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第7話:新武器

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「あはは……ともかく、お疲れ様でした」

 苦笑いを浮かべながら、天音あまねは声を掛ける。

「顔痛ぇ~……」

 連理れんりは顔を抑えながら立ち上がった。ゴーレムによって地面にめり込んだせいで、少なからずダメージを受けてしまったのだ。

「傷なら私が治療しますよ」
「お、すまんな」

 天音は彼に近づき、回復魔術の呪文を詠唱する。

「――癒やしの風よ、傷つき疲れたその肉体を再生し給え《キュアネス》」

 すると緑色の光が彼の頬を包み、傷ついて血が滲んでいた頬は治療された。

「さんきゅ」
「さ、明里さんもやりますよ」
「えー、さっきやったしよくない?」
「よくないです。あれは簡単な魔術ですから。浅い傷と言えど、疲れは蓄積されますからね。治療しておくに越したことはありません」

 見えないダメージというのは蓄積される。特に痛みの軽減されるダンジョン内では、ダメージに気づきにくい。急に動けなくなることだってある。
 それにそうやってダンガーが発動した時、一週間ほどのクールダウンが必要になる。だから警戒しておくに越したことはないのだ。

「ふーん……そういうもん?」
「そういうもんです」

 明里あかりは渋々と言った様子で天音の治療を受けた。

『まるで姉妹みたいだな!』

「確かに浅い傷でも治療は大事だからな。まあ深い傷はそもそも負いたくないが……」

 連理は先程のコメントを見なかったことにして、そう言った。今度そんなコメントに言及したら何が起きるかわからない。

「血とかはダンジョンがゲームっぽく補正してくれるからいいけど、あれはやっぱり痛いからね~」

 経験したことがあるのか、明里はぶるりと体を震わせた。
 血に関しては、明里の言った通りだ。
 ダンジョン側としては、血で人が来なくなるくらいなら血だけでも魔力化して吸収してしまい、ゲームのようにしてさらに人を呼んだ方が好都合なのだろう。

『経験談で草』
『あれくらい猪突猛進だと何回も経験してそう』

「さて、じゃあ戻ってあそこを探検してみるか」
「ですね」

『お、ついに』

 四人は歩き出した。

 ◇

 先程の隠しエリアで四人はアイテムを物色していた。
 電気的な照明に、黒色の金属の壁。それにケーブル。
 見れば見るほどSFチックだな、なんて連理は思ったりした。

「結構いいもんあるなぁ」

 この部屋では、このダンジョンで手に入るような高価なアイテムがいくつか存在した。ゴーレムの材料になっている岩石や、ベアリングのような構造体。
 それに、魔力を通すと光る魔導具など――これは遺跡の壁にある照明と同じものだ。

 さらに、本来ならもう少し深層に存在するはずのミスリルという鉱物もあった。これはここ特有の鉱石ではなく、他のダンジョンでも入手可能だ。

『これ、もし復活するとしたら結構な発見だぞ』
『おっ、争奪戦か?』

「まあでも、こういうのって復活しないのが定石だよなぁ……」

 コメントを見て連理は呟く。
 それからしばらくして、荷物の整理が完了した。

「これで大体終わりか?」
「んだな。あと荷物持ちありがとな」

 連理は零夜れいやに感謝を述べる。

「さて――あとは新武器だな」

 それから、彼は新たな武器を掲げた。
 見た目は緑青色の拳銃。銃口の下が少しゴツくなっているのが特徴的だった。

『お、これは期待』
『無条件でアーティファクト使えるって結構羨ましいよなぁ』

 どんな形のアーティファクトでも、その多くは一般人には使用できない。この銃も本来トリガーを引くだけでは使えない。それがスキルによって使用可能になっているのだ。

「え、どんなの~?」

 明里が覗き込む。

「ふむふむ……名前は『アークキャスター』だな。効果は――あー、なるほどな」
「……どんな武器なんですか?」
「ちょい待て。つまり――こういうヤツだ」

 連理はそれのトリガーに指を掛けて引く。

「え、何を――」

 驚く天音をよそに、その銃口が光り紫色の光線が射出された。
 それは壁に黒いシミを残し、消滅した。

「きゅ、急に撃たないでください!」
「いやぁ、やっぱこっちの方がインパクトあるし?」

 悪びれる様子もなく連理は笑う。

『おー! かっけぇ!』
『古代文明はロマンの塊ですよね?』

「いいね! これ採用?」
「そうだな、威力は低いっぽいけど採用かもしれん。特に軽いとこがいいな。今の装備全体的に重くてな……」
「へぇ、確かに装備多いもんね」
「ま、とりあえずお試しで使ってみてからだな」

 連理はスキルの特性上持つ武装が多いのだ。背中に肘に腕に腰に、色々な武器を付けている。

「あと――どっちかと言えばこっちがメインになる気がするな」

 彼はマガジンを抜き、別のものに差し替えた。
 そして構え、発射。

 今度は二メートルほどの短い距離に青い雷が迸った。雷はバチンと大きな音を立てて弾けた。

「だから! ……はぁー、もういいです」

 またまたビックリしている天音が、自信の額に手を当てた。

「はは、すまんな。ちなみにこっちは見ての通り電撃。そして効果は相手の動作停止だってよ。もしかしたらサブステイシスくんお役御免かもな」

『悲しい』
『今まで頑張ってくれたのに……』

「それ、マガジン変えてたみたいだけどいいのか? 遺跡産だし、特注の弾が必要になったりしそうだが」

 零夜は連理に訊いた。
 当然だが、零夜の言う通りになれば、かなりコストが掛かる。だが、今回はそうではなかったらしい。

「ああ、これな。多分このマガジンエネルギーの質変えてるだけで、弾は入ってない。だから、特注の弾は要らんな。弾丸式じゃなくて助かったぜ……」
「なるほどな」

 それから、連理は安全装置を掛けてから胸ポケットに銃を入れた。

「そういえば、連理さんはそのパイルバンカー? みたいな武器はどうして肘に付けているんですか?」

 新たな武器を手に入れたことで、パイルバンカーの異質さが気になったのか、天音が質問する。

「ああ、これな……前にミスって自分の手の平を貫いてさ。ダンガーで入り口に即転送されて激痛に悶えることになってからは肘につけるようにした。これなら絶対自爆しないから……」

 引きつった顔で連理は答える。

「そ、そうだったんですね……」

『まああれ自爆したらヤバいわな』
『逆に自爆してるとこ見たかった』
『ダンガーくん、治療はしてくれても痛みは消してくれないからな』

 瀕死になると少しの治療を施されて入り口に転送されるが、だからといって痛みまでは消えないのだ。

「うし。じゃこんなもんか。にしても結構良いもの拾えたなぁ」
「ん? 何これ?」

 満足する二人の脇で、明里が何かを見つけたようだった。
 それは、黒色の歪な鍵のように見えるものだった。

『鍵?』
『未発見のヤツか? 未発見のエリアだしワンチャンある』
『俺たちの夢はまだ終わらねぇってことか……』

 カメラが自動で移動し、コメントがざわつく。

 すでに攻略されているダンジョン内部の情報は、未踏領域みとうりょういきでもない限りそのほとんどがインターネット上や探索者協同組合にて公開されている。
 協同組合というのは、国家組織であるダンジョン防衛庁の下と提携している組織だ。組合そのものは国家組織ではないが、国家認定の組織としてダンジョン物資の流通の円滑化や、探索者への補助を主に行っている。

 だが、そのアイテムはどこにも情報がないものだった。

「ほー、また何かあったのか? 鍵? っぽいけど……どこの鍵なんだ?」
「というか、鍵なんて一体どこで使うんでしょうか……」

 頭をひねる連理と天音。

「まさか新アイテム? ちょっと見てみてよ」

 明里は少しワクワクしながら連理に鍵を差し出した。
 すると。

「あれ? これって……アーティファクトか?」

 連理がそれを受け取り、疑問の声を上げた。

「『我々の重要物資を保管する隠し部屋の鍵。部屋は我々に属するものならすぐに分かる。絶対に外部に漏らしてはならない』……? いや、我々って誰だよ」

『草』
『というかまた鍵って、たらい回しクエストですか?』

「え? 急にどうしたの?」

 明里あかりが不思議そうに連理れんりの顔を覗き込む。

「いや、俺のスキルが発動したんだ。アーティファクトの詳細が分かって、使用可能になるヤツな」
「あ、じゃあそれの説明ってこと?」
「そういうことなんだが……よくわからない説明だな」
「今読み上げたもの、ということですか。確かによくわからないですね……」
「情報があったところで、何も進展はなし、か」

 零夜れいやは思案する。

『結局迷宮入りである』
『というか、誰も知らないアイテムとかすげぇな。まあ今でもたまに見つかるけどさ』

「そうだなぁ……ま、いっか。一回補助センターに持ってって、持ち帰れるようなら持ち帰るか。使い道は追々ってことで」

 補助センター、というのは探索者補助センターのことで、一般人からの物資の買い取りや一般探索者へのアドバイスや情報紹介などの一定の補助を担っている組織だ。

「それで良いんですか?」

 その適当な決定に対し、不思議そうに訊く天音。

「だって、ここで悩んでてもしょうがないしな」
「まあ、確かにそれはそうですね……」
「じゃあ探索再開だね!」

 明里は楽しそうに笑った。

「んだな、先進むか。いくぞー!」
「おー!」

 連理の合図に明里が元気よく返事をした。
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