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5章 強くなる為に……
45話 ご褒美
しおりを挟む精神を集中させ、地面に落ちている砂を握り自分の前に散らせる。砂が空中にある内に私はその砂で矢を生成する。
しかし、出来た矢は握ると簡単に折れてしまう。
また失敗だ。
そして、また精神を集中させ砂を握り砂を放る。矢を生成し……また失敗。このループをかれこれ1時間以上繰り返している。この矢を生成するスキルは燃費がいいのでこのまま続けても1日は持つ。だが、同じことの繰り返しは集中力を散漫にし徐々に疲労感が襲って来る。
その疲労感に負けふらっと体の重心がおかしくなり倒れかかる。このまま行くと地面に激突だ。それでもいいかなとさっきから全く出来ない自分への苛立ちを痛みで消そうとする。
「ユイよ大丈夫かの?」
私は地面に倒れる前にシロネが両手で支えてくれている。この可愛さに元気を貰い何とか自分で立つ。
「ありがとう。シロネちゃん」
「ユイよ、少し気張りすぎじゃ集中力が最初から乱れすぎじゃもっと落ち着くのじゃ」
「ちょっと、張り切りすぎた」
「気をつけるのじゃ」
私がもらっている課題は矢の生成技術の向上。どんな物質、物体からでも矢を作れるように、そしてその状況に適した矢の強度や魔法、スキルの付与ができるようにと言われている。私は弓しか使えないので、矢が無くなったら終わり、なのでその命綱である矢の生成技術を高めろと言われている。
この1週間では無いが、最終的にはチリや誇りなどの僅か数ミリのものから生成できるようになれと言われている。
シロネちゃんは1時間おきに色々な人のところでみんなの面倒を見てくれる。最初特訓に付き合うって言われた時はバルトじゃ無いけど私達皆少なからず疑いはした。だけどここまで的確にやられちゃうと疑ったことへの自責の念が残る。
「ユイは基本、他の子達と比べて冷静な判断をしっかりでき、攻撃にもむらがない。なのでちょっと厳しめの課題になっとるのじゃ」
シロネはそう言うが、私は納得が出来ない。
「でもアキトには敵わない……」
「まぁ、アキトは確かに強い。じゃがあやつもまだ子供みたいなところがあるからのーーまだまだじゃよ」
強さには、やっぱり勝てないみたいだ。
それに、アキトだけでは無いバルトやトルスは火力で言えばこの中でトップを争えるほどだろう、エーフやエルは繊細な魔法、スキル能力を持っている。みんな強いのだ。
私は強くならなければならない。絶対に……
シロネは不思議そうにこちらを覗く。
「な、なに?」
「ユイは考えすぎじゃ、脳みそを空っぽにしてバルトのようになれ。あやつはいい意味で空っぽじゃからの」
そう言われ、バルトを思い浮かべる。あいつには絶対なりたく無いが、確かに今のまま考えすぎて失敗するよりかは、一旦プライドを捨ててやってみるしかない。
私はもう一度息を整え体全身の力を抜き。一旦考え事を全て放棄し、体に染み込ませた矢の生成スキルを再度挑戦する。
砂を握り締め、目の前に散らす。ゆらゆらと落ちる砂にスキルを発動し徐々に砂が集合して行き矢の形へと変化していく。ここまではいつも通りだ、問題はここから。矢を生成するのには2つの手順があり。1つ目が矢を生成するときに付与魔法を流し込むことで出来上がり後の矢のグレードを左右する工程。2つ目が出来上がった矢の上からまた付与魔法を矢に纏わせる工程の2つがある。
基本、矢を生成するものはどちらか片方をすれば大概の場合それなり良い矢が完成するのだが、今回は砂で1粒が小さい。その場合は2つの工程を踏まないとちゃんとした矢が完成しない。
私は矢が出来上がる前に付与魔法を流し込む。今回は作るだけなのでここに防御系統の魔法を混ぜることにより矢が完成する。そして、さらにその上から付与系、ここでは耐久力をあげる魔法を矢に纏わせる。さっきまではいつも通りに高い魔力を込めれば良いと思っていたのだが自然とその大きさにあった魔法を少しずつ付与している。
考えを捨てたことで体が覚えている最適な魔法付与をこなしてくれるのでかなり良い矢が出来そうだ。
そして、1本の矢が出来る。作るまでに時間がかかったがこれからその時間は短くすればいいし。まだ、この出来栄えでは木にすら刺さらないだろう。
ここからは何:何で付与魔法を配分するかを少しずつつ変えて試していかなければならない。そして、この比率をいつどんな時でも直感でわかるようにしないといけないんだから骨が折れる。
だけど、自然と私はさっきよりも気持ちが良かった。
気づけば2時間以上経っておりいつのまにか、シロネの姿も無くなっていた。
だけどまだ、始まったばかり……これから1分、1秒無駄に出来ない。
ーーーーーーーー
「はぁーはぁーはぁー」
僕達は今魔法、スキルの威力を上げたり、敵に迫られた時の対処方などやるかと思っていたのだ……
僕は汗で滑るメガネを持ち上げ初期位置に戻す。これだから暑い時のメガネは嫌になる。日頃悪態つくことなどほとんどないのにこの疲れからイライラをぶつけてしまう。
今の温度は何度だろうか、かなり暑い。朝来た時はあまり感じなかったのに昼近くになるにつれ気温がガンガン上がっていったのだ。
「エルー休憩はまだ先だよー」
そう言って、スピードを落とした僕のところまで来て喝を入れる。エーフだって疲れてるのに……情けない自分にさらに嫌気がさし僕は前を向きスピードを上げる。
僕達は個人特訓ではなく2人で同じメニューをこなしている。僕らは同じようなタイプだかららしい。
そして、今僕らはこの砂漠帯をランニングしている。
シロネ曰く、後衛の魔法職系の奴らは足腰が弱いらしい。確かにその通りなのだがそこまで足腰が重要なのだろうか……だったらまだ近接戦闘の特訓をした方が良い。
と、思っていたのだが、すぐシロネに看破された。足腰を鍛えるとどんな体勢からでも安定して良質な魔法やスキルが放てるという。そして、機動力がある魔法職は強いらしい。
そう言われてみれば、確かに突っ立ている魔法職よりも機敏に動かれる方が厄介だ。それに今度は1対1が濃厚とあった。ならば余計機動力が求められるだろう。
自分の考えの未熟さを知って、僕もまだまだだなと思い知らされた。
そして、その足腰を鍛えるのが砂漠でのランニングだ。ここの砂は海辺の砂浜のような砂質で、足を踏み込むと雪の中に足を入れたように持ってかれ上手いこと走ることが出来ないし、体力を普段の5倍くらい持っていかれる。この暑さもあり余計にだ。
まだ、1時間も経っていないのにもう足が小刻みに震えている。ここまで体力がなかったとは思いもしてなかった。
「お!しっかりやっとるかのー」
2人で走っていると目の前に突然シロネが現れ、僕はその驚きで疲れていた足が解れ顔面から転んでしまう。
ふべしっ!!
そのまま、顔が砂の中に埋まり大事には至らなかったが砂の中はかなりの高温で顔面が軽い火傷になってしまった。
「大丈夫か?エルよ」
僕は顔を上げ立とうとするが、その小刻みに震えていた足に限界が来たのか上手く立てなかった。
また、転びそうになったところをエーフが肩を貸してくれる。
「ありがとうエーフ」
「気にしないで~」
エーフも同じだけ走ってるのにまだ余裕がありそうだ……エーフだって疲労は溜まってるだろうに。
「で、どうじゃの進行具合は」
「まだまだ全然ダメだよシロネちゃん」
そう、僕らが与えられた課題はこの砂の上でランニングを10kmを3セット魔法、スキルによる身体強化はなし。しかもそれが終わったら次の段階があるらしい。僕らはまだ10kmの1セット目の途中だ。
「ふむ……ちょっと2人には荷が重かったかの?」
そう言って、含み笑いをするシロネ。からかった意味で言ったのだろうーーこれぐらいも出来ないのかと……
すると、エーフがプルプルと横で震えてる。まさかあの超温厚のエーフがついにキレるのかと僕は少し畏怖していたが杞憂に終わる。
「1ついいかな?」
「なんじゃ?」
「この特訓が完遂できたらご褒美が欲しいです!!」
そう目を輝かせながら言う。エーフは昔からそうだった、最初あった時は話すのが苦手なのかなと思うくらい静かな子だったけどこのご褒美や可愛いものには目がなくそう言った時だけまるで別人かの如く異様に喋り、やる気を出す。こうなったエーフは誰にも止められなくなる。
「うーむ。可能な限りだったら構わないのじゃ」
シロネはそう言ってしまう。これは……エーフをやる気にしてしまった。こうなったエーフは絶対に完遂する。これまでの経験でこうなったエーフが途中で投げ出したところを見たことがない。しかも……
「……じゃが、2人が出来たらにするのじゃ!!」
シロネが言い放つ。何を言ってくれたんだ……こうなったら僕を殺してでもエーフは何が何でもやる。これに付き合う僕は果たして1週間生き延びられるのだろうかーー
「よっし!!やるよー!!」
エーフは普段絶対脱がないローブを脱ぎ捨て帽子もとる。全てアイテムボックスにしまい。ラフな格好になり俄然やる気を出す。
「で、褒美は何にするのじゃ?」
そう、エーフのもう1つの怖いところはそのご褒美や可愛いものにかかる難易度でご褒美の要求度や可愛いものへの執着心が変わってくる。
さぁ、何を望むのか……今回は過去1難しいと言っても過言ではない。
「……」
「シロネちゃん1週間の所有権!!」
目を輝かせながら大声で言い放つ。
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