上 下
35 / 65

第35話

しおりを挟む
「協力?してるだろ?だから一緒にここまで来たんじゃないか」
「そうじゃないの。ここまで私達は個人個人で攻撃してきたでしょ?」
「…成る程。3人一緒に攻撃するって事だな?」
「そんなところね」

 キーサの言葉に納得する。確かに俺達は協力してここまで来た筈なのに、闘いになると1対1の状況を作ってしまっていた。せっかく一緒に来たんだから協力しないとな!

「よし!そうと決まればどうする?俺は誰かと共闘した事がないから分からない」
「俺もだ」

 ゼルスの言葉に俺は同意する。

「仲間の闘い方が分かっているなら、その攻撃を敵に与えやすくするためのお膳立てをすれば良いと思うわ。それを前提にして、あとは自分のしたいように闘う事ね」
「分かった」

 それにしても俺達が喋っているのに、魔王は攻撃してこないな。

「おい、魔王。どうして攻撃してこないんだ?」
「強者だからな。弱者が生きる為に知恵を出し合っている…その光景が面白いのだ」
「そうとう腐った考え方だな」

 俺は苦笑いするけど、その考えのお陰で冷静に作戦を練る事ができた。魔王の傲慢さに感謝しないといけないな。お礼は言わないけど。

「それじゃあ私からね。まずは全員に身体能力強化の魔法と全属性魔法無効化の魔法をかけるわ」

 キーサが言った次の瞬間、体に力がみなぎるのが分かる。

「うおっ!これはすごいな!」

 俺の横でゼルスも驚いている。

「さて、私は大規模な魔法を放つ準備をするから、その時間稼ぎをしてくれる?」

 キーサが小声で言う。

「任せろ」
「もしかしたらキーサの魔法が完成する前に魔王を倒してしまうかもしれないけどな」

 そう言って俺達は笑い合う。

「楽しそうではないか。その理由を聞かせてみよ」
「強者に教える必要はない。行くぞ!」

 そう言って俺とゼルスは魔王に突っ込む。でも協力するので、俺はゼルスが攻撃をしやすいように立ち回り、ゼルスは俺が攻撃しやすいように立ち回ってくれる。後ろではキーサが大規模な魔法の準備をしている。
 俺が魔王の顔めがけて殴る。魔王は俺の拳を防ごうとしたけど、俺の動きはフェイントで、俺の近くにいたゼルスが魔王に斬りかかる。魔王は闇の魔法剣で防ぐけど、今度は俺が魔王の腹を殴る。しかし魔王は後ろに跳んで距離をとった。

「闘い方を変えたな!?」

 驚きながら魔王は叫ぶ。

「俺達も馬鹿ではないって事だ」

 実際にこの闘い方を考えたのはキーサだけどな。
 俺達はさらに攻撃を続ける。俺の攻撃がフェイントでゼルスが攻撃をし、実はそれもフェイントで俺の攻撃が本命という、なんだかややこしい攻防が続いている。魔王にとっては、どちらの攻撃が本命なのかが分からないから、全ての攻撃を防ぐか捌くしかない。でもキーサの魔法によって俺達の動きは強化されているから、魔王の疲労具合も半端ない。

「く、くそ!面倒な闘い方にしおって!」
「ふ、強者に余裕がなくなってきたな」
「おのれ!」

 それにしても魔王は自分を強化する魔法を使わないな。使えば有利になる可能性が高いのに。もしかしたら魔王としてのプライドがそれを許さないのかな。それとも使えないのか。

「さあ!どんどんいくぞ!」

 俺達はさらに攻撃を続ける。ゼルスのフェイントによって俺の拳が魔王の腹に当たる。俺のフェイントによってゼルスの斬撃が魔王の腕を斬る。ゼルスの武器は剣だから、魔王の腕が半分ほど切断される。

「ぐっ!!」
「な!回復できるのか?!」

 ゼルスが半分切断した魔王の腕が回復する。明らかに魔法の力だ。

「この程度の攻撃で負けるわけにはいかない!」
「それなら、それ以上の攻撃を与えるだけだ!」

 もしくは回復魔法が追いつかないほどに素早く、的確に魔王にダメージを与えていく事か。

「…く…貴様達、何かしたか…?」

 数分が経った頃、魔王が睨みながら言う。

「なんだ?油断させるための言葉か?そんなものは意味がないぞ」
「いや、俺がしてきた事の効果が出始めたんだろう」

 ゼルスは嘘だと思っているけど、魔王の言葉はおそらく本心で、それは俺のせいだ。

「俺が触れるたびに魔王の生命エネルギーを吸収していたんだ。だから俺はとても元気になっていっている」
「お前、そんな事ができるのか」
「ああ、言わなかったけどな」
「貴様のせいか!」
「ははは、疲れてきただろ?お前の生命エネルギーは多いから、吸収するのに時間がかかってしまったぞ」

 普通の人間の生命エネルギーなら、暇つぶしに全ての生命エネルギーを吸収する事も可能だ。ドラゴンの生命エネルギーだって時間はかからない。問題は触れている間しか吸収できないという事だ。それに加えて魔王の生命エネルギーは多い。だから時間がかかってしまった。
 目に見えて魔王は疲弊している。いい感じだ。
 そんな攻防が体感的に十数分続いた頃、後ろの方から強い気配を感じる。その気配の正体はキーサだった。

「準備ができたわ!2人共、魔王から離れて!」

 その言葉を聞いた俺とゼルスはキーサの元まで一瞬で戻る。

「ハハハ!!我に魔法が効くと思っているのか?」

 疲弊はしているけど、魔王は笑う。よほど闇のバリアに自信があるんだろう。

「ふふふ、避けないつもりね。これで避けたら恥ずかしいわよ?…逃がさないけどね」

 キーサが言った直後、魔王が白い半透明の壁に囲まれる。天井もあり、部屋のようだ。広さは6畳ほど。

「…部屋か?」
「あれは部屋じゃない。牢獄よ」
「こんなもの、壊してやる!」

 魔王は怒鳴って闇属性の魔法を放つ。しかし壁は壊れない。
 次に天井、壁、地面に魔法陣が浮かび上がる。直後、虹色の光線が魔法陣から放たれた。

「グアアアアッ!!」

 白い箱の中から魔王の悲鳴が聞こえる。

「それで、どんな魔法なんだ?」

 約1分ほど続いても光線が放たれ続けるので、聞いてみた。

「対象を完全に閉じ込めて、全属性を融合した光線で攻撃する魔法よ」
「効果時間は?」
「1時間ってところね」
「長いな」

 1時間も待たないといけないのか。

「仕方ないわよ。相手が魔王だもの。生半可な魔法じゃ傷をつけられないわ。それはさっきの攻防でも分かったし」
「それもそうか」

 そう思い直して、それから1時間待つ事にした。

 1時間後。光線が消え始める。

「嘘だろ…」

 光線が消えた場所には魔王がいた。しかし五体満足な状態ではなく、肩から両腕がなく、両足も膝からなかった。さらに胴体のありとあらゆる場所に穴が空いている。

「ぐ…ぐぅ…」

 魔王は呻く。あの姿でまだ生きているのか。

「ん?回復はしないのか?」
「私の魔法の効果よ。あの魔法は私の魔力を使うんだけど、それと同時に対象者の魔力も使うの。だから回復に使う魔力がないんだと思うわ」
「自分の魔力で攻撃されるってことか。怖いな」
「魔力が多い相手からすれば、嫌な魔法かもね」
「貴様ら…よくも我を…こんな姿にしたな…」

 言葉は怒っているけど、姿があんなだから怖さはない。

「とどめをささないのか?」
「いえ、するわよ?ただ、これで終わったと思ったんだけどね」

 キーサがそう言うと、魔王の体が白く光り始める。

「何が起きてるんだ?!」
「あれはキーサの魔法なのか?」
「ええ。魔王は闇属性が得意そうだったから、光属性で消滅させようと思って。これは相手に光を纏わせて、その光で浄化するように消滅させる魔法よ」
「貴様ーーーーーッ!!絶対に…絶対に許さんぞ!!」

 魔王は怒鳴るけど、光は消えない。やがて魔王の姿が消えて、白い光や半透明の白い壁も消えた。

「終わったのか?」
「案外、呆気なかったな」
「それでも経験値は多く入ったみたいだぞ?」

 俺のレベルは576→586に上がっていた。

「確かに上がってるな」
「私も上がってるわね」

 どうやら2人も上がったようだ。まあ、今までに闘った相手でダンジョンマスターの次に苦戦したからな。ダンジョンマスターに至っては勝ってもいない。

「さて、これからどうする?」
「どうする、とは?」
「国に残っている魔族の対処だ」
「そこは人族の王様に任せたら良いんじゃない?難しそうな話は、そういう話が専門の人に任せるのが一番よ」
「それもそうか」

 キーサの言葉に納得する。それから俺達はギルドに瞬間移動して帰った。
 ちなみに魔王がいた場所には命石があったから、それを持ち帰る事にした。これが倒した証になるだろうか。
しおりを挟む

処理中です...