シンデレラフィットの異世界で、愛される伯爵夫人を目指していいですか?

帆々

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無茶な遊びを気ままに繰り返してきた彼女にも、とうとう災難が降ってきた

乱交の最中、人が死んだのだという。

「深夜、手紙で僕に助けを求めてきました。そんなことはついぞない。そこでようやく僕は覚悟を決めたのです。あの腐った女と手を切らないと、また誰かが被害に遭う」

姫の名誉やその保身。自身の家名や地位。それらを守ることにずっと彼は囚われてきたという。

「僕のどこを押せばより痛がるか、あれは熟知している。しかし、そんなものが一体何の弱味になるのか」
「でも、姫の罪は?」

「知らないと、突っぱねればいい。どんな醜聞が起きても、関係ないと無視すればよかった。でっち上げだと、逆に不敬を理由に責め上げることもできたのです。単純に戦えばよかった。僕にその覚悟が決まらないのを、あの女はよく見抜いていた」

ガイはレディ・アリナの要求に応じる代わり、離婚を提示することを決めた。そのため代理人を連れ、彼女の知らせて来た場所へ向かう。

「ああ」

とそこで彼は、彼が伴った代理人は、わたしたちの結婚時の代理人でもあるのだと言った。

向かう途中に看板を見つけ、叩き起こしたのだという。

「邸の代理人はあれの息がかかっているかもしれず、ちょっと信用が置けない。彼は驚いていましたが、その後僕の専任にすると申し出たら、四の五のもない」

小さな個人の事務所だったという。

それであるなら、名門の春告げる伯爵家の専任代理人は大得意先になる。大出世と言っていい。

レディ・アリナは一人で玄関ポーチに待っていた。

「死人が出たから、この場から早く逃げたいのだと言いました。彼女のドレスに血の跡があって、あんな女が不安げに震えているから、一人二人の死じゃないと思う。何か相当の事件があったのでしょう」

のちにガイが新聞で知ったところでは、その邸で暴行と服毒で十数人の死者が出たらしい。

彼女がいつになくガイを頼ったのは、事件の場からいち早く逃げるため、彼の地位を利用したかったからなのだという。

残っていれば、身が危うい。しかし、死体だらけの邸の他、身を隠せる場もない。

「誰かの領地の外れの小さな村です。通信員を一人見つけるのがやっとで、とてもあんな目立つ女が潜んでいられる界隈ではない」

通信員とは、わたしの感覚では郵便配達人が近い。時間外では、単身の彼らしか王都へのゲートをくぐることができないと決まっているといった。

彼女はその通信員に依頼し、ガイへ連絡を取ったようだ。

「当時の僕なら、その時間閉じた王都へ入るゲートを通過できるのです。王子の後見を務める者の特権です。現に僕はそれを使ってゲートを出て来た」
「そう」

うなずきながら、軽い違和感を持った。

ガイは「当時の僕なら」と言ったが、以前わたしを助けに現れてくれた際、ものものしい騎馬隊を引き連れ、ゲートを通った気がするのだ。おそらく深夜に。

ちらりと彼を上目で見ると、彼が小さく笑った。

「あなたはつくづく敏い人ですね」

彼は例外を認めた。使うことはないが、肩書もなく今もその権利を持っていると。

「王子のおはからいです」
「敏くなんてない。前とは違って、ガイがあんな人にたった二人きりで会いに行ったのが、恐ろしかっただけ」

「出来る限り人に知られることは避けたかったのです。僕も銃は扱える。そもそもが、身を賭すほど腹をすえなければ、あの女とは対峙などできない」

その時の彼の相当な覚悟が知れる。

そして、彼はレディ・アリナにその窮地を救うための条件を突きつけた。

離婚だ。

「こちらが拍子抜けするほど簡単に、あれはうなずいた。もう僕に旨味がないと感じたのでしょうか。のちに、姫の手紙も絵も返ってきました。それでしれっと手打ちのつもりでいたようです」

離婚を機に、王子の後見職も辞したという。彼らの離婚劇は社交界で大きく取り沙汰された。

世間を騒がせたその責任を取ってのことだと言った。
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