最低悪女の前世返り

天色茜

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第一章

第十二話 子供たち

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 逃亡するにあたって、子供たちといくつか約束をした。子供たちは全員で十数人いて、みんな年は青い髪の少女や私と同じぐらいの子供が数人いて、他の子はみんな私たちより少し小さいぐらいだ。みんな可愛いもので、私が話しているときにうんうんと頷きながら聞いていた。

 1、自分たちの命が最優先

 2、身を守るために魔法の使用を制限はしないが、使うべき場面を考えること

 3、一人でも脱出できたらすぐに大人にこの状況を知らせること


 魔法が使えるとはいえ幼い子供たちとともに脱出するのは不安があった。誰か怪我をしたり、命を落としたりする危険性があったからだ。だから子供たちの力を借りつつ、私一人だけが逃げて近くの兵士を呼びに行こうかと考えていたが、その間に先ほど言っていた「出荷」や子供たちへ害をなされる恐れを考えると、こうしてみんなで逃げた方が良いと判断したのだ。

 しかし相手は大人で私たちは子供。さらにどんな武器を持っているのかはわからない。

 持ちたくなんてないが、私が闇魔法を持っていれば、こんなことは一瞬で片付くのに。

 …不安は残るがやはりこのままここにいても変わらない。

 そんなことを考えながら、私たちは道もわからない建物の中を走っていた。子供たちはほとんどまだ魔法を使えないが、岩や雪、花などの魔法を持つ私と変わらない年の子たちがいる。だから選択を間違えなければ大人にも負けることはないだろうと感じている。逆にその力を使えば捕まることもないように感じるが、子供は子供なので、騙されたり隙をつかれたりしてしまったのだろうと勝手に結論付けた。後はあの男たちが魔法を使えないことを願うばかりだが…。

「て、テメェら、大きな音がしたと思ったら…!」

 男二人と鉢合わせになってしまった。男たちの手にはナイフが握られている。

「おい、怪我したくなかったらこっちに―」

 ドゴッ、ドガッ

 男がしゃべりきる前に、彼らは頭上から落ちてきた岩によって気絶した。この魔法を出したのは先ほど牢屋の扉を破壊した男の子だ。迷いなく的確な魔法を打てるとは、将来有望である。しかし、今の魔法が牢屋の時の大岩より小さいとはいえ、死んでいないかと気になってしまう。でも、相手を心配している余裕などないので、私たちは先を急ぐ。

 道がいくつか分かれていて、私たちはその場の適当な判断で自分たちが信じたほうを進んだ。この建物がこんなに広いとは少し予想外だった。小屋程度のものであればいいと願っていたが、それは叶わなかったらしい。

「よぉ、悪い子ちゃんたち。お散歩は楽しかったか?」

 十字路のような分かれ道に差し掛かったとき、また目の前から一人男が現れた。しかし、一人ぐらいならどうとでもなる…と思った矢先、左右の道からも男たちが一人ずつ現れた。

 これには少し焦ってしまう。どうしよう。最悪誰か一人だけでも逃げられればいいが―。

「お前ら、かかれ‼」

 目の前の男がそう叫ぶなり、横の男たちが飛び掛かってくる。

「…!逃げて、あなたたち――」

 そう声をかけ終わる前に、左右から「グァッ‼」「いでェッ!」と叫ぶ男の声が聞こえた。見てみると、右の男は驚異的な量の雪に押し潰され、左の男はとげとげしい何かに道ごと行く手を阻まれていた。よく見るとその何かは茨であり、おそらく花の魔法を持つ少女が薔薇のような植物を出したのだろう。

 子供たちの咄嗟の判断力に驚きを隠せないでいると、先頭を走っていた私へ、目の前の顔を真っ赤にした男が手を伸ばしてきた。

「きゃあぁっ!」

「おいガキ共‼こいつを殺されたくなきゃ大人しく―!へぶっ‼」

 私を掴んでいた手は何かの衝撃で離され、私は床に倒れ込んだ。見てみると私を捕えていた男はずぶ濡れになり、仰向けに倒れている。どうやら気を失ったようだ。

「大丈夫?」

 青い髪の少女が私に手を差し出す。

「え、ええ。今の魔法…あなたが?」

「…まぁ、そんなとこ」

 手を借りながら立ち上がった私は彼女に「ありがとう」とお礼を言う。ただ少女は表情を変えず、「別に」とクールに吐き捨てただけだった。

 今のは水魔法だろう。それも相当な威力の。

 この子はまったく脱出する気がないように見えたから、てっきり魔法も何も使えないだろうと思ったのに……まさか六つの魔法の一つである水魔法を使えるなんて。

 その様子を見て、自分が恥ずかしくなってくる。

「…ごめんなさい、みんな頑張ってるのに私だけ何もできなくて、迷惑もかけてしまって……」

 少し弱気になってうつむく。すると彼女がため息をついて言った。

「…あなたがいなければ脱出計画も何もなかった。これがどういう結果になるのかは知らないけど、弱音を吐くにはまだ早い」

 ……表情は変わらないし、声色は淡々としているし、言っていることも優しいとはいえないけど、私を励まそうとしているのがすごく伝わってきて、少し泣きたい気持ちになった。

 少女はそんな私を見て、初めて少しだけ笑った。



「さぁ、進もう。リーダー」
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