シンデレラフィットの異世界で、愛される伯爵夫人を目指していいですか?

帆々

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甘やかな月(20)

ガイが出かけた後で、決まった仕事をこなした。

手紙の処理や、『レディ・チュチュ』の梱包など。それらが済めば、もう昼に近い。

昼食は、まれにガイも帰ることがあるが、ほとんど一人だ。

「お昼食は、こちらでよろしゅうございますか?」

献立表をドラが持って現れた。一人なので、ごく軽くといつも頼んである。

サンドイッチと卵料理だ。デザートにアイスクリーム。

この時に、夕食の献立のチェックも求められる。魚料理がメインの、前菜に鳥のゼリー寄せがあり、これはガイがあまり好まないようだったので、変更してもらう。

昼食をとってから、書斎に戻った。

もう大きくなったチュチュは、勝手に邸内をうろうろ遊びまわり、気がつくとわたしの足もとにいたりする。

少しなぜてやってから、呼び鈴を鳴らした。

現れたメイデルに、ヤンを呼んでほしいと頼んだ。

「手が空いていたらでいいの」

ほどなくやって来たヤンに、手伝ってほしいことがあると告げた。

「何でございましょう」

わたしは手紙の文面を考えてほしいと言った。わたしの文章力では稚拙過ぎ、巧くつづれない。

「ガイが書くような文章を教えてほしいんです。彼の字はわたしが書けるから」
「内容はどのような」
「保安局の偉い人たちにあてた手紙で、ミカ少尉の処分を軽くしてもらうためのものです」

そこでヤンは「おや」という表情を見せた。やや間を取ってから応える。

「それは、旦那さまがご了解のことがらでございましょうか?」
「いいえ。ただ、ガイは少尉の処分について、指示はしていないと言っていたから。保安局の方がガイをはばかって処分を決めるのだろうって」

「確かに。旦那さまのお立場で、そのような指示を直接出されることはございません。ご不快のご様子をうかがって、周囲が忖度申し上げるのが常でございます」

「わたしは、あの人をクビにしてほしいとか、左遷させてほしいとか思っていないんです。逆にそんなことをされたら、怖いくらいです。ただ、反省してほしいだけだから」

ヤンは沈黙の後で言った。

「旦那さまは、奥さまのお考えをあまりお喜びにはならないと思われますが、よろしゅうございますか?」
「それはどういう?」

「今回の奥さまの遭われた件で、旦那さまは大変お怒りとお見受けいたしました。責任者に相応の落としどころを求めるのは、伯爵家の家格を考慮して、いたって尋常な成り行きでございましょう」

「いけませんか?」

ヤンは首を振った。

「そうは申しておりません。奥さまがそうすることですっきりと納得されるのでしたら、ご協力いたします」
「ありがとう。ガイやこの家に迷惑をかけることはしませんから」

ヤンの知恵を借り、文面を整えてもらった。


『…該当の者に厳しい自省はもちろん、かつ春告げる伯爵家との関与を永劫に断つ誓約を得るのであれば、侯は不問に処すことを望む。これは妻が特に寛恕を持つことからの希望であり、それを認めるものとする』。


『妻が~』の部分は気恥ずかしい。

削ってはいけないのかをヤンに聞いた。

「旦那さまなら、奥さまが特に望まれたくだりは必ず述べられることでございましょう」

ならば仕方がない。夕べの怒りがいきなり軟化したエクスキューズにもなるかもしれない。

ヤンの文章をきれいに書き写した。

「助かります」

まるでガイが書いたような手紙になり、出来栄えにうれしくなる。

手紙の署名欄に、ヤンは印璽を押した。これは婚姻届けを書く際に見たことがあった。

「お名前をお貸しになることは、白紙委任と同じ意味だとはおわかりでございましょうね」

ヤンの優しい問いに、わたしはガイに、理由を言わずに名前を貸してほしい頼んだことを思い出す。

彼も聞かなかったから、今まで何も感じずにいた。

ヤンの言うように、それは白紙の委任状にサインをするのと同じことだ。

「側聞いたしまして、大変驚きました。以前の奥さまにはお許しになられなかったことがらでございます」
「え」

何度かレディ・アリナがガイにそれを求めたことがあったという。しかしガイは首を縦に振らなかった。

「「君が伯爵になればいい」と返されて。ご当主として、そのお返事は当然だとは思いましたが」

だから、今回わたしの申し出に、ガイが易くうなずき、更に印璽の使用も許したので、よほど驚いたという。

朝のガイの様子を思い出してみる。わたしの頼みに、意外そうに彼は少し目を凝らしてわたしを見た。それから少し笑ったように思う。

気づいたのかもしれない。

わたしのこの計画を。
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