シンデレラフィットの異世界で、愛される伯爵夫人を目指していいですか?

帆々

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甘やかな月(18)

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「では、お客間にご案内いたします」

「火を起こさないように。居心地よくなどされては困る」


倦んだガイの声。


院での面倒で長い理事会の後で、わたしの件で、会いたくもない夜のお客の対応だ。


彼はくわえたばこで、伸びをしながらぶらぶらと歩いている。


しばらくそうしていて、暖炉にたばこを投げ入れた。


「僕を待たなくていいですよ。好きに休んだらいい」


ガイが部屋を出て、わたしはほどなく立ち上がった。


寝室に上がろうと思った。


嫌な一日で、ひどく気分が疲れていた。


バスの後で暖炉の前でぬれた髪をふいた。


着替えを手伝ってくれるリンが、


「あんなにお怒りのご様子の旦那さまは初めてです」


と言った。彼女がお茶の対応をしたのだという。


客間のガイがいすに掛けもせず、マントルピースにもたれ、無言で腕を組んでいた。その前で、彼ににらまれたお客が二人、しきりに何か弁解していたらしい。


リンは自分が叱られたわけでもないのに、首をすくめている。


一人になり、ベッドに横になった。


さっきのリンの話が頭を去らない。ガイに不快な思いをさせて申し訳なく思った。


それにつれて、ミカ少尉の言葉も引き出されてくる。


胸の悪くなるような侮蔑を受けた。


わたしが、レディ・アリナの後の妻としてふさわしくないというのは、いい。あんな人と比べることすら意味がないから、腹も立たない。


秘書だったわたしがガイをたぶらかして、妻の座を得たというのも、そういう見方もあるのかもしれないと、我慢もできる。


「妻から噂を聞いて」と言っていたから、あの人個人の見解ではなく、そういう話は飛び交っているのかもしれない。


わたしのことはいいのだ。


色ガラスの指輪が安物で、わたしに似つかわしいとあざ笑われたのも、聞き流せる。


けれど、あの人は、ガイについても侮辱した。


軽はずみで、まるでおろかな好色漢であるように彼までののしったのだ。


許せなく思った。


そればかりは、譲れないほど腹立たしい。


ジア先生は、わたしがレディ・アリナにさらわれた際のガイが、どれほど度を失っていたのかを教えてくれた。


いすを蹴り上げ、銀時計を壁に投げつけたという。


冷静なガイをそれほどに追い詰めたあの事件を、ミカ少尉はわたしの狂言だと決めつけた。


どれほどの思いで、わたしを探して救ってくれたのか。


あの夜、彼は再会したわたしを抱きしめ、こう言ったのに。



「あなたが消えて、僕は気が違いそうになった」。



胸にくすぶる嫌な憎しみで、唇を痛むほど噛んだ。


そして、悔しかった。


あんな人の前ですっかり怯えてしまい、何も言い返せなかった自分が悔しいのだ。




「どうしたの? 泣いているの?」


ベッドの中でひざを抱えていた。いつしかガイがやって来ていた。


身体を曲げたわたしの顔を彼がのぞき込む。


ほろほろこぼれる涙は、自分を哀れんでのものではない。


後悔の涙だ。


「かわいそうに。怖かったでしょう。あなたに何の落ち度もないのに」

「…狂言だったと、認めなくてはいけないの?」

「馬鹿な」


ガイは上着を脱ぎながら、強く抗議しておいたと言った。


わたしの遭ったあの事件は、形だけ訴えを上げ、その後すぐに家名やわたしのプライバシーをはばかってなどの理由で、取り下げられている。


要は泣き寝入りの幕引きで、事件そのものが、実態はあっても表になっていない。


首謀者がレディ・アリナであり、彼女のおびただしい余罪の最奥には、ルリ姫の被害がある。とても騒ぎ立てるなどできないのだ。


「忘れることはできないだろうけど、今は考えないで。僕もそうするから」


わたしをくるむ掛布をガイがはいだ。タイを外しながら、口づける。
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