人形少女は夢を見る

詩のぶ

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人形少女は店に立つ

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漆喰と瓦の家々が続く、古い町並み。
柳が揺れる川辺を手漕ぎの小さな舟が上っていき、天秤棒を担いだ振売が魚や豆腐を売るために声を張り上げている。

懐かしい、なんて、おかしな話だ。

自分は今、ここで、この町の一部として生きているはずなのに。


「いらっしゃーい!ご休憩にお茶と甘いものはいかがですかー?」


鷹華はこの町で、隼桐と二人で小さな茶屋を営んでいる。
二階建ての木造りの家の一階が茶屋、二階が二人の住まいだ。

海老茶の暖簾がかかったこの茶屋も町並みに自然と溶け込む古めかしい佇まいで、小ぢんまりとしているけれど、客の入りは意外と多い。

繁盛しているのはありがたいのだが、常連になって足を運んでくれている客のお目当ては、聞けば店の風情でも茶の美味さでもなく、接客を担当している鷹華が連日のようにしでかす粗相であるというから、鷹華としてはどうも手放しでは喜べない。

例えば、客ではなく使い古した畳に茶を飲ませてしまったり。
例えば、三色団子が華麗に空を飛んだり。
例えば、放った打ち水を走ってきた子どもに命中させて泣かせてしまったり。

そんなことを次々思い出しているうちに、今日もまた。

「―――あああああっ!お皿があぁぁっ!」

裾を引かれた気がして、振り向こうとして、畳で足が滑った結果。

手からお盆が、
お盆から皿が、
皿から水菓子が飛んでいく。

最終的にそれは注文した客とは別の客の皿の上にぷるんと不時着して、まるで「最初からここにいました」とでも言うように、涼しげな顔で匙を待っている。

店内は一瞬の静けさの後、

「おーーーーー!鷹華ちゃんっ、今日はまた一段と飛ばしたなァ!」
「見事な着地!さすが隼桐の水まんじゅう、ようく躾けられてんだナ!」
「よう、そこの幸運な兄ちゃん、その水菓子食っていいぞ!今日も面白いモン見られて俺は満足だ!」

と大騒ぎ。
見ていなかった人までつられて笑いだしてしまう空気である。

「鷹華ちゃん、大丈夫!?」

厨房から隼桐が駆けつけて、畳に突っ伏した鷹華を抱き起こし顔を覗き込む。

「ごめん、また失敗しちゃった……。」

鷹華がおずおず謝ると、隼桐は、そんなもの、と微笑んで鷹華の手を取る。

「気にしないで。お菓子なら、また作ればいいのよ。」
「そうだけどさぁ…。」
「お菓子もお客もどうでもいいけれど、鷹華ちゃんが怪我しなくてよかったわ。」

その発言は、経営者としてはどうなんだろう。

「鷹華ちゃんが痛かったり、辛かったり、嫌だったりするのが、私は一番恐ろしいんだから。」

聞いていて恥ずかしくなるほど真っ直ぐな言葉と視線を投げられて、体の芯がかあっと熱くなる。

けれど隼桐の手も微笑みも、生きているとはとても思えない冷たさで、鷹華の体を一瞬駆け巡った火照りはすぐにどこかへ消えてしまう。

その周りで客達はまだ鷹華の先程の曲芸をはやし立てている。

「よっ!それでこそ鷹華ちゃん!そこらのつまらんとは訳が違うぜ!」
「頑張れヤ、!」

そのヤジに、一瞬、隼桐の目が悲しそうに歪んだ気がした。

「おっ!そこらのつまらんガラクタ、ってのは手前ェのことか?」
「おう、何だと?何か言ったかそこの急須アタマ!」
「何でェやんのかこのぼんぼり腹が!」

さっきまでとは別の方向に色めき立ちだした店内に、もーーーみんな一言多いんだから、と溜息をついて、隼桐は厨房へ戻っていく。

「厨房は私がやるから、接客は鷹華の担当ね」というのが隼桐との約束なので、鷹華は仕方なく、騒ぎ放題の客達をどうにか落ち着かせるべく、ぐるりと店内を見渡す。

畳の上では、掛け合い通り「急須の形をした頭」の男と、「ぼんぼりみたいな腹」の男が睨み合っている。

ぼんぼり腹の男がお腹をゆさゆさ揺らせば走馬灯の影絵が店内を駆け回り、急須アタマの男が逆上すれば茶の良い香りがして、店内はやんややんやの大合唱。

それは、もうこの町で何度も繰り返した「日常」だ。

店の入り口側から「お団子ひとつ!」と声をあげている、一つ目の唐傘親子も。
「おう喧嘩はよしとけ」と割って入って武器代わりに振り回されている欠けた柄杓も。
隅の方で「ところでこれは隣の国で聞いた話なんだがな…」とぶつぶつ呟いている色褪せた吹き流しも。
店の外に出れば、舟に乗った櫂が交代で水を掻いていて、商売中の降売はまな板の体で器用に歩いていることも。


そう、ここは、長い間大切にされた道具が最期に行き着く場所――付喪神達の町。

鷹華はこの町でたった一人の「人間」として、暮らしていた。
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