R18【同性恋愛】リーマン物語if1『いじめてあげる』

crazy’s7@体調不良不定期更新中

文字の大きさ
50 / 63
2章『二人で探る幸せの場所』

14:納得いかなくても

しおりを挟む
****♡Side・塩田

「唯野さん、一体どういうことなんですか?」
 塩田が休憩所へ向かおうとすると廊下から聞こえてきたのは、皇の声だった。
 人の会話を盗み聞きする趣味はないが、最愛の人の切羽詰まった声にどうにも気になってしまう。以前の自分ならスルーどころか、気にもとめなかったはずだ。
 人とは変わるものだなと、やれやれと肩を竦めると声のするほうへ、一歩踏み出す。

「どうって……」
 戸惑ったような課長の声。
 塩田たちの上司、唯野は気が弱いというわけではない。
 いつもニコニコしており、威張ったところがなく面倒見の良い兄のような存在。仕事が出来て人望が厚く頼りになる上司であった。そして人当たりが良く、真っすぐな人だ。
  そんな彼が困ったように応対しているのが気になる。
「社長から聞きました。唯野さんが社長からパワハラを受けてるのは、俺のせいだって」
 いつも尊大な態度の副社長である皇。営業部時代の先輩である唯野と二人きりの時はこんな感じなのかと、皇の違う一面《いちめん》を見たような気がした。
「社長がそう言ったのか?」

 塩田は近くまで行くと、壁に身を隠しため息をつく。
 何をしているのだろうか、自分は。
 
「はい」
「うーん」
 はっきりと返答する皇に対し、煮え切らない態度の唯野。
 客観的に見ても、唯野が何を考えているのか分かり辛い状況だ。
「社長に抗議したら、条件を出されました。そしてそれが呑めないなら、あなたに守られていろと」
 皇の押し殺した声。それはどんな感情を含んでのことなのだろうか。表情が分からない以上、想像はつき辛い。
「じゃあ、それでいいじゃない」
 唯野は少し間を空けて、そう言った。
「え……?」
「社長がそう言ったんでしょ? だったら俺に守られていればいい」
「唯野さん?!」
 足音が聴こえ、唯野が近づいてくる。どこにも逃げようがない塩田はその場でじっとしていた。
 すると横を通る時に唯野が気づき、一瞬とても驚いた顔をして立ち止まる。だが、フッと笑うと人差し指を口元にあて、皇のほうを振り返った。

「俺が好きでそうしているんです。副社長が気にすることはありませんよ」
と苦情係でいつも目にするような口調や態度で彼に告げる。
「でも!」
 食い下がる皇に、
「あなたは副社長なんですよ?」
「俺はただの人間だ。こんなの耐えられな……」
 唯野に縋ろうとした彼が歩を進めたため、塩田に気づいたようだ。

「塩田……いつから、そこに?」
「今」
 堂々と嘘を述べる塩田に、唯野は後は任せたというようにポンっと肩を叩いて歩き出す。
「何かあったのか?」
 視界の端に唯野の姿を捉えながら、皇に手を伸ばす塩田。
 ポケットからハンカチを取り出すと、その目元へ。
「社長から、唯野さんが何故パワハラを受けているのか聞いた」
「そっか」
 まさか一人で乗り込んだのではあるまいな、と言う言葉を飲み込んで。

「そっかって! そんな……」
 ショックを受ける皇の腕を掴むと自分の方へ引き寄せた。
 こんな時、板井のように背が高かったなら絵になるのだろうなとぼんやり思いながら、自分より背の高い彼を無言で抱きしめる。
「課長は我慢強い人だと思うよ。でも、意味なく我慢する人じゃない」
 他人に対し、滅多に評価するようなことをしない塩田。
 唯野が聞いていたなら感涙しそうな言葉を述べ、皇の背中を撫でる。

 自分は何も持っていないなと改めて思う。
 社長のような権力も、唯野課長のような包容力も、板井のような力強さも、電車でんまのような明るさも。

 それでも皇が選んだのは紛れもなく自分で。
 こんな風に苦しむ皇を慰めることができるのは自分だけなのだ。
「課長に任せようよ。あの人は頼りになる人だ」
 悔しいけどなと付け加えると、皇はふっと笑って塩田の背中に腕を回したのだった。

 塩田は祈る。
 彼がいつも幸せであることを。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

欠けるほど、光る

七賀ごふん
BL
【俺が知らない四年間は、どれほど長かったんだろう。】 一途な年下×雨が怖い青年

ヤンキーDKの献身

ナムラケイ
BL
スパダリ高校生×こじらせ公務員のBLです。 ケンカ上等、金髪ヤンキー高校生の三沢空乃は、築51年のオンボロアパートで一人暮らしを始めることに。隣人の近間行人は、お堅い公務員かと思いきや、夜な夜な違う男と寝ているビッチ系ネコで…。 性描写があるものには、タイトルに★をつけています。 行人の兄が主人公の「戦闘機乗りの劣情」(完結済み)も掲載しています。

有能課長のあり得ない秘密

みなみ ゆうき
BL
地方の支社から本社の有能課長のプロジェクトチームに配属された男は、ある日ミーティングルームで課長のとんでもない姿を目撃してしまう。 しかもそれを見てしまったことが課長にバレて、何故か男のほうが弱味を握られたかのようにいいなりになるはめに……。

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

宵にまぎれて兎は回る

宇土為名
BL
高校3年の春、同級生の名取に告白した冬だったが名取にはあっさりと冗談だったことにされてしまう。それを否定することもなく卒業し手以来、冬は親友だった名取とは距離を置こうと一度も連絡を取らなかった。そして8年後、勤めている会社の取引先で転勤してきた名取と8年ぶりに再会を果たす。再会してすぐ名取は自身の結婚式に出席してくれと冬に頼んできた。はじめは断るつもりだった冬だが、名取の願いには弱く結局引き受けてしまう。そして式当日、幸せに溢れた雰囲気に疲れてしまった冬は式場の中庭で避難するように休憩した。いまだに思いを断ち切れていない自分の情けなさを反省していると、そこで別の式に出席している男と出会い…

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...