【異性恋愛】思い出の中の、あなた。その想い

crazy’s7@体調不良不定期更新中

文字の大きさ
25 / 28
最終章:佳奈と哉太編

4 哉太の目に映るもの

しおりを挟む
 追っても無駄だと言われたが、佳奈を諦めることはできなかった。
 自分はまだ、伝えたいことがある。それを伝えることなく終わることなんて出来ない。またチャンスを失い、一生後悔するなんて御免だ。

 足に自信はないが、彼女が友人を置き去りに電車に乗り込むとは考えつらかった。走るには適さない砂浜を急ぎながら、彼女の姿を探しあたりを見渡す。あの時もこんな風に必死になれたなら、何か違ったかもしれない。
 必死になられるのが怖いと言われても、自分にあるのはこの真剣さだけ。

 時間は戻ることがない。
 きっと彼女の気持ちも戻ることはないだろう。
 叶わなくてもいい、ただあの時の気持ちを伝えたいだけだ。
 例え、自己満足でも。

 そうすれば、何もかもが手遅れだとしても、ここから先に進める気がした。
 だから、もう一度だけチャンスを。

「佳奈!」
 やっと見つけだした彼女は、見知らぬ男性と一緒にいた。
 また絡まれて困っているのだろうと思ったが、相手はスーツ姿で何処となく佳奈と同じ空気を持っているように感じる。
 先に哉太に気づいたのは、その男性のほうであった。黒に限りなく近い灰色の上下のスーツ。ネクタイが柄物でなければ、葬式の帰りではないかと思えてしまう色合い。黒のストレートの髪に、不機嫌そうな表情。
 端正な顔立ちが一層、存在感を醸し出している。
 どう考えても、観光客で賑わう浜辺には不釣り合いであった。

 もしかしたら、刑事かも知れないとも思う。
 佳奈はストーカー被害を受けていたのだから。

「あなた、お姉ちゃんの何?」
 佳奈がこちらに気づき、声をあげる前に背後から声がした。
「お姉ちゃん?」
 不思議そうに反芻して振り返ると、茶髪にスラリとした体形をしベージュのチノパンにワインレッドのパーカーを着た若い男性が立っている。
 彼は佳奈が走って来たと思われる方向を、ポケットに両手を入れて眺めていた。
「雛本佳奈は、俺の姉だけど」
と、彼。
 佳奈に兄弟がいたとは初耳である。自分は彼女のことを何も知らなかったのだなと感じた。
 彼が視線をゆっくりと浜辺から哉太に移す。
 佳奈の傍にいる男性も整った顔をしているとは思ったが、彼はその上を行く。そして佳奈に少し似ている。

「君は弟」
「そう。あなたは?」
 優し気なその声は、佳奈の好きなアーティストのボーカルと同じような声質。
「俺は……」
「哉太!」
 それを遮ったのは佳奈だった。
 駆け寄ってくる彼女の後を、スーツの男性がゆっくりと追う。
「心配しないで、あの人は兄だから」
 戸惑う哉太にそう告げる、彼女の弟。
 彼女に兄弟がいたことよりも、何故にこのタイミングでここに居るかの方が哉太にとっては不思議でならなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

嘘をつく唇に優しいキスを

松本ユミ
恋愛
いつだって私は本音を隠して嘘をつくーーー。 桜井麻里奈は優しい同期の新庄湊に恋をした。 だけど、湊には学生時代から付き合っている彼女がいることを知りショックを受ける。 麻里奈はこの恋心が叶わないなら自分の気持ちに嘘をつくからせめて同期として隣で笑い合うことだけは許してほしいと密かに思っていた。 そんなある日、湊が『結婚する』という話を聞いてしまい……。

すれ違ってしまった恋

秋風 爽籟
恋愛
別れてから何年も経って大切だと気が付いた… それでも、いつか戻れると思っていた… でも現実は厳しく、すれ違ってばかり…

白椿の咲く日~遠い日の約束

紫さゆり
恋愛
結婚を控えた真由子は、久しぶりに姉の稚子(わかこ)と会う。真由子の母、雪江は妻を亡くした水上実之(みなかみさねゆき)の後添いとして水上家に嫁いだ。実之には俊之、稚子、靖之の三人の子がいた。 稚子と話をしているうちに、真由子は雪江と庭の白椿の木に、何か関係があることに気がつき…… 大人の恋物語です。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

一途な恋

凛子
恋愛
貴方だけ見つめてる……

初恋の人

凛子
恋愛
幼い頃から大好きだった彼は、マンションの隣人だった。 年の差十八歳。恋愛対象としては見れませんか?

ダイヤの首輪─先生の歪んだ愛に囚われて─

七転び八起き
恋愛
優しい先生は作り物だった。でも私は本当の先生に本気で恋をした。 ◇ ◇ ◇ <完結作品です> 大学生の水島白乃は、卒業した母校を訪れた際に、高校時代の担任・夏雄先生と再会する。 高校時代、白乃は先生に密かな想いを抱いていたが、一度も気持ちを伝えることができなかった。しかし再会した先生は、白乃が覚えていた優しい教師とは違う一面を見せ始める。 「俺はずっと見ていたよ」 先生の言葉に戸惑いながらも、白乃は次第に彼の危険な魅力に引き込まれていく。 支配的で時に優しく、時に冷酷な先生。恐怖と愛情の境界線で揺れ動く白乃。 二人の歪んだ恋愛関係の行き着く先は── 教師と元教え子という立場を超えた、危険で複雑な愛の物語。​​​​​​​​​​​​​​​​

処理中です...