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プロローグ

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「まるで魔女ですよ。ご覧になって、ダーシーのあの目を」


継母が声を震わせて言った。


わたしは逆らうように見つめ返した。何がいけないのか。実母は両の色の違うわたしの瞳を美しいと愛おしんでくれた。


魔女なんかじゃない。


「術師マルグリットの予言通りですよ。我が子爵家を滅ぼす定めの忌まわしい娘です」


この人が、わたしについて父に言うことのほとんどが嘘だ。知人が死んだのも、王宮で風邪が流行るのも、街で強盗があったのも。みんなわたしの影響だと脚色されて、父の耳に入る。


母の死の後で無気力で老いた父は、面倒事を嫌う。すべてが彼女の意のままだ。


わたしが何を言っても、通じない、聞こえない。味方もいなかった。少しでもわたしを庇えば、すぐに邸をクビになるからだ。


「義姉妹をいじめる性悪ですよ。転地させるべきですわ。王都には置けません。純良な娘たちの障害にもなりますもの」


父はわたしをちらりと見て、すぐに目を逸らす。


「お前がいけないよ。お継母様の言いつけに逆らうのだから」


自分の前で、扉が閉じられたのを知った。


わたしは両脇を使用人につかまれて、部屋を出された。


それから父の顔を見ていない。


「僻地の領地なのだから、ドレスやお前の母親の形見など、置いて行きなさい。あんな場所、肌着や着替えなど二、三もあれば十分ですからね」


荷物の検査までされた。着の身着のままが言い過ぎではない状態で、わたしは家を出された。


わたしを切り捨てた、青ざめて冷酷なあの表情こそ魔女だと思った。


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