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下.別れを告げる
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車窓を覗くと、真っ暗になった景色に、遠い山に積もった雪が白く淡く光っていた。電車のドアが閉まった。
「次は、倉井崎。倉井崎。」
気怠そうな声が車内に響いた。
「君は、なんで倉井崎に行くの?」
彼女は楽しそうに見えた。これから、人を殺して、挙句に自らを殺す人の笑顔にしては眩しすぎた。
「祖父母の家があって、しばらくの間そこに帰省するんです。」
「君、今は二月だよ。まだ冬休み気分?」
怪訝な顔で伺う彼女に、僕は微笑んで言った。
「そういう学校なんです。」
倉井崎に着くまで、やけに長く感じられた。彼女は、それから一言も発さなかったし、僕も何故か話す気分になれなかったのだ。車窓から見える月が、海を照らしていた。目の前に海が広がると、倉井崎が近づくのを感じる。もう少しこの時間が続いても、僕はよかった。
倉井崎についても、僕たちは少しだけ座っていた。亡くなってしまうのだから、もう少しここにいたいと、今更思った。
「降りよっか。」
駅を出ると、潮の匂いが鼻に刺さった。浜辺に咲く小さな花がえらく季節外れで、彼女と共有して、笑い合った。でも、何か足りなかった。
「あっ、忘れてた。名前教えてよ。」
あぁこれを、僕も忘れていたんだ。
「酒井ゆうたです。あなたは?」
彼女は、にかっと笑って言った。
「古湊華。」
吐いた息が白くなって、空に昇る。
「じゃあね。」
「はい、また会えたら。」
最後に冗談を吐く余裕すら見せて、僕は、僕たちは、あっさりと別れた。僕は、駅に捨てられていたサドルのない自転車に乗って、山を登って行った。
今思うと、小さな頃からなにも考えずに、適当に生きていたんだ。大切だった友達との約束を無視して、家でごろごろしてしまった日を思い出す。人生でただ1人だけできた彼女は、彼女を作りたいという短絡的な考えでできた。僕から彼女に対する愛情はあまりなかったんだ。友達を作ったり、恋愛をしたり、そんな当たり前のことを、日々を僕はおざなりにしていた気がする。話してみれば古湊さんのように楽しい人もいるんだ。無意識に自他の境界線を作っている自分が嫌いだ。でも、そんな自分と接してくれていた数少ない友達は、嫌いじゃなかった。きっと、何かが違えば、僕も、彼女のような。
どれだけ登ったか。白いガードレールが大きくカーブを描いているのを見て、僕はここに決めた。自転車を捨てて、ガードレールを跨いだ。踏み出した右足に、震えはなかった。電車の中の自分は、嘘だらけだった。なんとなく、彼女の中で僕が生きていて欲しかったから、嘘をついた。でも、彼女は死んでしまう。それを忘れていた。自殺はいざとなったら踏み切れない。これが嘘かどうかは、自分が確かめるんだ。僕は下を見た。暗くてよく見えない。波の音さえ聞こえない。
「くそったれ!」
そう言って、飛び出した。
「次は、倉井崎。倉井崎。」
気怠そうな声が車内に響いた。
「君は、なんで倉井崎に行くの?」
彼女は楽しそうに見えた。これから、人を殺して、挙句に自らを殺す人の笑顔にしては眩しすぎた。
「祖父母の家があって、しばらくの間そこに帰省するんです。」
「君、今は二月だよ。まだ冬休み気分?」
怪訝な顔で伺う彼女に、僕は微笑んで言った。
「そういう学校なんです。」
倉井崎に着くまで、やけに長く感じられた。彼女は、それから一言も発さなかったし、僕も何故か話す気分になれなかったのだ。車窓から見える月が、海を照らしていた。目の前に海が広がると、倉井崎が近づくのを感じる。もう少しこの時間が続いても、僕はよかった。
倉井崎についても、僕たちは少しだけ座っていた。亡くなってしまうのだから、もう少しここにいたいと、今更思った。
「降りよっか。」
駅を出ると、潮の匂いが鼻に刺さった。浜辺に咲く小さな花がえらく季節外れで、彼女と共有して、笑い合った。でも、何か足りなかった。
「あっ、忘れてた。名前教えてよ。」
あぁこれを、僕も忘れていたんだ。
「酒井ゆうたです。あなたは?」
彼女は、にかっと笑って言った。
「古湊華。」
吐いた息が白くなって、空に昇る。
「じゃあね。」
「はい、また会えたら。」
最後に冗談を吐く余裕すら見せて、僕は、僕たちは、あっさりと別れた。僕は、駅に捨てられていたサドルのない自転車に乗って、山を登って行った。
今思うと、小さな頃からなにも考えずに、適当に生きていたんだ。大切だった友達との約束を無視して、家でごろごろしてしまった日を思い出す。人生でただ1人だけできた彼女は、彼女を作りたいという短絡的な考えでできた。僕から彼女に対する愛情はあまりなかったんだ。友達を作ったり、恋愛をしたり、そんな当たり前のことを、日々を僕はおざなりにしていた気がする。話してみれば古湊さんのように楽しい人もいるんだ。無意識に自他の境界線を作っている自分が嫌いだ。でも、そんな自分と接してくれていた数少ない友達は、嫌いじゃなかった。きっと、何かが違えば、僕も、彼女のような。
どれだけ登ったか。白いガードレールが大きくカーブを描いているのを見て、僕はここに決めた。自転車を捨てて、ガードレールを跨いだ。踏み出した右足に、震えはなかった。電車の中の自分は、嘘だらけだった。なんとなく、彼女の中で僕が生きていて欲しかったから、嘘をついた。でも、彼女は死んでしまう。それを忘れていた。自殺はいざとなったら踏み切れない。これが嘘かどうかは、自分が確かめるんだ。僕は下を見た。暗くてよく見えない。波の音さえ聞こえない。
「くそったれ!」
そう言って、飛び出した。
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