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1話【振り回されるのは、いつものこと】

4 パパはサ〇ヤ人?!

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****♡Side・電車でんま

 正直この展開は想像していなかった。
 目の前の光景を見て唖然とする電車でんま

──殴られるって、俺じゃなくて塩田が⁈

 時は少し遡る。
「ここだ」
と言われて見上げた建物は、まるでアラブの宮殿だった。
「塩田の家って石油王か何か?」
と、電車が問うと、
「一般人だ」
と返ってくる。
 一般人は宮殿など、そうそう建てるものじゃない。
「俺は姫路城のような日本の城に住みたかったのに、親父が間違えたんだ」
 それもどうかと思う。
「ただいま、母さん」
と、会社では挨拶すらしない彼が、家に向かって声をかける。
「あら、以往ちゃんおかえり。そちらの方は、お友達?」
と、出てきた女性は、塩田の母だけあって美人だ。

「いや、婚約者」
 しかしそう塩田が返した途端、般若のような顔をした。思わず身構える、電車。
「お父さん! お父さん!」
「相変わらず、騒がしいな」
と塩田。
「誰のせいだと思っているの!」
と、母。
 どうした、と言って父も顔を出した。かなりのイケメンである。美男美女から産まれたから、塩田は美人なのかと感心していると、
「親父、俺は紀夫と結婚する」
と告げた。
「なんだとおおおおお!」
 イケメンが般若のような顔をし、サイ〇人さながらのスピードで、塩田に拳を七発繰り出す。塩田はそれを全て避けた。ぎょっとする、電車。

「あ、あの。俺、電車でんま紀夫のりおと申します」
と、空気を換えようと手土産を母へ。
「あら、ありがとう。ネコの人形焼きだわ」
 母はネコ好きだった為、歓迎される。
 中に入ると、金のダイニングテーブルに案内された。赤色のシルクの布が斜めにひいてあり、ここは何処の国ですか? と思わず言いそうになる。
「あれほど、お付き合いは止めなさいと言ったのに」
と、母。

──え、付き合い反対されてたの? 
 塩田、一言もそんなこと言ってなかったのに。

「就職の時も、マンション買う時も、反対したのに」

──ん? 就職?

「煩いな、あれは俺の意志じゃない。社長がうちで働けってシツコっかったからだ」
と、塩田。
「課長さんに迷惑かけてない? お母さんは、心配で、心配で」
「会社なら、辞めた」
「はああああ?!」
 その途端、ティッシュ箱が母の手から飛んでくる。塩田は避けた。
「んもう! あれほど迷惑はかけちゃダメって言ったのに。どうして以往ちゃんは、ママの言う事が聞けないの?」
「あれは課長が悪いんだ!」
と、塩田。
 塩田の母はスマホを持つと立ち上がる。
 どうやら課長にかけるらしい。塩田はふんぞり返っていた。

「で、結婚とは本気なのか?」
と、塩田の父。電車が、
「俺は本気です!」
と、告げると、
「君、正気か?」
と、問われる。
「そのつもりですが……」
「こんな、何もできないバカ息子と……苦労しかしない。お奨めしないぞ」
と、言われた。
 どうやら塩田の人となりに問題があるため、結婚を反対されているようだ。電車は一先ず、ホッとした。そしでこの夫婦はよっぽど苦労したんだな、と察する。
「俺は、紀夫が好きだ。結婚する」
と、塩田。
 何故か父が驚いた顔をした。

「お前が何かを好きになること自体、珍しいな」
 塩田は無関心な男だ。何に対しても。執着することもない。そんな塩田が電車に対しては違うという事が父の心を動かしたのだろう。
「紀夫くんと言ったかな。このバカ息子を頼みます。嫌になったら返却して良いので」
と、父。
「返却だなんて……俺は塩田のことが大好きなので」
と電車が微笑むと、
「あなたは仏様か!」
と驚かれる。

───いや、生きてるから!
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