46 / 96
7『それぞれが抱える問題と難関』
8 噛み合わない二人
しおりを挟む
****side■塩田
雨の土曜日。
『挨拶というのは、晴天吉日と相場が決まっているんじゃないのか?』
『塩田。天気というのは、自然が決めるんだ』
相変わらず嚙み合わない会話をしながら、朝食を取った二人。マンションのロビーに向かったものの、外を見て二人ともなんだか浮かない表情をした。
「紀夫。雨の日の事故率は何パーセントだ?」
「大丈夫、生きて帰ろう」
「挨拶は後日でいいんじゃないかな? 近所のデパートに衣類を求めた方が安全だぞ?」
塩田は雨が苦手だった。
「安全運転するからさ」
「塩は濡れると重くなるんだぞ?」
「塩田は塩でできてないから平気だって」
そういう電車も雨は苦手である。しかし今日は実家に帰る約束をしているので、そうも言ってられない。
「バナナも濡れると良くないぞ?」
塩田はどうしても外に出たくないらしい。
「俺はバナナでできてないから大丈夫。タクシー呼ぶから、ここにいてよ」
傘を持っているくせに、濡れたくないと駄々をこねる塩田をなんとか説き伏せようとする電車。塩田は駅まで歩かなくていいならと折れた。
「なんでそんな嫌なの」
駅まではたった十分の距離。大した距離ではないし、途中高架線の下を通るので少しはマシなはずだ。人のことは言えないが、そこまで雨を嫌う理由が分からないと電車は困った顔をしていたが、
「雨でも会社にはちゃんと……まさかタクシーで来てるの?」
と塩田の方を見る。
歩きで五分の距離を呼ばれるのは迷惑ではないのか? と言う表情をしていた。
「いや。管理人が送ってくれる」
「それもどうなの?」
分譲マンションの管理人が、個人的に会社まで送迎してくれるなんて話は、聞いたことがない。セキュリティーのために巡回することなどはあっても。
しかしここの管理人は、塩田がお気に入り。多少の融通は利くのだった。
「あら、塩田さんお出かけ?」
一階のロビーでタクシーを待っていると、噂の管理人さんに声をかけられた。アフロが特徴のおばさんである。
「紀夫の家に荷物を取りに」
と塩田。
「で、タクシー待ってるんです」
と電車が言うと変な顔をされた。
「駅までなら送ってあげるのに」
と彼女。
「でも呼んじゃったし」
と電車が申し訳なさそうな顔をした。
──ちッ、その手があったか。
しかし塩田は、電車とは違い、惜しいことをしたと思っている。電車はその間、管理人とお土産の話をしていた。さりげない気遣いをするのが電車の良いところである。
「タクシー来たぞ、紀夫」
「じゃあ、またね。管理人さん」
こうして彼らは電車の実家に向かうことになったのだった。
「この路線、初めてだな」
塩田は列車に乗り込むと、窓際に立ち外を眺める。彼はさりげなく塩田の横に立つと、塩田の手を握った。
「いつもは一人だから遠く感じるけれど、今日は塩田が一緒だからきっとあっという間だね」
柔らかく笑う電車。塩田は彼の笑顔が好きだった。しかしどうやらその表情が好きなのは塩田だけではないようで。
背後から女性の黄色い声。塩田は思わず繋いだ手に力を込める。
「痛っ」
力を入れ過ぎたのだろうか? 彼が悲痛な声を漏らし塩田を見つめた。
「痛いよ、どうしたの? 塩田、怖い顔して」
しかし塩田はキッと彼の方を見ると、
「浮気したら許さない」
と告げる。
「え? 何、どういうこと?!」
事態を呑み込めない電車は、困惑気味に塩田に問いかけたのだった。
無茶苦茶である。
雨の土曜日。
『挨拶というのは、晴天吉日と相場が決まっているんじゃないのか?』
『塩田。天気というのは、自然が決めるんだ』
相変わらず嚙み合わない会話をしながら、朝食を取った二人。マンションのロビーに向かったものの、外を見て二人ともなんだか浮かない表情をした。
「紀夫。雨の日の事故率は何パーセントだ?」
「大丈夫、生きて帰ろう」
「挨拶は後日でいいんじゃないかな? 近所のデパートに衣類を求めた方が安全だぞ?」
塩田は雨が苦手だった。
「安全運転するからさ」
「塩は濡れると重くなるんだぞ?」
「塩田は塩でできてないから平気だって」
そういう電車も雨は苦手である。しかし今日は実家に帰る約束をしているので、そうも言ってられない。
「バナナも濡れると良くないぞ?」
塩田はどうしても外に出たくないらしい。
「俺はバナナでできてないから大丈夫。タクシー呼ぶから、ここにいてよ」
傘を持っているくせに、濡れたくないと駄々をこねる塩田をなんとか説き伏せようとする電車。塩田は駅まで歩かなくていいならと折れた。
「なんでそんな嫌なの」
駅まではたった十分の距離。大した距離ではないし、途中高架線の下を通るので少しはマシなはずだ。人のことは言えないが、そこまで雨を嫌う理由が分からないと電車は困った顔をしていたが、
「雨でも会社にはちゃんと……まさかタクシーで来てるの?」
と塩田の方を見る。
歩きで五分の距離を呼ばれるのは迷惑ではないのか? と言う表情をしていた。
「いや。管理人が送ってくれる」
「それもどうなの?」
分譲マンションの管理人が、個人的に会社まで送迎してくれるなんて話は、聞いたことがない。セキュリティーのために巡回することなどはあっても。
しかしここの管理人は、塩田がお気に入り。多少の融通は利くのだった。
「あら、塩田さんお出かけ?」
一階のロビーでタクシーを待っていると、噂の管理人さんに声をかけられた。アフロが特徴のおばさんである。
「紀夫の家に荷物を取りに」
と塩田。
「で、タクシー待ってるんです」
と電車が言うと変な顔をされた。
「駅までなら送ってあげるのに」
と彼女。
「でも呼んじゃったし」
と電車が申し訳なさそうな顔をした。
──ちッ、その手があったか。
しかし塩田は、電車とは違い、惜しいことをしたと思っている。電車はその間、管理人とお土産の話をしていた。さりげない気遣いをするのが電車の良いところである。
「タクシー来たぞ、紀夫」
「じゃあ、またね。管理人さん」
こうして彼らは電車の実家に向かうことになったのだった。
「この路線、初めてだな」
塩田は列車に乗り込むと、窓際に立ち外を眺める。彼はさりげなく塩田の横に立つと、塩田の手を握った。
「いつもは一人だから遠く感じるけれど、今日は塩田が一緒だからきっとあっという間だね」
柔らかく笑う電車。塩田は彼の笑顔が好きだった。しかしどうやらその表情が好きなのは塩田だけではないようで。
背後から女性の黄色い声。塩田は思わず繋いだ手に力を込める。
「痛っ」
力を入れ過ぎたのだろうか? 彼が悲痛な声を漏らし塩田を見つめた。
「痛いよ、どうしたの? 塩田、怖い顔して」
しかし塩田はキッと彼の方を見ると、
「浮気したら許さない」
と告げる。
「え? 何、どういうこと?!」
事態を呑み込めない電車は、困惑気味に塩田に問いかけたのだった。
無茶苦茶である。
0
あなたにおすすめの小説
オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?
中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」
そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。
しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は――
ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。
(……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ)
ところが、初めての商談でその評価は一変する。
榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。
(仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな)
ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり――
なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。
そして気づく。
「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」
煙草をくゆらせる仕草。
ネクタイを緩める無防備な姿。
そのたびに、陽翔の理性は削られていく。
「俺、もう待てないんで……」
ついに陽翔は榊を追い詰めるが――
「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」
攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。
じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。
【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】
主任補佐として、ちゃんとせなあかん──
そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。
春のすこし手前、まだ肌寒い季節。
新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。
風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。
何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。
拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。
年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。
これはまだ、恋になる“少し前”の物語。
関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。
(5月14日より連載開始)
【完結】取り柄は顔が良い事だけです
pino
BL
昔から顔だけは良い夏川伊吹は、高級デートクラブでバイトをするフリーター。25歳で美しい顔だけを頼りに様々な女性と仕事でデートを繰り返して何とか生計を立てている伊吹はたまに同性からもデートを申し込まれていた。お小遣い欲しさにいつも年上だけを相手にしていたけど、たまには若い子と触れ合って、ターゲット層を広げようと20歳の大学生とデートをする事に。
そこで出会った男に気に入られ、高額なプレゼントをされていい気になる伊吹だったが、相手は年下だしまだ学生だしと罪悪感を抱く。
そんな中もう一人の20歳の大学生の男からもデートを申し込まれ、更に同業でただの同僚だと思っていた23歳の男からも言い寄られて?
ノンケの伊吹と伊吹を落とそうと奮闘する三人の若者が巻き起こすラブコメディ!
BLです。
性的表現有り。
伊吹視点のお話になります。
題名に※が付いてるお話は他の登場人物の視点になります。
表紙は伊吹です。
僕たち、結婚することになりました
リリーブルー
BL
俺は、なぜか知らないが、会社の後輩(♂)と結婚することになった!
後輩はモテモテな25歳。
俺は37歳。
笑えるBL。ラブコメディ💛
fujossyの結婚テーマコンテスト応募作です。
【完結】かわいい美形の後輩が、俺にだけメロい
日向汐
BL
続編・番外編はTwitter(べったー)に載せていきますので、よかったらぜひ🤲
⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆
過保護なかわいい系美形の後輩。
たまに見せる甘い言動が受けの心を揺する♡
そんなお話。
⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆
【攻め】
雨宮千冬(あめみや・ちふゆ)
大学1年。法学部。
淡いピンク髪、甘い顔立ちの砂糖系イケメン。
甘く切ないラブソングが人気の、歌い手「フユ」として匿名活動中。
【受け】
睦月伊織(むつき・いおり)
大学2年。工学部。
黒髪黒目の平凡大学生。ぶっきらぼうな口調と態度で、ちょっとずぼら。恋愛は初心。
壁乳
リリーブルー
BL
ご来店ありがとうございます。ここは、壁越しに、触れ合える店。
最初は乳首から。指名を繰り返すと、徐々に、エリアが拡大していきます。
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。
じれじれラブコメディー。
4年ぶりに続きを書きました!更新していくのでよろしくお願いします。
(挿絵byリリーブルー)
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる