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4章 入学試験編 1次試験
36話 土の味
しおりを挟む「平民達がまた戻って来ます」
執事のその一声でさっきまで喋っていた奴らも全員こちらを向く。
やっと覚悟を決めたようだな。俺は横一列に並んでいる他の奴らより少し後方でその報告を聞く。
「一人を囲むように固まって行動しております」
固まったらなおさら的になるじゃないかーーバカなのか?バラバラで動いた方がまだましじゃないか……ま、所詮は平民と言ったところか。
「あと1分程で森を抜けて来ます」
「よし!全員もう一度用意しろ、威力はさっきよりも高くして構わん!!」
また、同じように皆が一斉に魔法、スキルの準備を始める。火属性水属性など多種多様な属性の魔法、スキルが俺がざっと見た限りでも50以上ある。
これだけの種類があればどうやっても防ぐことは不可能、多少死人が出たところでどうせ隠蔽されるんだ。
しかし、これだけの人数全員が俺に同意しているわけではない。これだけの人数がいたらそりゃ平民を擁護するやつだって出てくる。人は全員が同じ思考を持つわけではないからな。
じゃあなぜ皆一同が俺の指示に従うか……それは保身のためだ。
この人数の中俺の意思に賛同するのが約70%そして反対が20%どちらでもないが10%だ。だが、ここにいるやつらは全員これから学園に入学する。
ここで正義ぶって俺に反抗するればその70%の奴らからは相手にされず、どちらでもないの10%からは陰口を叩かれ味方は20%のやつと思うがこれを見て、その20%中の10%はこちらに嫌でも傾く。
最後の10%もそいつのようにはなりたくないと思い心の中では反抗心があるもののもう反抗することはない。
結局皆、自分が可愛いのだ。俺たちに無関心などこぞの公爵様レベルにならなければどうすることもできない。
さて、出て来た瞬間お前達の最後だ。今年は残念ながら不合格だ、また来年受けるといい。
俺は心の中でほくそ笑む。あと10秒だ。
心の中で10秒をカウントダウンしていく、そして残り1秒となった瞬間。
「全員放てぇええええええええええ!!!!」
刹那、先ほどよりも高火力な魔法やスキルが上空を弧を描くようにあの森めがけ飛んでゆく筈だった。
そう、魔法やスキルは確かに上空に達し、半弧を描くとこまでは行った。その瞬間、地面に引き寄せられるように、飛んでいるスキルや魔法が垂直に落ちてゆく。
本来簡単に届くはずの距離にいくら飛ばしても何かそこに壁があるかのように草原の途中で何かにぶつかったように静止し、そのまま落ちる。
その光景を尻目に、平民達は徐々にこちらへ近づいてくる。俺たちの魔法、スキルの嵐をまるで意に介していない。
俺は焦る。焦ったら負けだといつも己に言い聞かせているのにこういった時、いつも焦りが先に出てしまう。
「くそが!!休むな放ち続けろぉおおお!!!」
俺の怒号で皆、己が放てる全てを振り絞る。
だが、それでも奴らに届かない。そして、平民共はどんどん接近しているにも関わらずこちらの魔法やスキルが落ちる場所が徐々にこちらに寄って来ている。
彼奴らの誰かのスキルか……いや魔法ーーこんなの見たことないぞ!!
魔法が飛び奴らに届く前に垂直に落ち、地面に穴を開ける。威力がなくなっているわけではない。
その心境は他のやつらも同じだった。自分達が放った魔法やスキルが相手に届く前に落ちる。相手が近づいて来ているにも関わらず、落ちる場所が徐々にこちらに寄って来ているのだ、皆焦りが出てくる。
得体のしれないものが近づいてくるのは焦りから恐怖心へと変化する。自分が見たことも聞いたこともないものを目にした時人は硬直する。
そう、さっきまで魔法やスキルの被弾音でうるさかったのがパタリと止む。
焦った時、人というのはまだ何とか普段に近い動きは出来るが、それが恐怖心に変わった瞬間、いつも当たり前のようにしていたことが出来なくなる。
いきなり皆が一斉に発動するのを止めたのだ。
「おい!!何してるそんなすぐ魔法やスキルが使えなくなるわけないだろ!!」
すると、一人の女が叫ぶ。
「違う!さっきから徐々に体が重くなっていくの!指先から徐々に……」
そう言い、女は膝を崩し、そのまま泣き崩れてしまう。
あ、重くなるだと……そんなことあるわけーーその瞬間。
俺の体も指先から手首に向けてに重石を徐々につけられるかのように重くなっていくのが感じられる。
ハッと前を向くと平民共はもう半分くらい近づいていた。残り約100mといったところだ。
だが、なんなだこの重さは。
クッソーー
こうなったら……
俺も魔法を放とうとした刹那。
さっきまでは指先から徐々に重くなっていたのが急に、俺の体に誰か飛び乗ってきているんじゃないかと思うほどの重さがかかる。
いきなりだったので、重さに耐えられず両手を地面に付き四つん這いの状態になる。
咄嗟に手を出さなければ危うく顔から突っ込んでいるところだった。そう思うのもつかの間、顔をあげ皆の方を見てみるとーーそこにはとんでもない光景が浮かんでいた。
全員地面に引き寄せられるように俺の四つん這い状態からさらに地面に手足頭が食い込み、誰一人顔すら上げられない状態だ。
約100人が地に突っ伏している光景は神が降臨したかのように洗礼されていた。
そんなことを思っている内に俺も徐々に顔を上げられなくなって行く……
うぐぅーー誰かに顔を抑えられ押し込まれて行く感覚に襲われる。事実、気づくと地面にめり込み顔が半分くらい埋まっていた。
それからはもう体の一部分も動かせないくらいに重くなり聞こえるのは呻き声だけだった。
そして、数人の地面を踏みしめる音が聞こえ俺の横を通過する……
俺は何とか最後の力を振り絞り、顔を上げる。
するとそこには平民達の姿があった。震える唇を噛み何とか口を開ける。
「な、なん……なんだこの……魔……法は……」
その声に真ん中にいた男のやつが俺の方へ近づき、ポケットにある合格印付きのスクロールを奪い、答える。
「そんなことは自分で調べるといい。それとスクロールは貰って行くからーーじゃな」
それだけ言うと6人が俺の横を通り過ぎて行く。
「あ、そうそう。次こんなちょっかい出してきたらこの程度じゃ済まさないから」
そう言い残し、去って行く。
ーーーーーーーーーーーー
「おい……何だこれは!!」
私達がゴールに着いた時その異様な光景はそこに広がっていた。約100人の受験生と試験官(貴族共の執事)が地に突っ伏し、地面の隙間から僅かに入る酸素を頼りに生きながらえている。辺りからは呻き声やすすり泣く声がまるでスピーカーで音量を上げたように煩く聞こえた。
ゴールしている生徒も何人かおり、その中に平民の受験者5人の姿も見える。
私は何が起きているのか一切の迷いなくその5人の元へ行く。後ろからシェルも着いてくる。
「おい、何があったんだ。これは誰がやった?」
私と戦ったバルトと言ったっけかそいつが答える。
「知らないぜこんなのーーアキトが勝手に一人でこの状態を作り上げたんだ。俺達も見ていることしかできなかったんだ」
「魔法なのか?これは」
「分からない、ただ魔法ではないと思う。スキルの方が濃厚だと私は思う」
「魔法じゃないにしろ、何であの子達にかかっているスキルが解けないの~?」
シェルの質問に誰一人答えない。否、答えられないのだ。ここにいる誰一人知らないのだ。
「そういえば、そのアキトはいないじゃねぇか」
「アキトくんならさっき一人の貴族のスクロールを持ってスタート地点へ行ってしまいました」
なんで、こう言う時に当事者がいないんだよーーそれになぜもうゴールしているのにも関わらずわざわざスクロールを持って行く必要があるんだ?
私達は移動し、まじかで生徒達を見る。
これは、やはり重力のスキル……私に使ったものの別のやつだろう。私の時もそうだったがこのスキル嫌なほど持続時間が長い。だが、私の場合はだいたい20分くらいで終わったーーだが、この子達はもう1時間はこの状態だ。
今は考えることより、手を動かす方が先か。
「シェル!!回復を頼む。土は私が何とかどけるから」
「分かった~」
それなりに訓練をしている奴らだからまだいいものの。これだけ低酸素状態が続いていたら下手したら死んでるぞ。
クッソ!!あとで覚えておけよ。
今スタート地点にいるであろうアキトに向け、心の中で強く思う。
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◇◆◇◆◇◆◇◆◇
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