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1章『いじめてあげる』

11:新手の嫌がらせ?

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****♡Side・塩田

────苦情係にて

 塩田は自分のデスクにて片肘をつき、その上に顎を乗せPCのモニターを眺めていた。コツコツとデスクを爪先で叩きながら。
 イライラの原因は皇にある。いつもなら煩いくらいに構ってくるはずの彼が、まだ苦情係に顔を出さない。
「し、塩田」
「ん?」
 呼ばれて顔をあげると、同僚の電車でんま紀夫のりおが塩田に向けマグカップを差し出していた。
「ありが……なんだこれ」
「え、バナナミルク」
 コーヒーだと思って受け取ったらドロッとした厭らしい……もとい、甘そうな液体が並々と入っている。
「そっか、さんきゅ」
 塩田はマグカップを受け取るとデスクの上に置き、ため息をついた。

──喉が渇きそうだな。
 あ、来た。

 苦情係に足音とふわりと香水の香りがする。誰が来たのか、それだけで塩田には分っていた。
「やあ、愛しのハニーと愉快な愚民ども」
 手を拡げ優雅なポーズで挨拶する皇に、塩田はチラリと視線を向ける。
 板井がそんな皇を埴輪顔でポカンと見上げていた。
「塩田、何故俺様を無視するんだ」
「阿保だから?」
「恋人にアホって……」
 途端にしゅんとする彼に、塩田は手招きをする。
「なんでもいいから、早くこっち来い」
「俺様は上司だぞ」
「だから、なんだ」
「少しは敬え」
「ハイハイ、ちょっとだけな」
 塩田はめんどくさそうに親指と人差し指の爪をくっけた。
 すると、
「すくなッ!」
 彼がムンクの叫びのようなポーズをする。
 そんな二人の様子を見て、課長が肩を揺らし笑っていた。

「え。ここに座れと? 会社だぞ?」
 皇は塩田に膝の上に座れと指示され、困惑しているようだ。
「カウンターにケツ乗っけるやつが、ガタガタ抜かすな」
「いや、でも……」
 何処でも何時でも変わらない塩田に対し、皇は会社とプライベートは別なようで、あーだのうーだの言って困り顔で塩田の膝を見つめている。
 しかし、塩田は容赦しなかった。早く座れと言って無理やり座らせると、マグカップにストローを差し彼に押し付ける。
「飲め」
「え? 強引じゃない?」
「良いから、早く」
 結果、皇は塩田の膝にちょこんと腰かけ、バナナミルクをちゅうちゅう吸っていた。
 それを満足げに見つめる、塩田。
「なんなのこれ。新手の嫌がらせ?」
「皇には、厭らしいミルクがお似合いだ」
「は?」
 むせる彼の頬を指先で撫でる。

──傍に居ると落ち着く。
 こうやって俺の傍にだけ居ればいいんだよ。

「これ、何で出来てるわけ⁈」
「タンパク質」
 塩田が真面目な顔をして答えると、
「違うし!」
と横から電車がツッコミを入れたのだった。
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