ、

「キーラはこう言うが、実家は大層な銀行家なのですよ。堅苦しい名家などよりご婦人には魅力的じゃないですか」

などと言う。

「え」

よくわからない、とわたしは首を振っておいた。
こんな軽口も、ちょっと胸をえぐる。
キーラさんが帰った後で、ガイは伸びをしながら大きくあくびをした。

「無駄な時間が多くて、疲れた」

長引いた教授たちとの会合のことを言うのだ。
わたしが呼んだ棟のメイデルが、カップを下げてくれる。

「僕のいない間、一人で大丈夫でしたか?」

それで、失礼極まりないあの金髪青年を思い出す。

何か提出物めいたものを持っていたこと。預かることを申し出たのに、避けたこと。
また来ると言って帰ったこと。

「名乗らなかった。聞いたのに」
「どんな人物でした?」

それに、長めのきれいな金髪をしていたと伝える。

「ふうん」

多くの学生を見ているのだ。一人一人の記憶があいまいでも仕方がない。
思い出すのもしゃくで、言いたくなかったのに、つい付け足してしまう。

「ガイは、「相変わらず秘書の趣味がひどい」のですって」

そこでガイはぴんときたらしい。
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