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まさかの人生終了宣言
望むのは幸せな異世界転生
しおりを挟む真っ白で何も無い世界。
いや、これでは語弊がある。正確には「無」の世界ではなく、空間的には真っ白だがキラキラした何かが浮遊していて真ん中に木製の椅子が1つ。
どことなく既視感。祖父の家にありそうな古い椅子だ座り心地は冷たい、硬い、絶妙に足が着地しないの不快感三拍子。
もしかして夢?夢にしては面白みがないし妙に現実味を帯びているというか感覚がしっかりしている気がする。
ここに来るまでの出来事を整理することにしよう。いつも通り下校して帰宅、それから…それから?
一切の記憶がない、何故だ。
とにかくこの異空間を脱しなければならない。夢ならば醒めてと願うばかりだが、どうも夢とは信じ難い。それならこの現象は霊的な何かか?
グルグルと思考を巡らせていると空から何か降ってきた。というか落ちてきた。
ある程度重量感のある落下音が背後から聞こえて振り向いてみるとそこにはダラしない格好で倒れている女の子がいた。
「あの…」
「いっ、たたたた…また失敗しちゃった」
女の子はお尻を擦りながら立ち上がり、美少女でなければ到底許されない「てへっ」というポーズをとった。
「あの~」
「あっ、ごめんなさい!私は女神のメリーと言います。以後よろしくです」
「円です。よろしく…え、女神?」
女神ってあの女神?漫画とかアニメに出てくるあれ?主人公に色んな意味で色々してくれるあれか?女神に関しての知識は豊富な方だ。主にエロゲーでの知識が大半を占めているが。
「はい!女神です、正確には異世界転生課、審問係の女神です」
何その市役所みたいな感じ…なんか萎えるんだが。でも流石に女神を自称するだけあってかなりの美少女ではないか。
俺だって男だ。女性経験は無いが女の子は大好きだ、美少女なら尚更好きだ。
しかも見た目がどストライク。銀髪青眼、ウェーブの掛かった髪が腰まで伸びている。ザ神聖な生き物といった第一印象。
「何ジロジロ見てるんですか?気持ち悪い、もしや童貞ですか?」
「…違いますけど」
瞬時の大嘘、我ながら驚きの速度で口が動いてしまった。
「えーと、円さんの資料には出生から現在まで女性経験一切無し、手を繋いだこともない真性童貞とあるんですが…データのミスでしょうか…」
辞めてくれ…そんな可愛い顔で真性童貞とか真顔で言わないで欲しい。俺が恥ずかしすぎる。
「データが違うとなると正しいデータが取れるまでここに居てもらう規則なので…かなり待つことになるのですが…」
「すみません、童貞です」
帰りたい一心。恥知らずというかなんと言うか、待たされるくらいなら恥をかいた方がマシだという即座の判断。正しいかは分からないがこんな空間に閉じ込められるよりは良い。
データの一致を確認すると女神メリーは安心したらしく微笑んでその両手を上に掲げた。
途端に周囲に浮遊していたキラキラが彼女を中心に集まり始めひとつの光の柱を作り上げた。
「それでは、円さん。アナタは地球人転生選考において見事に当選されました。これから1度死んでもらい、異世界に転生することとなります。何か言い残すことはありますか?」
「待て待て待て待て!待って!」
言い残すこと?大アリだ。そもそも地球人転生選考ってなんだ、異世界転生ってなんだ。
そんなものに立候補した覚えは無いし、1度死んでもらうってどういう事だ。
聞きたいことが多すぎて頭がパンクしそうだ。
俺の17年の人生、何をどう踏み間違えればいきなりこんな展開になる。
異世界転生モノのラノベでももう少し流れってものがあるだろう。
女神は両腕を掲げた何とも間抜けな格好のまま驚いた顔で俺を見つめている。
いやいや、驚くのこっちの仕事だし。その説明で今までの転生者は納得していたのか?甚だ疑問である。物分りが良すぎるのか、諦めが早かったのか。
「何か心残りでも?」
「大アリだよ!まだ17年しか生きてないんだよ?彼女だって出来たことがない!」
「それが何か?」
「何かって…なんだ…その、1度も…キスすらせずに死ぬのはちょっと…気が引けるというかなんというか…」
「子孫を残せずに死ぬことを後悔してるんですか?大丈夫です、転生後の世界では叶いますよ?」
「それは、セッ…いや、なんでもない…」
「ちなみに転生後は培養器で人体を生成できるので円さんは何もせずとも大丈夫ですよ」
「ぜんっぜん大丈夫じゃない!」
大丈夫ですよ。じゃない!
尚更死んでたまるか、転生なんぞしてたまるか。
人生最高の快感を体験せずに死ぬなんて言語道断、しかも転生後はセッ…いや、機械で人体を生成する?そっちの世界の倫理観どうなってるのか恐怖すら感じる。
その後も淡々と異世界転生後の子孫繁栄方法について語る女神を制止し、俺はひとつ大きく息を吸った。
「異世界転生はしません!!」
「無理です」
渾身の大声を出したのにも関わらず冷静な一言。
女神は両腕を下ろし、呆れた表情で俺の眼前に1枚の紙を差し出した。
「これ、異世界転生規則です」
「はあ…」
「第169条、転生を任命された者は如何なる理由においてもその運命に逆らうことはできない」
「誰が決めたこんな規則…」
「第170条、転生を拒否した場合は輪廻から除外され死ぬこととなる。以後はどの世界においても生まれ直しはできない」
「転生拒否者に厳しすぎない?」
「神が決めた規則ですから、仕方ないですよ」
神様、人権って知ってますか?
転生者にも権利を下さい。神様だから人権関係なかったりするのか。神だもんな。
などと思考を巡らせていた時、1つの項目に目が止まり女神の手から異世界転生規則書を奪い取って女神の眼前に差し出した。
「第203条、転生者が何らかの理由で転生を拒否し、担当女神と協議した結果、転生時期の延長が必要と判断した場合は30日間の猶予を付与することができる!」
「これが何か?」
「俺には明確な拒否の理由がある!」
「なんでしょうか?」
「まず、両親に挨拶が出来ていない!そして友人たちともまだやりたい事が残っている、最後に1度も女の子とデートしていない!」
「そこまで重要な事項でしょうか?」
「ちょー大事、俺は真摯な男なんだよ。だから両親にはここまで育ててくれた感謝を伝えたい、友人にもだ。女の子とのデートはついでくらいでいい。家族や友人を大切にするのは神様だって許すだろ?」
本音はデートが1番大事。あわよくば初体験したい。なんて言ったらきっと速攻死ぬ、そして知らない世界に放り出されてしまう。ならば敢えてここは家族や友人想いのいい人間として立ち振る舞うのが最善だろう。
神様は善人には優く、願いを叶えてくれると認識している。1つの我儘くらい許してくれるはずだ。
「確かに、神は感謝の心を大切にされますから。分かりました、女神メリーの名において円さんの転生時期延長を許可します。30日間、後悔のないように現世を生きてください」
この女神、ちょろいな。
「ありがとう、女神様」
「いいえ」と女神スマイルをしながらチョロい女神様は両の指を交互に絡ませ呪文の様なものを唱え始めた。
すると、先程まで女神の周りに浮遊していたキラキラは俺の身体に纏わり視線を下げると足元から透けていく。
「最後に聞いていい?」
「なんでしょう?」
「転生後の異世界ってさ、どんな所?」
「魔獣に乗っ取られた世界です、各所から集められた転生者たちは勇者となって死ぬまで魔獣と戦うことになります。もしくは魔王を倒せば助かるのですが、今までの転生者たちはほとんど残っていません。みなさん死にました」
もう首元まで消えかけながら俺は最後に咆哮した。
「ぜってぇ転生したくないんだけど!!!!」
最悪の後味を残しながら俺の転生までの30日が幕を開けた。
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