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甘やかな月(1)
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ガイと彼の過去を共有することは、わたしの心の整理にもなった。
掛け違いや思い込み。
散らばったそれぞれのピースが、あるべき場所にぴたりとはまる。
身体に彼の腕が回る。引き寄せられ、口づけを受けた。
思いがけず長く続き、胸がうずくようにときめいた。頭の奥でもやがかかり、ちょっとうっとりとした気分になる。
彼の指が頬をすべり、耳をくすぐる。それがこそばゆくて恥ずかしくて、わたしは少し腕の中で身もだえた。
彼の舌が唇を割り、口づけが深くなる。
わたしは初めてのそれに戸惑ってわからず、なすがまま瞳を閉じ続けた。
運ばれてベッドの上で重なる。
そこで初めて、今彼がわたしを求めているのだと気づく。
タイを外す彼を、わたしはちょっとぼんやりと見ていた。
長い指先が、わたしの夜着をくぐるとき、ほんのり怖かった。
知らないガイがそこにいて、素肌に触れる彼の手に、わたしはぎゅっと目をつむる。
胸が高鳴るその先に、やはり恐怖があって、シーツを手が痛くなるほどつかんだ。
「あの、あの...」
乳房をやんわりとつかむ彼の手を感じて、少し息が上がる。
「嫌なの?」
彼の声は低い。
優しさも。
わたしを見つめる目の色も。
同じようにあるのに、前とは違う。
それらにたじろいでしまうのだ。
わたしは目を伏せ、暗くしてほしいと頼んだ。
嫌でも拒むのでもない。
けれど、成り行きにおじけて、臆病になってしまっていた。
彼が腕を伸ばし、すぐに部屋が暗くなる。
もう遅く、使用人は別棟に下がってしまっていた。もう誰も用を聞きに扉をノックしになど来ない。
巨大な邸に、二人きりだった。
これまで何ともなかったことが、今はこんなにもわたしを不安にさせる。
彼が衣服を脱ぐ衣擦れの音。暗闇に彼の肌が浮かび上がる。
わたしは上着を取る彼しか知らない。
動転してしまい、涙があふれた。
気づかれないよう横を向き、すぐに枕に押し当てて始末する。
乳房の先に彼の唇を感じる。
舌先が触れ、肌をくすぐる感触に声がもれそうになる。
わたしはもうガイの妻だった。
自分が望んで、待ち焦がれてそうなった。
その二人が身体を重ねるのは、ごく当たり前のこと。
いつか、彼はわたしに言ってくれていたのに。
「結婚の後では父娘のような関係でいられないのはわかりますか?」。
「僕の振る舞いは、無垢なあなたには怖く感じるかもしれない。それでも拒まないでくれますか?」。
それなのに、ガイの仕草が夫のそれになったことで、腰が引けてしまっている。
彼のためなら何でもしたいと思ったのに。
レディ・アリナが彼にあげられなかったものを、わたしが全部埋めてあげたいと誓うのに。
将来、あなたの子供を産みたいと願うのに。
この期に及んでの、自分の意気地のなさに情けなくなる。
結局わたしは、形だけで彼に寄り添ってきたに過ぎない。
身を起こした彼が、わたしの脚を開いた。
無防備なその姿勢のたとえようのない頼りなさ。触れられたことのない場所を彼の指が探るように動く。
押し当てられた彼の身体に、のどの奥を悲鳴が上った。
小さくあえぐことで、何とかそれを逃がした。
「力を抜いて」
「え」
「あなたがつらいから」
力み切ったわたしの状態が、挿入に具合が悪いのだ。
これ以上どう力を抜くのかもわからない。
もう涙も隠せなくなった。声を殺すのが精いっぱいで、その余裕がない。
掛け違いや思い込み。
散らばったそれぞれのピースが、あるべき場所にぴたりとはまる。
身体に彼の腕が回る。引き寄せられ、口づけを受けた。
思いがけず長く続き、胸がうずくようにときめいた。頭の奥でもやがかかり、ちょっとうっとりとした気分になる。
彼の指が頬をすべり、耳をくすぐる。それがこそばゆくて恥ずかしくて、わたしは少し腕の中で身もだえた。
彼の舌が唇を割り、口づけが深くなる。
わたしは初めてのそれに戸惑ってわからず、なすがまま瞳を閉じ続けた。
運ばれてベッドの上で重なる。
そこで初めて、今彼がわたしを求めているのだと気づく。
タイを外す彼を、わたしはちょっとぼんやりと見ていた。
長い指先が、わたしの夜着をくぐるとき、ほんのり怖かった。
知らないガイがそこにいて、素肌に触れる彼の手に、わたしはぎゅっと目をつむる。
胸が高鳴るその先に、やはり恐怖があって、シーツを手が痛くなるほどつかんだ。
「あの、あの...」
乳房をやんわりとつかむ彼の手を感じて、少し息が上がる。
「嫌なの?」
彼の声は低い。
優しさも。
わたしを見つめる目の色も。
同じようにあるのに、前とは違う。
それらにたじろいでしまうのだ。
わたしは目を伏せ、暗くしてほしいと頼んだ。
嫌でも拒むのでもない。
けれど、成り行きにおじけて、臆病になってしまっていた。
彼が腕を伸ばし、すぐに部屋が暗くなる。
もう遅く、使用人は別棟に下がってしまっていた。もう誰も用を聞きに扉をノックしになど来ない。
巨大な邸に、二人きりだった。
これまで何ともなかったことが、今はこんなにもわたしを不安にさせる。
彼が衣服を脱ぐ衣擦れの音。暗闇に彼の肌が浮かび上がる。
わたしは上着を取る彼しか知らない。
動転してしまい、涙があふれた。
気づかれないよう横を向き、すぐに枕に押し当てて始末する。
乳房の先に彼の唇を感じる。
舌先が触れ、肌をくすぐる感触に声がもれそうになる。
わたしはもうガイの妻だった。
自分が望んで、待ち焦がれてそうなった。
その二人が身体を重ねるのは、ごく当たり前のこと。
いつか、彼はわたしに言ってくれていたのに。
「結婚の後では父娘のような関係でいられないのはわかりますか?」。
「僕の振る舞いは、無垢なあなたには怖く感じるかもしれない。それでも拒まないでくれますか?」。
それなのに、ガイの仕草が夫のそれになったことで、腰が引けてしまっている。
彼のためなら何でもしたいと思ったのに。
レディ・アリナが彼にあげられなかったものを、わたしが全部埋めてあげたいと誓うのに。
将来、あなたの子供を産みたいと願うのに。
この期に及んでの、自分の意気地のなさに情けなくなる。
結局わたしは、形だけで彼に寄り添ってきたに過ぎない。
身を起こした彼が、わたしの脚を開いた。
無防備なその姿勢のたとえようのない頼りなさ。触れられたことのない場所を彼の指が探るように動く。
押し当てられた彼の身体に、のどの奥を悲鳴が上った。
小さくあえぐことで、何とかそれを逃がした。
「力を抜いて」
「え」
「あなたがつらいから」
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もう涙も隠せなくなった。声を殺すのが精いっぱいで、その余裕がない。
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